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私だけが真実を知っているのに、誰も信じてくれない 〜悪役令嬢にされた私は沈黙を選びました。けれど王都は、私を失ってから少しずつ壊れていく〜  作者: 《本能寺から始める信長との天下統一》の、常陸之介寛浩


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第92話 父の謝罪文は、父のために書かれていた

 グレゴール・レイノルドは、夜明け前から机に向かっていた。


 窓の外はまだ薄暗い。


 屋敷の廊下にも人の気配は少なく、遠くで薪が弾ける音だけが聞こえている。


 彼の前には便箋が三枚あった。


 一枚目は、線で黒く潰れている。


 二枚目は、途中まで書かれて止まっている。


 三枚目は、まだ白紙だった。


 謝罪文。


 たったそれだけのものが、こんなにも書けない。


 グレゴールは、これまで無数の書類に署名してきた。


 領地の税。

 婚約契約。

 王宮への報告。

 寄付金の承認。

 人事の任免。

 商会との契約。


 公爵として、父として、家長として。


 彼の署名には力があった。


 だが、今は違う。


 この紙には、署名の力など役に立たない。


 むしろ、その力こそが邪魔だった。


 彼は三枚目の白紙に、ゆっくりと書いた。


『セレスティアへ』


 その呼びかけで、すでに手が止まった。


 娘の名を書くことが、こんなにも重い。


 昔は何も考えずに呼んでいた。


 セレスティア。


 よくやった。

 頼む。

 リリアナを見てやってくれ。

 母上のことを頼む。

 王太子殿下の前で失礼のないように。

 お前なら分かるだろう。


 その名の後ろに、どれだけの役割を貼りつけてきたか。


 グレゴールは、息を吐いた。


 続きを書く。


『私は、父として、お前に謝らなければならない。』


 書いた瞬間、眉間に皺が寄った。


 父として。


 まただ。


 昨日、家令に言われたばかりではないか。


 父という肩書きで、扉を開けさせようとしている危険がある、と。


 グレゴールは、その一文に線を引いた。


 新しく書く。


『私は、これまでお前に多くの負担を負わせていた。』


 負わせていた。


 それは事実だ。


 だが、まだどこか遠い。


 多くの負担。


 便利なまとめ方だ。


 娘の十三歳の予定表に休息がなかったことも。

 リリアナの不安を姉の同席で処理していたことも。

 母エレナの寝室前対応をさせていたことも。

 王太子府との非公式調整を当然のように受け入れていたことも。


 全部を「多くの負担」に丸めている。


 彼はまた線を引いた。


『十三歳の春、お前の予定表には休息欄がなかった。リリアナの不安定な時間に、お前の同席を組み込ませていた。母の寝室前の来客対応も、お前に任せていた。』


 そこまで書いて、胸が苦しくなった。


 具体的に書くと、逃げ場がなくなる。


 だが、逃げ場がなくなるからこそ、書く意味があるのだろう。


 グレゴールは続きを書こうとした。


『私は、それに気づかなかった。』


 そこで手が止まる。


 違う。


 気づかなかった、だけではない。


 見るべきものを見なかった。


 要約だけを見て、順調という言葉に安心した。


 自分の家の中で起きていたことを、家長でありながら紙の向こうへ追いやった。


 彼は線を引き、新しく書いた。


『私は、それを見るべき立場にありながら、見なかった。』


 その一文は、腹の底に落ちた。


 痛い。


 とても痛い。


 だが、まだ謝罪文ではない。


 グレゴールは、さらに続ける。


『お前は強い子だと思っていた。』


 書いた瞬間、嫌な予感がした。


 だが、手は止まらなかった。


『だから任せても大丈夫だと思っていた。お前なら理解してくれると思っていた。私は、お前の優秀さに甘えていた。』


 そこまで書いて、椅子に背を預けた。


 これはどうだ。


 悪くはないのではないか。


 そう思った瞬間、彼は自分を疑った。


 悪くはない、と思っている自分がいる。


 つまり、この文で少し救われようとしている。


 強い子だと思っていた。

 優秀さに甘えていた。

 悪意ではなかった。

 気づかなかった。

 すまなかった。


 そう書けば、愚かな父ではあっても、完全に冷酷な父ではなかったように見える。


 それを望んでいないか。


 自分は今、娘へ謝る文を書いているのか。


 それとも、自分が「悪い父ではあっても、人でなしではなかった」と確認する文を書いているのか。


 グレゴールは、便箋を前に黙り込んだ。


 そこへ、扉が叩かれた。


「旦那様。お呼びでしょうか」


 家令の声だった。


「入れ」


 家令が静かに入ってくる。


 彼は机の上の便箋を見て、何も言わなかった。


 グレゴールは、紙を差し出した。


「読め」


「承知しました」


 家令は便箋を受け取り、一行ずつ読んだ。


 表情は変わらない。


 読み終えてからも、すぐには口を開かなかった。


 グレゴールは苛立った。


「言え」


「はい」


「悪いか」


「悪いというより、まだ旦那様のための文です」


 グレゴールの手が机の上で固まった。


「……何だと」


 低い声だった。


 家令は、怯まなかった。


「セレスティア様へ向けた謝罪文というより、旦那様がご自身を整理し、悪意ではなかったことを確認するための文に見えます」


「私は、悪意があったとは書いていない」


「はい。ですので、“悪意ではなかった”と直接書かなくても、文全体がそこへ向かっています」


 グレゴールは、便箋を奪うように手元へ戻した。


「では、私は悪意があったと書けと言うのか」


「いいえ」


「なら、どう書けと言う」


「私が決めることではありません」


「家令」


 怒気が混じった。


 だが、家令の声は変わらない。


「旦那様。怒っておられるのは、私にでしょうか。それとも、図星だったことにでしょうか」


 部屋の空気が一瞬で冷えた。


 グレゴールは立ち上がりかけた。


 だが、完全には立てなかった。


 膝に力が入らない。


 怒りは確かにあった。


 家令に対する怒りも。


 だが、それ以上に、言われた内容が自分の胸に刺さっていた。


 彼は、ゆっくり座り直した。


「……お前も、随分と言うようになった」


「今、言わなければ、この文が送られる可能性がありますので」


「送らん」


「ならば、送らない理由を明確に残すべきです」


 グレゴールは便箋を見た。


 セレスティアへ。


 その呼びかけが、重い。


「私は、謝りたいのだ」


「はい」


「だが、書くと私の話になる」


「はい」


「では、謝罪とは何だ」


 家令は少し考えた。


「少なくとも、相手に“私をどう見てほしいか”を差し出す文ではないと思います」


 グレゴールは目を閉じた。


 私をどう見てほしいか。


 まさに、それだった。


 悪意がなかったと知ってほしい。

 愚かだったが、娘を憎んでいたわけではないと知ってほしい。

 遅くても気づいたことを知ってほしい。

 今は変わろうとしていると知ってほしい。


 知ってほしい。


 その願いばかりだ。


 謝罪文の形をしているが、中身は要求だ。


「私は、あれに私を見直してほしいのか」


 グレゴールは呟いた。


 家令は何も言わない。


「悪い父ではなかった、と」


「そこまでは申しておりません」


「だが、そういうことだろう」


「はい」


 静かな肯定だった。


 グレゴールは、苦笑した。


 乾いた笑いだった。


「謝罪文まで、私は娘に仕事をさせるところだったのか」


「その危険はあります」


「私をどう見るか、判断させる仕事を」


「はい」


 グレゴールは便箋を見た。


 書かれた言葉が、急にひどく恥ずかしいものに見えた。


 すまなかった。


 強い子だと思っていた。


 優秀さに甘えていた。


 どれも嘘ではない。


 だが、嘘ではないことと、今送ってよいことは別だ。


「破るべきか」


「いいえ」


 家令は即答した。


「また状態区分か」


「はい」


「便利だな」


「便利ですので」


 グレゴールは、少しだけ笑った。


 今度の笑いには、苦さの中にほんの少しだけ人間らしい弱さが混じっていた。


「書け」


「はい」


 家令は新しい記録紙を出した。


 グレゴールは、自分で言った。


「グレゴール・レイノルド作成。セレスティア宛謝罪文下書き第二」


「はい」


「未送付」


「はい」


「自己弁明要素多」


「はい」


「父として悪意がなかったことを確認してほしい欲求あり」


 家令の筆が一瞬だけ止まった。


「書け」


「はい」


「送付不可」


「はい」


「破棄せず、未送付綴じへ保管。次回作成時は、先に事実整理表を添付し、自己説明を分離する」


「承知しました」


 家令が記録していく。


 その文字を見て、グレゴールは唇を引き結んだ。


 情けない。


 だが、情けないからといって隠すと、また同じことになる。


「家令」


「はい」


「私は、セレスティアに許されたいのだろうな」


「はい」


 家令は、あまりにも当然のように答えた。


 グレゴールは少し睨んだ。


「少しは遠慮しろ」


「必要ですか」


「……不要だ」


「はい」


 グレゴールは机に肘をつき、額を押さえた。


「許されたい。父と呼ばれたい。もう一度、家に戻ってほしいとは……言わん。言わんが、どこかで、そんな愚かな願いもあるのだろう」


「はい」


「最低だな」


「最低と断じるより、存在を認めて管理する方がよろしいかと」


「私の醜さを管理するのか」


「放置すると、謝罪文に混ざります」


 グレゴールは、とうとう声を出して笑った。


 笑って、すぐに顔を歪めた。


 笑える話ではない。


 だが、笑わなければ座っていられなかった。


「そうだな。混ざる。私は何にでも混ぜる。父であること、家の名誉、自分の後悔、許されたい気持ち。全部、娘へ渡そうとする」


「今は渡しておりません」


「送っていないからな」


「はい」


「送らないことが、これほど難しいとは」


 家令は、記録紙を乾かしながら言った。


「旦那様はこれまで、送る側、命じる側、呼ぶ側でしたので」


「待つ側ではなかった」


「はい」


 その言葉が、部屋に落ちた。


 グレゴールは、長く黙った。


 待つ。


 セレスティアから返事が来るのを待つ。

 会ってよいと言われるのを待つ。

 覚書を読むかどうか、彼女が決めるのを待つ。

 謝罪文を送ってよい日が来るかどうかも分からないまま待つ。


 公爵としての彼は、待つのが嫌いだった。


 父としての彼は、待つことを娘に押しつけてきた。


 今度は自分が待つ番なのだろう。


 そこへ、別の使用人が控えめに扉を叩いた。


「旦那様。ローヴェル伯爵がお見えです」


 グレゴールは眉をひそめた。


「朝から何の用だ」


「急ぎ、お話があると」


 家令が小さく目を上げる。


「おそらく、王都の噂についてでしょう」


「通せ」


 しばらくして、ローヴェル伯爵が入ってきた。


 グレゴールの古くからの知人であり、保守派の中でも口の回る男だ。


 彼は挨拶もそこそこに、心配そうな顔を作った。


「公爵、例の謝罪文の件、耳にしておりますぞ」


「どの件だ」


「王妃宮がまた妙な基準を出したではありませんか。謝罪は扉を叩く音だの、受け取る側が開けるか決めるだの。あれでは家長の威厳が保てません」


 グレゴールは、黙って聞いた。


 ローヴェル伯爵は勢いづく。


「そもそも、父が娘へ謝るというだけでも十分に譲歩です。謝罪文を書いたなら、送ればよい。娘が読むかどうかなど、あまりにも娘側へ権利を与えすぎです。家というものは、時に痛みを呑んででもまとまるべきで――」


「帰れ」


 短い一言だった。


 伯爵が固まる。


「……公爵?」


「帰れと言った」


「いや、私は貴殿を案じて」


「私を案じているのではない。お前は、私が娘に拒まれる姿を見たくないだけだ」


 ローヴェル伯爵の顔が強張った。


 グレゴールは続けた。


「父が謝れば娘は読むべき。家長が歩み寄れば家族は応じるべき。そうしておけば、お前たちの家でも都合がよいのだろう」


「それは、家の秩序として」


「秩序という名で、扉を蹴破る話は聞かん」


 家令が、後ろでほんのわずかに目を見開いた。


 グレゴール自身も、言ってから少し驚いた。


 だが、撤回はしなかった。


「私は謝罪文を書いた。だが、送らない」


「なぜです」


「今の文は、私のために書かれていたからだ」


 伯爵は言葉を失った。


「公爵、それを外で言えば」


「外で言う必要はない。だが、私の家の中ではそう記録する」


「記録、記録と……最近の王妃宮の悪い影響ですな」


「悪い影響なら、今の私には必要だ」


 グレゴールは立ち上がらなかった。


 座ったまま、伯爵を見た。


「私は、娘に謝るという形で、もう一度娘を従わせようとしていたのかもしれん。少なくとも、その危険がある。それを止めることを、家の威厳を損なうとは思わない」


「娘にそこまで」


「その娘を、私は十三歳から家の都合に使った」


 ローヴェル伯爵は、露骨に不快そうな顔をした。


「公爵。そこまでご自分を貶める必要は――」


「貶めているのではない。見ている」


 グレゴールの声は、静かだった。


「見なかったものを、今さら見ている」


 それ以上、伯爵は何も言えなかった。


 形式的な挨拶をして、逃げるように退室した。


 扉が閉まると、家令が静かに言った。


「記録しますか」


「全部か」


「かなり重要な発言かと」


 グレゴールは疲れた顔で笑った。


「書け」


 家令は書いた。


『ローヴェル伯爵来訪。謝罪文送付を促す。家長の威厳を理由とする。グレゴール公爵、謝罪文未送付を維持。発言:“秩序という名で、扉を蹴破る話は聞かん”。発言:“貶めているのではない。見ている”』


 グレゴールは、その記録を読み、深く息を吐いた。


「私は、ずいぶん変なことを言うようになったな」


「良い傾向かと」


「お前に褒められると、不安になる」


「では、記録だけに」


「そうしろ」


 その日の午後、レイノルド公爵家から北方辺境伯家へ報告が送られた。


 もちろん、謝罪文そのものは送らない。


 送ったのは状態報告だけだ。


『グレゴール・レイノルド作成、セレスティア様宛謝罪文下書き第二。未送付。自己弁明要素多。父として悪意がなかったことを確認してほしい欲求あり。送付不可。破棄せず、未送付綴じへ保管』


 その下に、伯爵来訪時の記録要約。


『謝罪文送付を促す外部圧力あり。グレゴール公爵、未送付を維持』


 北方辺境伯家でその報告を読んだセレスティアは、最初の一文で息を止めた。


 父として悪意がなかったことを確認してほしい欲求あり。


 ひどく正直な記録だった。


 あまりにも正直で、少し胸が痛んだ。


 ノアは向かいに座っている。


 彼女が読み終えるまで、何も言わない。


 セレスティアは紙を置いた。


「父は、私に悪い父ではなかったと確認してほしかったのですね」


「記録上は、そう整理されています」


「……そうでしょうね」


 セレスティアは、苦く笑った。


「私も、そういう文が来たら、きっと分かったと思います。父は悪意があったわけではない。父なりに家を守っていた。母が病だったから仕方がなかった。リリアナが幼かったから仕方がなかった。王太子府との関係があったから仕方がなかった」


 言葉を重ねるたび、胸の奥が冷えていく。


「そして、私はまた父を許す方向へ自分を押したかもしれません」


「はい」


「送られなくてよかったです」


「はい」


 セレスティアは、もう一度報告書を見た。


『送付不可』


 その言葉が、今日も彼女を守っていた。


「でも」


 彼女は続けた。


「父が、自分の醜い欲求を記録させたことは……少し、驚きました」


「はい」


「以前の父なら、そんなものは隠したと思います」


「そうでしょうね」


「ローヴェル伯爵の話も」


 セレスティアは、伯爵来訪記録へ目を移した。


 家長の威厳。

 謝罪文を送ればよい。

 娘は読むべき。


 いかにも王都らしい言葉だった。


 そして父は、それを退けた。


『秩序という名で、扉を蹴破る話は聞かん』


 セレスティアは、その一文を見て、少しだけ目を伏せた。


「父の言葉とは思えません」


「よい意味で?」


「……分かりません」


 正直な答えだった。


 よい変化だと思う。


 でも、すぐに喜べない。


 父が変わり始めたことを喜ぶと、過去の痛みが薄まってしまう気がする。


 そんなことはないのに。


 頭では分かっているのに。


「閣下」


「はい」


「人が変わることを、喜べない時があります」


「はい」


「変わるなら、なぜもっと早く変わらなかったのかと思ってしまいます」


「自然だと思います」


「ひどい娘でしょうか」


「いいえ」


 ノアの返事は早かった。


 セレスティアは、少しだけ目を潤ませた。


「父が変わることと、私がすぐ受け入れることは別」


「はい」


「父が謝罪文を送らなかったことと、私が父を許すことも別」


「はい」


「父の醜さを記録したことと、私がそれを読んで慰めることも別」


「はい」


 セレスティアは帳面を開いた。


『父の謝罪文下書き第二。未送付。

 父として悪意がなかったことを確認してほしい欲求あり。

 正直な記録だと思った。送られなくてよかった。

 もし届いていたら、私はまた父を慰める方向へ動いたかもしれない。

 父は外部からの送付圧力を退けた。少し驚いた。

 でも、父が変わることをすぐ喜べない。もっと早く変わってほしかったと思う。

 それでもいいことにする』


 書き終えると、少しだけ肩の力が抜けた。


 母の覚書の箱は、机の上にある。


 まだ閉じられている。


 父の謝罪文も、まだ閉じられている。


 アデルの謝罪文も、リリアナの謝罪文も、未送付綴じの中にある。


 閉じられているものが増えていく。


 けれど、それは隠蔽とは少し違う。


 開ける時期と権利を守るための閉鎖。


 それが、少しずつ分かるようになってきた。


「閣下」


「はい」


「父の謝罪文も、いつか読む日が来るのでしょうか」


「来るかもしれません。来ないかもしれません」


「そうですね」


「あなたが決めることです」


「はい」


 セレスティアは、箱の横に新しい紙を置いた。


『変化を認めることと、受け入れることは別』


 そして、もう一枚。


『謝罪文の中の“私を見てほしい”を、私が引き受けなくていい』


 その二枚を並べると、不思議と少しだけ呼吸がしやすくなった。


 夜、灯りを落とす前に、セレスティアは報告書をもう一度だけ見た。


『貶めているのではない。見ている』


 父の言葉。


 それが本当なら。


 父はようやく、娘を見る前に、自分を見るところから始めたのかもしれない。


 それで十分とは言えない。


 遅すぎる。


 痛すぎる。


 けれど、見ないよりはいい。


 セレスティアは灯りを消した。


 扉の外にいる父を、まだ中へ入れるつもりはない。


 ただ、扉の外で自分自身を見ているらしい父の気配だけを、今夜は静かに認めた。

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