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パンツァードラゴン  作者: 森圭一


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第四章──頑迷なるガムラン⑤

 俺は疑問を口にした。

「ところでE型はなぜ斜め支柱をつけていたんですか?」

「取り付け部の間隔が狭いのと、金具にガタつきがあることが原因だな。こっちの擬似F型では金具のガタつきを補正、胴体の剛性も強化しておいたから、フラッターなしで飛べるはずだ。フラッター、振動が起きるようならスロットルを絞って着陸しろ」


 そこでチーフはいったん言葉を切り、真剣極まる口調になった。

「その状態で高速飛行なんぞしたら垂直、水平尾翼が恐らくもげて吹っ飛んでいくからな。気をつけろ」

「心得ます」

 そこから俺たちはB4格納庫に向かった。お目当ての機体、擬似F型はすぐに見つかった。


 確かに、水平尾翼につけられた斜め支柱が奇麗に無くなっている。

 そのすっきりしたデザインに俺は感銘を受けた。

 スピットファイアも美しいデザインだが、Bf109も悪くない。後継機の開発に失敗したことが理由とはいえ、世界最大の生産機数、三万三〇〇〇機も造られたことには確かな理由があるのだ。


「本当に支柱がなくなってるわね。これがゲルマニアの最新鋭機……」

「想定データから作り上げた摸擬戦闘機だけどね。で、誰が乗る?」

 ノアとクレアが顔を見合わせた後、こっちを見た。

「彩夏、あなたが乗って」


「判った。二人はスピットファイアマークⅤだな」

「私、クレアの順で一対一の模擬空戦をして、感触を確かめる。彩夏はBf109Fでどんな戦術が取れるか、確かめて欲しいの」

「判った」


 整備兵の助けを借り、Bf109F、スピットファイアマークⅤのエンジンが始動される。

 タキシング後、滑走路に出るや、フラップを下ろし、スロットルを開く。速度計の針が見る間に上がり、離陸滑走距離が四〇〇メートルを超えたところで操縦桿を引く。

 素早く脚を引っこめた。フラップを収納し、そのままスロットルをさらに開き、上昇する。


「これは……」

 E型より上昇力が遙かに向上していた。

 余計な斜め支柱がなくなったことが要因だろう。ラダーペダルを踏み、操縦桿を傾けると旋回性能も向上している。

「彩夏、始めるわよ」


「判った。こいつは思ったより上昇力、機動性が向上している。侮るなよ」

「了解」

「いったん距離を取り、高度三〇〇〇で戦闘開始だ」

「了解。クレアは二〇〇〇メートルほど距離を置き、見学していて」


「了解。頑張ってね、ノア」

 バンクを取り、緩やかに旋回するとノアのスピットファイアマークⅤが見える。

 そのまま行けばヘッドオン、機首に武装が集中しているF型ではむしろ有利だ。

 それに気がついたのか、ノアのスピットは旋回を継続すると同時に加速した。


 高速旋回でこちらの後ろに回りこみ、攻撃をかけるつもりだ。

 俺はスロットルを開き、上昇に転じた。

 続いてラダーを踏み、操縦桿を傾け、緩旋回をかける。速度を保ったままノアのスピットファイアマークⅤの側面を取り、銃撃をかける。


 こちらの上昇力に追従できないノア機が上昇を打ちきり、スプリットSに入った。

 高度を速度に変換、こちらを振り切った後、再度高速旋回戦を挑むつもりだろう。

 俺も負けじとスプリットSに入った。


 旋回戦ではなく直線戦闘ならBf109FはスピットファイアマークⅤを上回る。速度計の針が五八〇キロを超えた。更に加速する。

 照準器の端にノアのスピットファイアマークⅤの機影が浮かぶ。

 俺はスロットルを全開した。俺がバックを取った事に気付いたノアが急降下する。


 スピットファイアマークⅤの降下制限速度は約八〇〇キロ、対するBf109は……E型なら同じく八〇〇キロのはずだ。

 では、F型は?


 判らない。この機体は、試験飛行は済んでいるが限界降下速度を割り出しているかは不明だ。E型準拠でやるべきだろう。

 兎に角今は──。

 スロットルを全開にすることだ。


 時速八〇〇キロになったらスロットルを緩めるが、それまでの間にノアを射程に捉える事が出来れば遠慮なく撃つ。

 模擬戦とは言え、互いの限界を発揮しての戦闘機動だ。

 Bf109Fが一挙に加速した。


 速度計の針が七四〇キロを超え、さらに上がる。同時に照準器内にスピットファイアマークⅤの姿が見る間に拡大した。

 降下速度七七〇キロ。無意識のうちに俺は機銃の発射ボタンを押していた。

 エンジン同軸機銃──MG151/20が唸りを発し、演習弾を毎分七八〇発の速度で撃ち始める。


 ノア機の左主翼上面が真っ赤に染まった。撃墜だ。

 ノアも俺もほぼ同時にスロットルを緩めた。

「やられた。撃墜を認めるわ」


「こっちも降下限界速度スレスレまで追いこまれた。降下加速度はBf109Fの方が上のようだ。さて、次はクレアとだが……」

「待って、彩夏」

 クレアから無線が入った。


「今の戦訓を地上で検討する方が大事じゃない? 見ていてヒヤヒヤしたわ。降下限界速度が不明の機体であれ以上の無理は禁物よ」

「そうね。私もそう思う。自分としては最善の戦術を取ったつもりだけど、結果的にそれが彩夏のBf109Fを追い詰めた。模擬空戦中に空中分解する可能性があるなんて、普通じゃない」


「俺としては、E型の降下限界速度に留めてスロットルを使ったんだが、加速力は馬力の強いF型が上だった。だから撃墜できたんだよ」

「兎に角、いったん下に降りましょう」

「賛成だ」


 俺はゆったりとバンクを決めつつ滑走路へのアプローチに入った。ノアたち二人のスピットファイアもそれに続く。

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