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第5話『整合する事情たち』-6

 そこで起こっているのは、まぎれもなく戦争だった。


 何しろミサイル並の破壊力を持った兵器が、執拗(しつよう)かつ過密に飛び交っているのだ。戦場に選ばれた九条学院二年棟では、壁をぶち抜かれて開通した教室のあちこちから、途切れることなく粉塵が立ち昇っている。


「……『ハズレ』を、引いちまった」


 異形剣士は、息も絶え絶えに吐き捨てた。


“剣弾”による掃討作戦は、末期を迎えようとしている。

 窓際の壁は、ほぼ全て吹き飛ばした。すでに机や椅子の類も、両手の指で数える程しか残っていない。“剣弾”化した素材の粉末は、校舎の土手っ腹に開いた大穴から、吹き抜ける風に(さら)われていく。


 しかし、これほどの攻勢を誇りながら、なお大輔は追いつめられていた。


「やっぱ()()()()。どうやって勝てっつんだ? こんな奴……」

 

 見えない。

 その言葉通り、教室には鬼塚奈津実の姿が、影も形もないのだ。

 

 セカンドスキル“箱庭(パンドラ)”。

 あの女教師の使う能力効果がこれほど厄介なものだったとは、さすがの大輔も予想外だった。

 鬼塚は自分の造り出した別空間へ常に身を潜め、大輔の攻撃をやり過ごし、自分が攻撃する際にだけ姿を現すのだ。まさにヒット&アウェイの完成形である。


 ガン、ガン、ガン、と、断続的な金属音が、大輔のすぐそばで起こっていた。

 おそらく何かを振り回して、鬼塚は大輔を追い回しているのだ。じっとしていれば、すぐさま死角から現れて急所をやられてしまうだろう。


 そのせいで、大輔は先程から一秒も動きを止めずに“剣弾”を発射し続けているのだ。その切れ目となる一発が、ついに黒板を貫通して、またしても隣のクラスと二年一組を繋げてしまう。


 この女を相手に、広い空間に身を置くのは危険である。大輔が廊下へ飛び出すと、後を追うようにして、鬼塚は何もない空間から、ぬぶり、と現れた。


「……あらあら? 意気込んでた割には、ずいぶん消極的なのね。桃太郎さん」

「るせぇよ、年増ババァが。ぜってぇぶっ殺す」

「そういう態度は頂けないわね」


 廊下を歩いていた鬼塚が、またも大輔から視認不能になった。別空間に潜り込んだ相手に触れるすべを持たない異形剣士は、窓側の壁に手を突いて、いつでも“剣弾”を撃てるように構えをとる。

 たしかに鬼塚のセカンドスキルは強力だが、攻撃の瞬間だけは、こちらの空間に本体を晒さなくてはならない。その瞬間だけに、大輔の勝機がある。


 朝霧綾も、西井香織も、鷹山岬も、別世界で戦っているのだ。多少能力の相性が悪いからといって、男の自分が泣き言を口にするわけにはいかない、と、大輔は自分を奮い立たせる。

 

 しかし、どれだけ待っても女教師からの攻撃が、ない。

 

 もはや叶大輔の頭から、『逃げる』という選択肢は放棄されていた。彼は焦る心を抑えつけ、リラックスしたまま精神を研ぎ澄ます。 

…………ところがここで、大輔は思いもよらぬ状況に気が付いてしまった。


 廊下の各所に設置されているはずの『消火器』が、残らず失くなっているのだ。


「……いくらなんでも死ぬぞ、それは」


 爆音が、異形剣士の聴覚をまるごと奪い去った。


◆     ◆     ◆



ここまで読んで下さった読者様、ありがとうございました。


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それでは、この後もお楽しみ下さい。

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