□第五章──アルデンヌ攻防戦⑥
俺は照準器のセレクターを切り替え、武装を機銃に切り替えた。これで二〇ミリ四門が使える。
再び敵ドラゴンの顎門が赤輝した。
俺は素早くラダーペダルを蹴り飛ばし、機体を横滑りさせた。今度は左翼すれすれを敵の火焔が通過していく。
「あと三分!」
敵ドラゴンの狙いは俺だ。
三機に分散攻撃ではなく、一機に絞るのは正しい戦術だ。侮れない。
俺は直線的に逃げるのではなく高速旋回を開始した。敵機との距離は詰まるが敵の意表を衝く戦術を選んだのだ。
案の定、一瞬敵ドラゴンの動きが鈍った。どう対処すべきか考えているのだ。
結局、敵ドラゴンが取った戦術は俺の高速旋回に追尾で対抗する事だった。敵ドラゴンとの距離が詰まる。三〇〇〇メートルを切ったところでクレアの声が無線に響く。
「あと二分」
俺は旋回を打ちきり、機を背面にいれ、急降下を開始した。
現在高度六〇〇〇メートル。スロットル全開で降下すれば時速八〇〇キロを超す速度を出せる。
後ろを振り向くと敵ドラゴンも同様に急降下に入っていた。ここから先は度胸試し、運試しの領域だ。
速度計の針が見る間に上がる。七〇〇キロ……七二〇……七四〇……七六〇……七八〇。
時速八〇〇キロに達した瞬間、俺はスロットルを緩め、操縦桿を引いた。
ラニウスは降下から水平飛行に転じた。
その刹那、敵ドラゴンの放ったファイアブラストが右主翼翼端を通過する。あのまま更に降下を続けていたら直撃を受けていたところだ。
「あと一分よ、彩夏」
クレアの声が無線に響き、続く。
「私たちは二機編隊で敵ドラゴンを追尾する。相手にとってプレッシャーになるはずよ」
「助かる」
俺はスロットルを全開した。左ラダーペダルを踏みつつ、機体を横滑りさせ、高度一〇〇〇メートルを駆け抜ける。
続いて機体を半横転させ、スピリットSで逆方位に向け機体を操る。速度七三〇キロ。高度は三〇〇メートルを切っていた。
一瞬のうちに敵ドラゴンと俺はすれ違った。クレアの声が無線に響く。
「ゼロよ。ファイアブラストが使えるわ、彩夏!」
「了解!」
俺は高速反転を決め、照準器内に敵ドラゴンを捉えた。セレクターを切り替え、ファイアブラストモードにする。途端にブザー音が鳴り、俺は発射ボタンを押した。
ラニウスが咆哮を発し、巨大な顎門から火焔にも似たレーザービームが放射される。
直撃……と思えたその刹那、敵ドラゴンはこちらと同様、横滑りで回避していた。
その時、上空からノアとクレアのドラゴン、エリキウスとシュトリヒが突っこんできた。
敵ドラゴンの判断は素早かった。
三対一、しかもいずれもファイアブラストを使えるとなれば、今度は敵が狩られる立場になる。
そのまま高速旋回を決めた敵ドラゴンは俺のドラゴンと交差針路に入った。
次の瞬間、互いのドラゴンが咆哮し、顎門から赤輝した火焔が放射される。
その時、俺は見た。
敵ドラゴンの胴体にルーン文字、SSの二文字を。
奴は武装親衛航空隊──SS空軍所属のドラゴンだ。
互いにギリギリで火焔を避けつつ、俺は敵ドラゴンのコクピットがある位置を見つめていた。
あの中に、SS空軍のパイロットがいる。こいつはまぎれもない俺の敵だ。
想いは一瞬だった。
俺は敵ドラゴンが全速で離脱していく様を見送った。ノアが無線を入れた。
「追撃はなしでいいわね」
「ああ……後続に更なるドラゴンが控えているかもしれない。今日の所はここまでだ」
「戻りましょう、基地へ」
クレアの無線が結論になり、俺たちは翼を翻し、臨時基地へと針路を取った。




