閑話『あの日、君のいた場所』
閑話『あの日、君のいた場所』
「…………駄目だった、か」
呟きは風に乗って、世界の果てに飛んでいく。
砂洋から押し返された風は、そこがかつて本物の海だったことを思わせる潮の香りをともなって、かすかに鼻腔をくすぐった。
廃墟の片隅に腰を下ろすのは、怖気を奮うような美貌の持ち主だった。
銀髪を結い、赤い瞳を揺らめかせ、星を数えるのが日課になって幾年が経つ。
生きとし生ける物は地上から、否、全宇宙から姿を消していた。地形の変化すら滅多に起こらないこの場所では、気まぐれに廃墟を削り取る、滅びの風だけが生きている。
ここ数日、よく夢を見る。
人の身にはけして及ばぬ奇跡を求め、蛇が現れたあの日の事を。
そして奇跡を手に入れた瞬間、己を裏切った蛇の予言を。
いまや世界は昼のようでもあり、夜のようにも見える黄昏が続いていた。色味のぼやけた茜空には、燦然と輝く星々が、宝石を上回る価値を魅せている。まるで、競い合うように。
だが、隣り合う輝き同士の距離は、この目に見えているよりも、ずっと遠いはずだった。
知識の上ではそう理解していながら、星と星との距離感というものに、毎夜違和感を覚えずにはいられない。見えているなら、掴めるはずだ。子供の頃、そう思って手を伸ばしたら、どうにも肩すかしを食らったように、星々は指先に感触さえ与えはしなかった。
遠い。
ただそれだけの事実が、明確に星と自分を隔てている。
果たして克服できるだろうか、その距離を。
「やがて生まれ出ずる子らよ。希望の種は捲かれた。どんな芽をつけ、いかなる花を咲かせようと構わぬ。ただその機能さえ、十全に発揮するならば」
……収穫完了の日は近い。残りの“刈り取り”は害虫を駆除してから。
「――、覚悟をしておけ、小娘」
神は独白を締め括る。
その眼が射抜くのは、今はなき、影。
忌まわしき蛇に魅入られた、あの赤髪の影。
閑話 終
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