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オレとカノジョのヒーロー活動  作者: 赤城青
第一章 透明の悪意
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第四幕 偽善の誓い ①

 オレ達は世界に殺される。

 そんな事を昔に叫んだ人達は等しく殺された。

 世界には悪意が溢れている。世界には醜悪な善意が振り撒かれている。

 無邪気な正義もまた等しく殺された。

 オレ達はどうせ世界に殺されるのだろう。

 周囲の有象無象もオレ達に死んで欲しいと願っているのは知っている。

 昔はそうでもなかった。近所付き合いも良好で、友人だっていた。

 毎日毎日、くだらない世間話を話して、たまにゲーセンで入り浸り、ご近所さんからたまに相談されたりしていた。

 だが蓋を開けてみれば、それら全部はまやかしだった。

 ただ父親が『ヴィラン』に堕ちたという理由、ただそれだけで天と地ほど違った。

 ある元友人はオレの情報を守護者に告げ口して、結構の付き合いがあった元友人には「関わるな」と冷たい声で言われ、ある近所の人にはゴミを投げつけられた。

 別に不幸自慢がしたいわけではない。したとしてもきっと原稿用紙300枚は余裕で超えて、ベストセラー入りは確実だろう……いやそういうことじゃない。

 悲劇のヒロインに浸りたいとか気持ち悪くて仕方がない。

 なにが言いたいのか、なにを伝えたいのか、なにがしたいのか、オレ自身が知りたい。

 え? 意味がわからないだって? 

 オレだって、オレ自身が本気でわからないのだ。

 オレは他人の笑顔が大っ嫌いだし、他人の不幸話を聞くと、心が安らぎを覚える。

 オレの心は醜悪だ。とっくに荒んでいる。

 そんなオレだから世界に貢献したいと思うことはありえない事で、他人の為になにかを捧げる偽善的な行いは想像するだけで気持ち悪い。

 だから将来になにをしたいのかと聞かれたら、オレは言葉を失う。

 先生の手伝いがしたいと思っていたが、それ以外に気楽な選択肢がなかっただけ……消去法で導き出した最低な選択で、本当にやらなければならないという使命感などはなかった。

 オレをこういう風に変えたのはお前たちのせいだって、この世界が悪いのだと自分自身に言い聞かせた。

 そうやってずっと、ずっとオレは自分自身の不甲斐なさの言い訳を探していたのだ。

 醜悪だ。こんな生き方はとても空しかった。

 なにを伝えたいのか、ここまで言ったら、察してくれるのではないか?

 オレが求めるのは『答え』だ。自分自身で情けない話なのだが、オレがオレであると思える答えを求めている。

 何がしたいのか、何を言いたいのか、何をどうしたら最適な選択ができるのか、人生の攻略法があるのなら、だれでもいいから教えてくれ。

 誰かに縋る事は間違っていて、とても醜悪な行いだ。

 誰かに縋ってしまったら、これまでの行いが無意味になってしまう。


──縋る事の何が間違いでしょうか?

  

 これまで自分自身の為に大勢を利用し、犠牲に捧げたオレが誰かに頼る事は許されない。


──あなたは本当にめんどくさい。それに臆病です。


 そうだよ。オレは優柔不断で、いつも逃げの選択を選びたがって、面倒で、誰かのせいにして心を落ち着かせて、他人の幸せが疎ましく思ってしまうほどに最低で、誰かの差し伸べてくる手を握る事が臆病で、大事なモノを零れ落ちないように必死に誰かを傷つける事によって護り、ざまあみろっと他人の不幸を願って、そんな自分に嫌悪を抱いた。……性根はもう腐りきっていて、それでもこの現実を認めることなどできないくらいに諦めが悪くて、いつもいつも誰かの視線に敏感に怯えて、自己中心的に物事を考えるくらいに器なんて小さくて…………ああ、そうか、オレは空っぽだったんだ。

 大事な家族はいる。けれど……それを入れる器しかなく、オレ自身の根源などなに一つなかった。

 

「……そうだ。オレはオレが大嫌いだ」


      

    °



 意識の海の中から溺れるように朦朧としていた。

 息が苦しい。身体中が悲鳴を上げている。


「……ここは?」


 ここはどこだろうか? 見覚えのない散らかったオフィスだった。

 もっと情報はないかと周囲を見回ろうとするが、


「……身体が動かねえ」


 体感でビルを何棟かは貫いていたのはなんとなく覚えている。

 流石の宇宙技術の霧の鎧でもダメージがあるのか、鎧にヒビが入ってボロボロだった。

 普通なら即死の領域だが、この霧の鎧のお蔭で死なずに済んだと言ってもいい。多分先生は手加減したのだろう。


「『……身体を修復しますか?』」

「そ、そんな事が出来るのか」

「『はい。その代わり貴方の精霊力を消費します』」

「俺の精霊力?」

「『あなた達が呼ぶ『MP(マジックポイント)』と変わりないと思います』」


 ゲームの話かよとツッコもうとしたら激痛で言葉を呑み込んだ。


「『……ですが、精霊力をここで使用すれば……残りの精霊力では到底あの巨人を倒す事は出来ません。現段階でも倒せるのかもわかりません』

「そ、そうか。結局……オレは先生を止められないのか、よ」


 身体はもう限界で動かす事など出来ない。傷を治せば、先生を止められない。

 そもそも本当に止める事を俺は望んでいるのだろうか?

 身体がボロボロになり、再び思考が回帰する。

 鬼木先生が今まさに行おうとしている事は俺がやりたかった事じゃなかったか?


 ──そうやっていつも逃げ道を探している。


 この世界なんて嫌いで、人間なんて大っ嫌いで、全てが滅べばいいと何度も考えていた。


 ──そうやって現実から目を逸らして、いつも楽な道を探そうとする。


 そもそもオレはそんな人間達を救いたいと思ってもいない。


──けれど救いたいと思える人はいると心の中ではわかっている。

 

 誰かが止めてくれる。オレじゃなくてもいいじゃないか。


 ──逃げる口実を勝手に作ろうとしている自分に吐き気がする。


「ふざけ、るな」


 弱い心を捻じ伏せるように血を吐き捨てながら言葉を零した。

 そう俺はそもそもその他多数を救いたいのではない。恩師が悪の道を歩んでいる。そこから救ってやりたいという想いに理由は必要としない。

 助けたいという想いに論理とか理屈とか大層な理由なんていらないのだから。

 もう一度、身体を動かす。それだけで激痛が全身に走り回った。


「~~ッッ!! オレは……ッ!! オレは……ッ!!」


 今この時、地面に這いつくばっているオレが情けなかった。

 激痛で口から出てはいけない血を吐き出し、頭痛が頭を真っ白にする。


「『ハルヒロさん。それ以上は本当に命に関わります』」

「うるせえッ‼ ここで立ち上がらないで、オレはこれから先……どう生きていけばいい⁉ ここで立ち上がらないで……誰が先生を引き留めてやるんだ⁉」


 無様な体たらくを粉砕し、限界を超えて立ち上がった。

 頭から血が垂れ、気を抜くと同時に倒れ落ちる。

 再び立ち上がろうと、躍起になり唇を噛み締めた。


「……くそ、うごいてくれよ……」


 いくら立ち上がっても、一歩前に歩くだけで気をしっかりと保っていられない。

 悔しさが視界を滲ませ、口が霞むように震える。

 無理なのか? 結局、オレは口先ばっかりの理想に手を伸ばす資格がない。

 ただ俺は信念を持って行動しているのだと周囲に向けてポーズをとっているだけ。

 こんなのただの滑稽だ。なにを思いやがっていたのだろうか? 

 セイラの能力があれば戦える? 戦えるさ、その使い手がオレじゃなければ。

 空っぽだ。空っぽなオレにいったいなにが出来たのだろうか?


「……もうオレに戦える力なんて……」


 ──誰かのために強くあれ。それがかっこいい生き方だろ?


 そんな父の昔の言葉が空っぽのオレの頭を叩いた。

 どうして今、この盤面で、どうして父さんの言葉を思い出したのだろうか?

 まるでまだやれる。がんばれっと背中を押されているようで……


「ぐぐぐッ‼ ふんむむむッ‼ らあああああああああああ──ッ!!」


 世界に殺されると怯えていた子供がいた。

 けれどその子供にはかけがえない妹がいたのだ。

 だから子供は弱さを押し殺し、仮面を被った。

 善意という名の暴力、悪意という凶器の存在を知り、大切な妹にその脅威が向けられるのでは恐怖した。

 だからその子供は決断したのだ。

 善意には悪意を、悪意には善意で歯向かってくる脅威を潰した。

 それも凄惨に、取り返しがつかない程に徹底的にやった。

 善意も悪意も全てを子供に向けさせるように仕組み、その影響下で妹を護ろうと考えたのだ。

 心を圧し殺す術は知っていた。どんなに嫌なことでもやりきるしかなかった。

 だってその子供にはこの手段しか生きていける術を知らなかったのだ。

 そんな生き方をしていたら、すぐに限界がきた。

 子供がやっていた事は一人で抱え込んでやっている子供の浅知恵に過ぎんなかったのだ。

 人は一人では生きてはいけないと知っていたはずなのに。

 子供はどこまでも子供だった。


「~~ッッ‼ いつまで地べたで寝ているつもりだよッ!? 赤霧春公ッ‼ いつまでも、いつまでもッッ、大切なモノを失うのを黙って見送って、よッッ。悔しくないのか? なんの為に強さを磨いてきた? なんの為に……生き方を変えたんだ? なんの為に己を捨てた? ──失いたくないからだろッ‼」


 子供は子供でも決して崩れない信念だけはあった。

 知っていたのだ。失う怖さがどれほどだったのかを──だから抗おうと日々を磨り減った。

 そんな時に先生が子供に手を差し伸べたのだ。


 ──私はマッドサイエンティストなんだ。


 頭がトチ狂ってるんじゃないかと思ったが、それ以上に嬉しかった。

 周囲からは邪険にされていた。中には親切な仮面を被った厄介な敵にも狙われた。

 けど先生からは悪意など欠片も感じなかったのだ。

 この時にはすでに『インビジブル』であった筈なのに、子供には父親と同じようにヒーローのように思えたのだ。

 ギリギリだった子供はまた救われたのだ。

 だから──憧れてしまうんだ。


「身体の痛みなんて耐えてみろッ! 絶望している暇があるなら無様でも抗ってみせろッ! この醜悪な世界に殺されるのを黙って見てるドMじゃねえだろッ! いつまでも子供のように誰かに助けてと泣いて懇願するつもりだッ!? いい加減に護られる存在から脱して護る存在になってみせろッ! その行いが偽善で周囲から笑い者にされても信念を貫こうと抗って生きている先生と父さんの生き様を否定する生き方はやめろッ!」


 けど憧れだけじゃなにも救えるわけがない。

 なら今この場所で殻を破るしかない。

 今ここで鎖を解放しなければ、この醜悪な世界に囚われるだけだ。


「ここで限界を超えろ。それがかっこいい生き方だ」


 震える身体を竦む足を自らで粉砕し再び立ち上がった。

 壁にもたれ掛かり、右拳を何度も握って開いてを繰り返す。

 本調子と比べれば、最悪で、身体の痺れも健在だ。


「『……どうやらこの惑星人の認識を改める必要がありそうです。本音を言えば、もう立ち上がれないと決めつけていました』」


 そういうこと口に出さないでいいのに……まあ宇宙人だから仕方がない。


「いや、やせ我慢してるだけだ。もう倒れたら立ち上がれないよ」

「『いえ、それでも……いえ、非効率な事でした』


 人間という存在を解析していたセイラが導き出した答えがいま破られた。

 内部出血で血管は破裂しており、背骨の骨も折れて右手も数本砕かれていた。立ち上がれる筈はない。けど立ち上がったパートナーに驚愕する。

 どこからそんな力が溢れているのか、セイラは初めて興味を宿した。


「だから、そういう事は隠せ。お前は宇宙人で、俺を誘惑するくらいの魔女でいい」

「『それを言うなら『侵略』でいいのでは?』」

「ははっ、そいつは残念だ」


 思わず笑ってしまって、お腹に激痛が走った為に苦笑に変わる。


「それであの巨人を止める方法を教えてくれ」

「『今のハルヒロさんの身体では長期戦は混乱でしょう。短期戦にしても生半可な攻撃では倒す事は不可能です。ならば────』」





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