第一幕 ヴィランの申し子 ①
摩天楼に赤い霧が空を照らす。
避難所から徐々に帰還している大人が珍しい光景に瞠目し、小さな子供達が瞳をキラキラさせてはしゃいでいた。
『アインベルン』。ネーミングセンスがちょっとおかしな存在は聖來都市の巡回を行っている。
「『……動きはよくなっていますが、調子は悪いってところでしょうか』」
一通り、試運転を行っていたら、頭の中で透き通る声が淡々と告げた。
自分の身体にもう一人がいる状況に慣れないのは当たり前だ。
赤霧春公の人生で宇宙人と接触するという経験はある筈がなく、想像もしていなかった。
「矛盾しているようで、的確だな」
アインベルン状態の身体能力が身体にようやく馴染んだが、それを補う体力が追いついていない。
これでは短時間の戦闘でリタイヤさせられるのは明白だった。
「『やはり後遺症でしょう。解放。本来消費する筈がなかったハルヒロさんのエレメンタルを強引に引き釣り出した事によってエレメンタルが安定していません。時間が経てば次第に症状は改善されると思いますが、出来れば今後の使用は必要最低限にするべきです』」
「お、おう。そうします」
ここまで饒舌に話すセイラは言外に責めているように感じるのは気のせいだろうか?
「実際、なんか本調子じゃないのは身に感じてるよ。先見の目もいつもより外れるしな」
「『ハルヒロさんのそれは気のせいでは?』」
「いつになく毒吐くね?」
オレが持つ『先見の目』は超能力ではない。観察力を鍛えまくって生まれた技術である。
初見殺しの技に弱いが、戦闘が続けば続くほどに相手の動きが手に取るようにわかる目なのだが、最近は途中でブレが発生してよく躓くようになった。
「まあなんとかなるだろ。これから先生みたいな巨大生物を相手にする事はあるわけじゃないし」
「『……』」
おいやめろよ、そこで黙られると不安になるだろ!
いくらなんでもヴィラン発生率が低い今の現状でそうそう大事件なんて──
──ズシンッっと津波のように摩天楼の照明が消えた。
「……な、なんだ?」
この地区だけかもしれないが、一瞬だけ停電してすぐに復帰したようだが、原因はなんだろうか?
今の時代に台風でも雷でも停電などそうそう起こらない。
鬼木先生並みの災害級のヴィランが現れた?
それなら警報が鳴っている。
まさか『インビジブル』?
それこそありえないが、嫌な予感は今まで外れた事がない。
「『ハルヒロさん』」
「もしかしてこの停電の原因がわかったのか? 流石はセイラエモン──」
「『そろそろ気になっているドラマの始まる時間なので帰りましょう』」
「……なんか真剣に考えてたオレが馬鹿みたいだ」
よくよく考えれば、ただの停電。
事件性などなく、ただの事故なんだろう。そう思うことにした……がそう甘い事などない。
周囲を飛び回っていたドローンが機能停止したのか一斉に電源が落ち、ビルの窓に激突し、中には人混みに落下し始めた。
「──チッ」
思わず舌打ちを吐きながら、全身のバネを跳ねらせ、人混みを襲うドローンを追う。
飛び道具は持ち合わせていないので撃ち落とす事は不可能。
やみくもに落下しているドローンを『先見の目』を酷使するように落下地点を割り出す事に成功した俺は人的被害を無くすことを優先する。
落下中のドローンを追い越し、近くにあったバスを踏み台にしてドローンの側面を右手で殴り飛ばし、喫茶店の看板を破壊した。
ちょうど外に出ていた店長らしくおじさんはぽけっとしていたが、気にしない事にする。
「『ハルヒロさん──【エレメンタルアワー】』」
セイラの声に何事かと上空45°に一機新たに墜落していた。
あれは流石に間に合わないと一瞬諦めかけたがセイラの魔法により右手に銀色のビー玉が顕現された。
なぜここでビー玉を? と考えている余裕はない。
幼い頃、師匠が愛用していた技に憧れて練習した事がある。
当時は上手くいかなかったが、今のアインベルンの性能ならいける。
指弾。
親指の力でビー玉を飛ばす。
いくらアインベルンの性能でも弾丸のように撃ち抜く力は出ないが、そもそも撃ち抜いても意味はない。
ドローンの落下上には不幸にも子供がいる。
ならば落下位置を単純に逸らせばいいだけだ。
再び、『先見の目』使用してビー玉を撃ちだすと、見事に命中し、警備ドローンは自己顕示力の塊の誰かの石像にぶち当たり誰かの首を落とした。
「────よし。とにかく問題なし」
なにかと計算は狂ったが、近くにいた人に被害はない。
他の地区でも同様な事態が起きていない事を祈るしかないが、実際の被害は予想以上になっている筈だ。
都市中の停電により、空を飛んでいる警備ドローンに障害が起こったのか?
それとも鬼木先生の事件の後遺症による異常か?
それとも……、
「セイラ。今日見るドラマの再放送は延期でいいな?」
「『当然です』」
ドローン落下による事故に現場は騒然としている群衆から注目を浴びる中で、店の看板を破壊した店の店長の視線から逃れるように空を駆け、出来る限り人命救助に向かった。
医療的知識はセイラからの指示に頼り、エレベーターに閉じ込められた人を力技で救出したり、涙ながら感謝の言葉を頂戴された。
一向に落ち着いてきたが、未だに原因の究明は明らかになっていない。
「これっておかしいよな?」
「『そうですね。誤魔化す言い訳を考えていそうですが……』」
どこか歯切れが悪いが、気持ちはわからなくない。
わかっている事を上げるなら……この事件がこのままで終わるとは到底思えないという確信だけだった。




