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パンツァードラゴン  作者: 森圭一


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第四章──頑迷なるガムラン⑥

 地上に降りた俺たちは、その足でゾマーチーフの元に足を向けた。

「下から見ていたぞ。やはりF型は強いだろ」

 あっけらかんとそう言われると、これまで胸に抱えていた不安や焦燥がゆっくりと溶けていくのを感じた。


「ええ。F型の飛行試験をやったと言いましたが、降下限界速度はどれほどです?」

「昨日はE型と同じ時速八〇〇キロまで試し、打ちきった。この手のテストを徹底的にやるには何日もかかるんだ。今、その余裕はないからな」

「そう……ですね。だったら正解だったわけだ」


「どういうことだ?」

「降下限界速度をE型と同じ数値で扱ったんです」

「それが正解だ。本音を言えば時速八五〇キロでも耐えられるだけの改装をしたんだが、何しろ試してないからな。あらかじめ言っておくべきだった。すまなかったな」


「いいんです。これで要件の半分は済みました」

「あとはみつばち広場で、妹からBf109戦術の基本を聞くだけ、か。昼飯も出るから腹ごなしにレクチャーしてもらえ」

「お見通しですね。では、フランス戦が結着したらまた会いましょう」


「ああ。待ってるぞ。三人とも死ぬなよ」

「はい」

 手を振るゾマーチーフに一礼した俺たちは、そこから衛門をくぐり外出した。行き先はいわずもがなだ。

 みつばち広間に到着し、入り口の扉を開く。


 正午前のためか客はまばらだった。

「いらっしゃい」

 と声をかけてきたのはゾマー女将だ。俺たちは

「こんにちわ」


 と挨拶を返しつつ、テーブル席に向かう。

 トレイに水を三人分持ってきた女将に、席に着いた俺は、

「女将さん、注文はお薦め四人前、うち一つは弁当でお願いします。それと、スピットファイアマークⅤでBf109Eに対抗する有力な戦術が知りたいんです。時間、ありますか?」


 女将は時計をちらりと見て、

「今の時間なら大丈夫だよ。ただし、食事は二〇分以内に終えておくれ。そうしないと教える時間がなくなっちまうからさ」

「ありがとうございます。よろしくお願いします」


 三人で礼を言った俺たちは三人そろってほっとため息をついた。

「なんだか、試験前の一夜漬け勉強みたいね」

 ノアの声に俺は肩をすくめた。

「しかたないさ。俺は精神転移して一ヶ月ちょい、ノアもデンマーク空軍ではもっぱらドラゴンナイトとして飛んでいて、そっちがメインだったんだから」


「私はゼーレン基地にいる事が多かったものね。DC3でドラゴンと融合、負傷者を運ぶ任務が大半だったし」

「そういう意味じゃ、第二次大戦が始まってからの俺たちの実戦経験なんて一ヶ月足らずだ。判らない事がたくさんあるのはしかたがない。そう割り切って、素直に教えを受けるのが一番いいと思うよ」


 俺はそう言ってコップの水を飲んだ。

 女将が三人分の昼食をトレイに載せて運んできたのはその時だった。

「おまちどおさま。ビーフシチュー三人前のセットとお弁当だよ」

 そう言いつつ、手際よくスープ皿と食器、それにバケット、弁当をテーブル上に置いていく。


「うまそうだな」

「本当ね」

 後を継ぐノアの声に俺は微笑を浮かべつつ応じる。

「クレアと初めてここに来た時も、お薦めはビーフシチューだったんだ。また食べられるなんて、ちょっと懐かしいな」


「味は保証するから、ささっと食べておくれ。それじゃ、二〇分後にまた来るからよろしく」

 女将はそう告げると去っていく。

「さあて。食べるぞ」

 声をかけつつ、俺はスプーンでビーフシチューを掬った。


 一口啜ると、口の中に芳醇なシチューの味が広がっていく。

 食事を終える二〇分まで瞬く間だった。

 最後のバケットを齧り、コップの水で流しこんだところに女将とウェイトレスのユーリアがやってきた。

 ユーリアがテーブルの上を素早く片付け、女将さんは空いてる席に腰掛け、前置きもなく切り出した。


「さて、Bf109EとスピットファイアマークⅤとの戦いだけど、ノーマルタイプを使う限り、高速戦闘ではスピットが有利、低速戦闘ではBf109が有利だね。理由は、方向舵や補助翼の設計、設定がそうなっているからで、機体の特性によるものさ」

「ドラゴン召喚用の特殊機体では違う、ということでしょうか?」


「方向舵や補助翼の操作の途中に魔石が組みこまれているからね。例えばノーマルタイプのBf109Eは、時速六〇〇キロで急降下させた場合、直進させるのに左のラダーペダルを思い切り踏みこむ必要がある。スペシャルは、魔石が伝達部に組みこまれているので、さほど力をこめずに直進降下ができる。機体の前後軸を中心に回転運動を司る補助翼についても、ノーマルタイプでは低速での効きがスピットファイアに勝り、時速三二〇キロまでは理想的な動きをする」


「それが高速になるとノーマルタイプは重くなるわけですね」

「時速六四〇キロでロール──横転をやる場合、三二〇キロの時の五倍というデータもあるからね。でも、スペシャルは魔石で途中の力をブーストしているからそこまで力をこめずとも自由にロールできるんだ」


「ドラゴンナイトが乗るBf109Eと、普通のパイロットが乗るBf109Eでは、性能が別物と言っていい、ということですね」

 ノアの声に女将はうなずいた。


「だから、ドラゴンナイトが乗るBf109Eは危険なんだ。別物と考えた方がいい。この傾向は、後継機のF型でも同じだろうから、パターン化された戦闘は危険だよ」

 先程の模擬空戦を思い出しつつ、俺はゾマーチーフがF型をスペシャルに改造していたことに思い当たった。全力急降下にも関わらず、ラダーの踏み込みは軽かった。あれが魔石による補正効果という奴だ。


「問題は、スペシャルとノーマルをどう見分けるかですが……」

 クレアの声に女将は諦めたように肩をすくめた。

「それが判れば苦労はないんだけどねえ……敵機の機動から素早く読み取るか、あるいは機体のパーソナルマークから割り出すしかない」


「パーソナルマーク?」

「ああ。ネームド──その著名さ故、敵味方から名前をつけられたドラゴンナイトは、たいてい機体に派手なパーソナルマークを描いているからね。情報部から来たパーソナルマーク一覧を事前に暗記するのも一つの対策だろう」


 俺たちは思わず顔を見合わせた。

 臨時基地では今ごろキーガー伍長が俺たちの機体にパーソナルマークを描いているだろう。もちろん、俺たちの乗る機体はドラゴン融合に特化されたスペシャルだ。


「反面、ドラゴンナイトが愛機にパーソナルマークを描くのは、味方の士気昂揚、敵の士気低下に効果があるという話もあるよ」

「要は、撃墜王が来てくれた、みたいな間隔ですか」


「そうだね。だから、メリットとデメリットを天秤にかけてその辺は選ぶといい。今日できる話はこんなところだね。店も混んできたから……」

「貴重な時間を使い、レクチャーありがとうございます。女将さん」

 俺の声にゾマー女将は奇妙な笑みを浮かべつつ言った。


「まあ、あんたらにとってはこれからの戦いが本番さ。しっかり頑張って、生き残る事だね。常連が消えるのは私も望むところじゃない」

 顔を見合わせた俺たちは立ち上がり、敬礼した。


「本日は、美味しい食事とレクチャーに深く感謝します。フランス戦が終わればまた来ますので、その時はよろしくお願いします」

「ああ……待ってるよ。土産話をたっぷり聞かせておくれ」

 感謝の念と共に俺たちはみつばち広場を後にした。

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