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パンツァードラゴン  作者: 森圭一


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□第六章──帰還とネームド①

 臨時基地上空に戻ってみると滑走路周辺で燃料補給車が至る所に走り回っていた。

 若干の違和感を覚えつつ、「融合解除」を宣言した俺たちはスピットファイアとドラゴンに分離し、それぞれ着陸態勢に入った。


 三頭のドラゴンはそれぞれ滑走路の端に短距離着陸し翼を収め、俺たち三機は主滑走路にそれぞれ着陸した。

 そこからタキシングして格納庫前に戻ると、異様な光景がいよいよはっきりした。

 全機が給油態勢に入っており、整備兵たちが格機の間でそれぞれ給油ホースを使い給油を実施していた。


 エンジンを切りつつ、俺は駆け寄ってきた整備兵に訊ねた。

「どうしたんだ、これは? 再攻撃の準備か?」

「違うようです。我々はただ、全機の燃料タンクを満タンにするよう命じられただけです」

「判った。だったらこちらも……」


「言われずともやりますよ。まったく、ハロウィンとクリスマスが一緒に来たような騒ぎだ」

 整備兵の苦言を聞き流した俺は素早く愛機を降り、格納庫奧の通路に向かった。ノアとクレアも追いついて来て、それぞれ感想を語り合う。

「いったい何が起きてるの?」


「再出撃にしてもテンポが異様よ。何かあるのかも」

 聞き慣れた声が響いたのはその時だ。

「彩夏、姉さん、クレア!」

 車椅子のニールスが自走しつつやって来るのが見える。俺は、


「いったい何があったんだ、ニールス?」

「その件で三人に話があるって、シャール少佐が士官室で待ってるよ。急ごう」

「判った」


 三分後。

 俺たちは士官室の扉を叩き、入室を許可された。

「失礼します。黒田彩夏以下三名、御命令により出頭しました」

 入室すると、窓辺に立っていたシャール少佐が振り向き、口を開いた。


「先刻の任務、ご苦労。君たちが陽動でドラゴンを引きつけてくれたお蔭で、全機基地に帰投できた。戦果報告の集計はこれからになるが、目算でざっと二個装甲連隊に匹敵する戦力を撃破したと考えている。それもすべて、君たちが先行してBf109を撃墜してくれたからだ」

「とんでもありません。ですが、味方の犠牲が最少に留まったのは良いことだと考えます」


「それで、我々を呼んだ理由は何でしょう? 新たな任務ですか」

 ノアが一歩前に出て凛とした口調で告げる。

 一瞬、奇妙な空気が士官室を満たす。それぞれ事務を執っていた士官たちが視線を交わし、中には微かに肩をすくめる者さえいた。


「新たな任務と言えなくもないな。今より我々はこの臨時基地を引き払い、リンデベルン、ゼーレン基地に戻る」

「ええ!」

「まさか!」


「そんな!」

 俺、ノア、クレアの順で驚きの声が発せられた。俺は二人の疑問を代表する形でシャール少佐に返した。

「いったいなぜ? どうして撤退するんです?」

 俺の疑問にシャール少佐は電文を見せた。


「我々はフランス軍、最高司令官のガムラン将軍から解雇された。要はクビになったのだよ、飛行戦隊そのものが」

 俺は手にした電文を読んで唖然とした。そのままノアに渡すと、クレアと二人で電文を読み、絶句する。

「戦果を挙げたのに撤退ですか?」


「ガムラン将軍から見て、それも気に入らないらしい。要は、傭兵に面子を潰されたと言うことだな。考えても見ろ。我々はゲルマニア軍のアルデンヌ攻勢を正確に予測し、渋滞発生時の攻撃が最善である点も予測、的中させ、二個装甲連隊壊滅の戦果まで挙げた。それら全てが将軍にとっては、フランス軍最高司令部の面子を潰すものに見えた、ということだ」


「馬鹿馬鹿しい。アルデンヌ攻勢が正しければ、フランス空軍は後方に温存している戦闘機、爆撃機を使い、総力を挙げて叩くべきです」

 俺は呆れて虚しい反論をした。

「その通りだ。で、今からそれをやるから、生意気な傭兵風情は荷物をまとめて祖国に帰れ、という電文がこちらに流れてきたわけだ」


「すべては司令部の面子のため、ですか」

「ガムラン将軍はプライドの高い人物だ。高慢な鼻をたかが傭兵如きにへし折られたことがよほどショックだったのだろう」

「で、撤収の準備というわけですか」


「そうだ。雇い主からクビを言い渡された以上、我々がここにいる必要はない。それにある意味、この命令は渡りに船とも言える」

 俺は怪訝な表情を浮かべた。

「どういうことです?」


「ゲルマニア軍の立場に立って考えて見たまえ。渋滞発生時を奇襲された以上、以後の彼らは防備を固め、アルデンヌ上空に絶対的な制空権を獲得するだろう」

「そうですね」


「そう。我々にとっての幸運は、彼らの制空隊がほぼ戦闘機のみで組み上げられ、ドラゴンがいなかったことだ。恐らく何らかの手違いで手配が間に合わなかったのだろうが、ゲルマニア軍は同じミスはしない。次は必ず、複数のドラゴンを上空待機させ、敵の攻撃に備える」

「どれくらいの数が来ると思います」


「最低でも四頭は固いだろうな。さて、質問だ。今の君たちに、ゲルマニアのドラゴン四頭相手に敵防空網を突破し、攻撃をかける自信はあるか?」

 俺は肩をすくめ、ノアとクレアを見た。

 ノアが語調を緩め、告げる。


「我々は敵戦闘機の漸減と対地攻撃でファイアブラストをほぼ使いきりました。オーバーヒートの回復には二〇分必要で、その間、たった一頭の敵ドラゴン相手に逃走を余儀なくされたのが現実です」


「君たちが敵戦闘機を削ってくれたお蔭で我々は爆撃に成功したのだから、痛し痒しといったところだな。とにかく、敵はアルデンヌの緒戦でミスを犯し、我々の爆撃を受けた。その戦訓を胸に刻み、同じミスは繰り返さない。そこへガムラン将軍から再攻撃の命令が出たらどうなるか?」


「………」

 俺たちは沈黙した。

 相手が四頭、いやそれ以上のドラゴンを待機させている空域に攻撃をかけるのは、半ば自殺行為だ。俺たちは生き延びても爆装したスピットファイアは恐らく全滅するだろう。


「渡りに船とは、そういう意味なんですね」

「これ幸いとも言う。お蔭で我々は実行不能な命令にすり潰されず、フランスの地を離れることができるわけだ」

「複雑な心境ですね」


 クレアがポツリと呟くのを他所に少佐は彼女の肩を叩いた。

「我々は傭兵だ。雇い主がクビを言い渡したのだから、ただ黙ってフランスを出ればいい。罪悪感を持つ必要はない」

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