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過労死した設計士はオメガに転生して魔法の遊園地を創る〜冷徹公爵様は私を番にして離してくれません〜  作者: 水凪しおん


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14/15

番外編「冷徹公爵と絶叫の滑降コース」

 ロイヤル・ファンタジー・キングダムの開業から数ヶ月が過ぎた頃。

 遊園地の最も奥まったエリアに、巨大な建造物が姿を現していた。

 天を衝くほど高く組み上げられた白木の骨組みと、それに絡みつくようにうねる鉄色のレール。

 最新鋭の重力制御魔法と、緻密な物理計算を掛け合わせて生み出された、この世界初の本格的な大型滑降コースターだ。

 シエルは油と泥にまみれた作業着のまま、完成したばかりの乗り物の先頭車両を撫でていた。


「ついに完成しました。最高到達点30メートル。最大落下角度65度。前世の知識を総動員した、僕の最高傑作です」


 熱っぽく語るシエルの背後で、重い足音が響く。


「……それで、なぜ私をここに呼んだ」


 ルクスだった。

 今日の彼は、執務の合間を縫って視察に訪れたため、堅苦しい軍服姿のままだ。

 その顔には、隠しきれない警戒の色が浮かんでいる。


「決まっているじゃないですか。試運転の第一号は、出資者であり僕の番であるルクス様にお願いしたいんです」


 シエルは満面の笑みで振り返った。

 ルクスの藍色の瞳が、はるか上空で急カーブを描くレールを見上げる。

 無表情を崩さない彼だが、シエルにはわかる。

 ルクスの背中が、微かに強張っていることを。


「……安全の保証はあるのか」

「もちろんです。砂袋を乗せたテストは100回以上クリアしました。重力魔法の結界も完璧に機能しています」


 シエルはルクスの腕を引き、強引に先頭車両の座席に押し込んだ。


「私も隣に乗りますから、怖くありませんよ」


 シエル自身も隣の席に座り、頑丈な革製の安全バーを二人の膝の上に下ろす。

 金属の留め具がガチャンと重い音を立てて固定された。


「動かせ」


 シエルの合図で、操作盤の前に立つ魔術師が魔石に手を触れる。

 足元から、地鳴りのような重低音が響き始めた。

 歯車が噛み合い、太い鉄の鎖が車両を巻き上げていく。

 ガコン、ガコン、という規則的で無機質な音が、乗る者の心臓の鼓動を強制的に早めていく。

 車両が急な傾斜を、ゆっくりと、じりじりと上り始める。

 視界が少しずつ高くなり、遊園地の全景が眼下に広がっていく。


「素晴らしい景色でしょう、ルクス様」


 シエルは興奮を隠しきれずに隣を見る。

 ルクスは無言のまま、安全バーを握る手に凄まじい力を込めていた。

 分厚い革手袋が軋む音が、鎖の音に混じって聞こえる。


「……落ちたら、ただでは済まんぞ」

「大丈夫ですって。ルクス様、もしかして高いところが苦手ですか」

「馬鹿を言うな。私は竜の討伐で空を飛んだこともある」

「竜の背中と、僕の作ったコースター。どちらがスリルがあるか、比べてみてください」


 頂上が近づく。

 空に向かって伸びていたレールが、突然、視界から消え去った。

 最高到達点だ。

 風の音が止み、一瞬の無重力状態が訪れる。

 次の瞬間。

 車両は、重力に引っ張られるまま、30メートルの高さを垂直に近い角度で真っ逆さまに滑り落ちた。

 空気を引き裂く轟音だ。


「わあぁぁぁっ!」


 シエルは両腕を空へ突き上げ、歓喜の悲鳴を上げた。

 猛烈な風が顔を叩き、強烈な重力加速度が身体を座席に押し付ける。

 内臓が浮き上がるような浮遊感と、恐怖が反転して生まれる極限の快感。

 隣のルクスはといえば。

 彼は完全に無言だった。

 口を真一文字に結び、目は見開かれたまま、安全バーを砕かんばかりの力で握りしめている。

 車両は急降下から一転して急上昇し、身体が横に投げ出されそうになる強烈なカーブをすさまじい速度で駆け抜けていく。

 右へ、左へ、上へ、下へ。

 遠心力と重力が、二人の身体を容赦なく揺さぶる。

 ルクスの雪解け水のような香りが、風に混じってシエルの鼻腔を連続で叩いた。

 それは、番を守ろうとする本能から無意識に放出された、濃厚な香りだった。

 ルクスは自身が恐怖を感じているのではなく、隣で絶叫するシエルの身を案じるあまり、香りを漏らしているのだ。


「ルクス様! 最高ですね!」


 シエルが風の音に負けない声で叫ぶと、ルクスは前を向いたまま、かろうじて声を絞り出した。


「……二度と、乗らん」


 3分間の狂乱が終わり、車両がプラットホームに滑り込む。

 金属の摩擦音が鳴り響き、ゆっくりと停止した。

 安全バーが上がり、シエルは弾むように立ち上がった。


「どうでしたか。竜の背中より刺激的だったでしょう」


 ルクスはゆっくりと立ち上がり、乱れた前髪を無造作にかき上げる。

 その顔色は、普段の彼からは想像もつかないほど青白かった。


「……お前の頭のなかは、どうなっているんだ」


 深くため息をつきながら、ルクスはシエルの肩に重い腕を回した。


「でも、香りがすごく甘かったです。僕のこと、心配してくれたんですよね」


 シエルがルクスの胸に顔をすり寄せると、ルクスは気まずそうに視線を逸らした。


「……当然だ。お前にもしものことがあれば、この世界を道連れにしてやる」

「大げさですよ」


 シエルは笑い声を上げ、ルクスの腰に腕を回した。

 最強のアルファを震え上がらせる絶叫マシンだ。

 シエルの手帳には、すでに次のアトラクションのアイデアが、びっしりと書き込まれていた。

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