第三幕 透明悪 ③
学園を出たオレはどこらかしこからの爆発音に誰かの悲鳴が上がる殺伐化した都市を走った。
鬼木先生のいるであろう場所に確証などないが、オレの直感はなにかと当たる。
本格的に鬼木先生が動くタイミングが予測できない中でどうやって接触出来るだろうか。
そんな事を考えていると──
──シャイシャイシャイシャイ
トラウマを連想させる聞き覚えがある足音と共に頭上より大蜘蛛が降ってきた。
「ちょ、大蜘蛛ッ⁉」
無理無理無理無理ッ!! 死ぬ死ぬ死ぬッ!
最初に現れた同じタイプの『インビジブル』はオレを捉えると、大蜘蛛の足を器用に使い、オレに襲いかかる。
「東橋剣術 十の舞『八咫烏』」
一閃の剣戟が無数の斬撃と化し、蜘蛛の足を二本両断されると、危機を察した大蜘蛛はすぐさまに後退した。
透き通る長髪の黒髪と時代遅れの日本刀でなにが起こったのか一瞬で悟る。
「鈴乃⁉」
「……仕留められなかった。……それよりなに貴方はかかしなの?」
「いや無茶だろ」
そうしている内に大蜘蛛の足がニョキニョキと再生するとオレと鈴乃は愕然とする。
もしかしたら『インビジブル』全部の特性が超再生持ちという災厄の可能性が頭をちらつかせたからだ。
「これじゃ拳銃だって手榴弾だって効かねーんじゃないか」
「……しょうがない。ちょっと本気だす」
そう告げる鈴乃は刀に雷を宿らせる。
東橋鈴乃は超能力者である。その中でも群を抜いている電撃操作という能力を身に付けて生まれた天才であり、天災だ。
「東橋剣術 一の舞『逢花』」
神速の突きを繰りなし、反応できない蜥蜴蜘蛛は為すがままに貫かれた。
『ヴッ!!』
「──おわり」
刹那、雷が蜥蜴蜘蛛の体内から体外全てを焼き焦がす。体内が膨れ上がると蜥蜴蜘蛛は爆散して樹肉が飛び散り道路とビル壁に張り付いた。
「……本当にお前は人間なのか?」
「その反応は見飽きたわ。……それより船林教諭から貴方の援護するように言われたの」
「船林が?」
「なんでもこの件の首謀者の居場所に心当たりがある可能性があるやらでね」
「……あの野郎。監視役つけやがった」
振り払う事が出来ない化け物を押し付けやがったと憎悪の念を抑える。
「ちょうどいい。乗り物を提供してくれ」
「いいよ。とそろそろ来るわ」
すると無人のバイクが鈴乃の前に止まった。
「自動運転に私の超能力を供給した電動式自動戦闘バイク。私だけの特注品」
ふふんっと鼻を鳴らす鈴乃にちょっと引いていた。
「……なら鈴乃。オレにお前の力を借りたい」
「貸し一つでいいわよ」
その言葉に久しくオレは笑った。
4
なるべくインビジブルの気配がしないルートを通る。
「あ、あそこを右だ」
「わかった。けどこれってどこに向かってるのよ?」
「……居てほしいと願う場所だよ。ただの願望で根拠じゃない」
と言っていると、新たな『インビジブル』に遭遇する。
亀の頭をした樹木だった。その樹は鞭のように襲いかかるが、バイクからの雷撃で鞭の軌道を逸らした。
「いたッッ‼ それなんか腰辺りがビリってきたぞッ⁉」
「しょうがないでしょう。あれを撒くにはこの方法が手っ取り早いのよ」
「あ、そこを左──ブレーレエエエキッ!!」
前方には三体の『インビジブル』が控えていた。
急激なブレーキにオレの身体は身を投げられるが、すぐさまに受け身を取る。
「いてっ」
軽い打撲と擦り傷で済んで奇跡な大事故だったが、悪運の才能だけは持っていた。
「こいつらの相手は頼んだッ‼」
「ちょ、待っ──てや‼ こらああああああああああああああああああああああああ」
とお嬢様に相応しくない罵倒を耳にしながら、『インビジブル』を押し付けて撒いた俺は細道を走る。
向かう先には未だに一部が倒壊している雑居ビルが視界に映った。
『ヴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ‼』
突如として上空より咆哮が周囲を揺るがした。
「悪魔、か」
上空を飛び回り、暴れ回る悪魔に息を呑み込むと、ふと霧を纏った少女が相対していた。
「……セイラも来ていたのか」
加勢に行きたいが、今は行ってはいけない。
雑居ビルの扉は開いていたのでそのまま侵入する。
確かこのビルの十階だっただろう。そうオレの父である力哉が死んだ場所は。
「……やっぱりここだったか、先生」
ぼんやりと外の風景を眺めていたオレの登場で鬼木先生の瞳は驚愕に目を開かされる。




