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パンツァードラゴン  作者: 森圭一


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第六章──帰還とネームド⑥

 俺も半ば呆れつつ応じる。そんな中、ニールス一人が苦笑を浮かべていた。

「どうした、ニールス?」

「いや……補給関連は事前に準備しないと大変な事になるなと、現場を見せつけられた思いがしたよ」


 補給と一言で言っても、物資を輸送、供給、管理する必要もあるので、より広範な概念として兵站へいたんとも呼ばれる。


 いくら部隊を前線に展開させても、食い物と弾薬、燃料、オイル、整備部品の予備がなければ戦闘機は戦えない。そういう意味で前線の将兵を支える大きな存在が兵站・補給と言えるのだ。

 その後の俺たちは、デザートに出た山羊乳アイスクリームをペロリと平らげ、みつばち広間の昼食を満喫した。


 どちらにしろ、明日、明後日にもブリタニアに飛ぶ事が決まれば、こうしたデザートにありつける機会も大幅に減るだろう。日常には普通に存在するアイスクリームが、戦時にはこの上ないご馳走になる。

 そんなことを実感させる昼食だった。


 昼食後、俺たちは武器商店『ジュエル』の老婆相手に時間を潰した。

 今度はブリタニアに派遣されること、フランス戦が一段落するまではそこからBEF──ブリタニア海外派遣軍に対し支援を行う見通しである事、知っている事を洗いざらい話して助言を求めた。


「まあ、助言と言ってもやる事はいつもと同じだからね。ただ、アルデンヌ以上の激戦になる事は覚悟した方がいいよ。ゲルマニア側も、撤退するブリタニア・フランス軍を撃滅しようと必死になるはずだから」

 史実を知る俺としては、当たらずとも遠からずの助言に頷くだけだった。弾薬は前回の調達で既に一万発を確保していたし、今日は珍しく何も買わずに店を出たところで……俺たちは思わぬ人たちと再会した。


 ドラゴンナイトのネームド──クリスティーナ・マクリーン、ガイア・テルーズ両大尉と出会ったのだ。

「あなたたち、ジュエルの帰り?」

 後ろからマクリーン大尉の朗らかな声が聞こえ、俺たちは振り向いた。両大尉が苦笑を浮かべつつ立ち、続けた。


「私たちがここに来るのは半年ぶりでね。店のお婆さん、元気にしてた?」

「ええ。それはもう。直接会えば健在だと判りますよ」

 俺の応対にテルーズ大尉が朗らかな笑みを返す。

「そりゃそうだ。どうだ、何か掘り出し物はあったか?」


「アルデンヌ戦前に弾薬一万発を注文しましたから、今日は買い物なしでした」

 テルーズ大尉が相好を崩した。


「俺たちも今日は弾薬を仕入れに来たんだ。ブリタニアに渡って弾切れじゃ、戦えないからな。ともあれ、聞きたいこともあるから一六〇〇──午後四時になったら格納庫に来ないか? 同じドラゴンナイト同士、少し話をしようじゃないか」

「判りました。お誘い、ありがとうございます、大尉。では、失礼します」


 敬礼と答礼が反復され、二人のネームドはジュエルに入っていった。

 となりでホッとため息をついたのがノアだった。

「ああ、びっくりした。ネームドに話しかけられるなんてこれで二度目よ」

「俺だってそうだよ。クレアは……スペイン内戦時代からの知り合いだよな」


「それでも緊張しますよ。あの内戦の時の二人は、フランコ将軍の側に立って、政府軍の繰り出す戦闘機やロシア義勇航空隊の戦闘機を撃墜しまくっていましたから」

「それで撃墜機数単独で一四〇機越えって訳か」


「ロシアじゃ今でもあの二人の首に賞金がかかっているって噂です。絶対に、敵に回したくない人たちですね」

「そんな二人に呼び出しか……なんだか背中がざわついてきたよ」


 気分がしゅんとなった俺たちは、真っ直ぐ基地に戻ることにした。いろいろ気が削がれたような感じだが、人付き合いも任務のうちと割り切ることにした。

「僕は出なくてもいいよね」

 とニールスが言ったのがそれから唯一の会話だったろうか。俺は


「あの二人が用があるのは、ドラゴンナイトだけみたいだからニールスは出なくていいと思うぞ」

 それが結論になり、外出はそれまでとなった。

 ノアとクレアは女性用宿舎、俺は男性用宿舎、ニールスはシャール少佐に用があると言うのでそれぞれ自分の目的地に向かい、散開となる。


 自室に戻った俺は、ベッドに寝っ転がった。目覚まし時計のタイマーをセットし、瞼を閉じる。ほとんど間を置かず暗黒が押し寄せた。


 目覚まし時計の鐘が鳴っている。

 俺は慌てて飛び起き、時計を叩いた。

 鐘の音が止まるや、制服を整え、ロッカーを開け鏡を見、身を整える。


 個室を出た俺は足早に格納庫を目指す。三分もかからず到着すると周囲を見回す。

 いた。

 格納庫の真ん中にノアとクレアの姿があった。そこに足を向け、口を開く。


「いたな、二人とも」

「彩夏」

 一方から声がしたのはその時だった。

「五分前待機とは関心ですね、三人とも」


 マクリーン大尉の声に俺たちは慌てて振り向き、敬礼した。

「マクリーン、テルーズ両大尉殿、失礼致しました」

 立ち止まった二人は軽く答礼し、テルーズが応じた。


「なに、呼び出したのはこっちだ。早速の用件だが、君たちの機体のパーソナルマークを見せてもらおうと思ってな」

「マークを?」


「上空で乱戦になった時、マークが判ると一目で見分けがつく。もちろん、俺たちのマークも見せる。どうだ?」

 俺たちは顔を見合わせ、うなずき合った。

「こちらこそ望むところです。御案内します」

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