第一幕 ヴィランの申し子 ④
オレが持っている情報端末は市販のモノではない。
この学園に『百円』で売られている名も無き売れ残り地雷品である。
通話は問題なく使えたり出来るが、フィルタリング機能がかけられているのか検索機能を使った瞬間に電源が落ちてしまう。
誰がなんと言おうと欠陥品で誰も買おうとすら思わない。
「…………あれ、なんか煙が出てる?」
まず目の錯覚を疑ったが、どうやら完全に壊れたようだ。
機種の性能も千年前と同じらしいから仕方がないといえる。
どうして未だに生産されているかは不明。
不思議と端末自体が揺れている気がする。
「ちょっと春公? そんなに手をぶらぶらさせてなにしてるの?」
不審人物に声をかけるような声に思わず振り返ると「げ」と顔を引きつりそうになった。
東橋鈴乃。今日下手したらこの女に殺されていた大和撫子は下駄箱の傘置き場に座っていた。
「え? おまえこんな時間までなにやってんの? ひまなの?」
少しだけ語尾を強めで聞くと、鈴乃は苦笑した。
「……これから忙しくなるから、ちょっと春公と話しておきたいことがあった」
「忙しいって正体不明なテロリストの捜索か? お前まで駆り出されるのか?」
「それじゃない」
テンポを外した手から壊れた端末を落とした。パリンとガラスが割れ取り返しのつかない音に顔を青くする。
「…………私のお古やろうか?」
「遠慮します」
見かねて珍しく同情する鈴乃に血の涙を飲んで断るオレの顔は盛大に引きつっている。
「……忙しいってまさか『家』絡みか?」
「そうね。本家がなにかとバタついているから、代行で都市を離れる事になった」
「また漁業にでも参加するのか?」
子供の頃に鈴乃の付き合いで都市の外に出て、漁業船に乗り魚を釣り合上げた事がある。また行ってみたいなと期待を込めて、的外れな事を言う。
「バカ違う。あほ」
「お嬢様の語尾力じゃないんだよなぁ」
「一ヵ月間の視察でⅦ番目都市『メルカバ』に出向するように言われたのよ」
「……よりによって軍事都市のメルカバって完全に押し付けられてるじゃないか?」
聖來都市の島国から北極よりに位置する都市メルカバに住む住人は必ず軍事教練を受けさせられると噂された不自由な都市だ。
なんでも屈強な精神は心根から鍛える事がヴィランに付け込ませないという脳筋丸出しのなんちゃらと言っていたようだ。詳しい事は知らん。
「……私にとってもいい機会だったからうけたんだけどね」
「いい機会?」
あんな不自由な環境に放り込まれる事のどこにプラスな要素があるのだろうか?
「自分の能力を高めるきっかけになるって事よ」
やはり戦闘狂の考えは理解が出来なかった。
「もう必要なくない? 今でも十分に……」
化け物と口を滑りそうになるのを抑えるが、オレの仕草に察した鈴乃は否定する。
「春公もあの巨人を目の前で見たでしょう?」
「……見た」
「あの時の私はあれを目の前に『なにも出来ない』という確信があった。私の超能力は『電流操作』。どんな敵も弾丸も触れずに排除できる絶対な能力だと思っていた。そんな能力を駆使してもあの巨人にダメージは与えられない」
あの巨人に悪討武器の対抗手段は使えなかった。
あの時、銃火器やら超能力の雨が降ったのにも関わらずに巨人の足を止めさせる事は叶わなかった。
あのままオレ達が止めなかったら、この都市はどうなっていただろうか?
「私が私である為に今よりも強くならないといけない」
お前になにか憑いて盗りこまれそうになっている主人公かっとツッコみたいが空気を読んだ。
「……お前は何を倒そうとしているのか、オレは知らないが──もうオレを無理やり巻き込むのはやめろ」
「ごめんなさいね。これも貴方が私に勝ち逃げするからいけないのよ」
「超能力無しなら一度だけ立ち会ってやる」
あの殺人電流を少しでも喰らったら確実に死ぬ。
「そしたら私は必ず負ける。勝てない勝負には挑まない」
「……必ず負ける事はないだろう」
「どんな攻めも貴方は見抜き、利用して跳ね返えしてしまうそんな規格外に人知を超えた超能力以外の対処法を私は持っていない」
いやそれは過大評価じゃないかなぁ?
「それに超能力は遺伝する」
「いきなりなんだ?」
「貴方の父は超能力だった。その血が流れている貴方が無能力者なんておかしい」
「おい。子供の頃に凄く期待して絶望された記憶を思い出すからやめろ」
オレに超能力が無いのは確固たる事実だ。
オレの父の超能力は『体内時間の変動』。時の流れを遅く感じさせる事が出来た。
かつて先生に波形した超能力があるのではと疑問を抱かれたが、その傾向は見られなかった。
「……認めたくないけど、貴方が無能力者なのに、貴方と比べてしまう」
東橋天才後継者候補の東橋 鈴乃と有名な家系でもなんでもない赤霧 春公。
傍から見れば比べる事すらおこがましいが、鈴乃に初めて敗北を下したのはオレだ。
ライバル視されているのは嫌ってほどにわかってしまう。
「さっきも言った通り、私は勝てない勝負はしない。死にたくないから。けど貴方はどんな敵でも立ち向かう勇気を持っている」
「どうしようもない。逃げられない状況なら仕方ないだろ」
「……けど私とどうしようもない状況に追い込まれたら?」
あなたは逃げるの?
ふと想像もしたくない場面を連想してしまった。
頭の中では鈴乃の攻略法を4通りほど考えたところで思考をやめてしまう。
「逃げるに決まってるだろ。いくらなんでもファイターのオレが触れられない相手にどう対処するか考えつかないよ」
「本当にそう思っているか疑問だけど、いつか私は貴方を完膚なきまで叩きのめしてあげる」
「だからね? 何度も言うけどお嬢様のセリフじゃないよね? 巻き込むのをやめてくれって言ったよね?」
勘弁してくれっと嘆き零そうとした時だった。
『微かに地面』が揺れる。
まるでスライドしているかのような錯覚に、ここ最近の記憶が再臨する。
巨人の踏み足は周囲の地面を揺らしたよう、いやこの揺れはそういう振動の揺れではない。
地面そのものが揺れている自然のモノだった。
「これって地震だよな?」
「……そうね。けど都市内で地震を経験するのは都市建設してから初めてじゃない?」
都市の中心区画付近はどういう理屈か地震が起こらない。
その理由が地下のプラントにあるのだが、この時代に生きる世代の者からすればもう当たり前の事なので‘詳しく知ろうとしない’。
千年前の人達からしたらどうとでもしない地震だが、今の時代の都市人はこの揺れでさえパニックを起こしかねない地震に違いない。
現に学園の中から悲鳴のような声が響いている。
「それにしても昨日の停電にテロリストに警戒レベル《レッド》に地震か」
「……私が『メルカバ』に出向に行っている間に解決して貰いたいわね」
だなっと無意識に同意しようとしたが、むかついたのでやめた。




