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第4話『Tの法則』-9

「――せ、性格悪すぎんぞアイツッッ! このままじゃ、死ぬ…ッ」


 叶大輔は、珍しく弱音を吐いていた。

 お気に入りのジャケットはすでにボロボロで、もはや古着屋でも値段はつくまい。ついでにジーンズもズタズタになっている。


 見様見真似(みようみまね)の曲芸は、大失敗に終わった。

 以前、朝霧綾は叶大輔の“剣弾”を避けるのに、身を(ひね)りながら横飛びした事がある。彼女はかくも鮮やかに剣の掃射を避けきってみせたものだが、大輔も迫りくる紅葉の雨を、あれと同じように避けようとしたのだ。……結果、五発が命中。


 深く刺さらなかった事と、追撃がなかったことが幸いして、大輔は難を逃れていた。とはいえ、今はそんな痛みに気を取られている暇すらないのだが。


『ほらほら叶君。早く逃げないと、潰れたカエルになっちゃうよー?』

「くそったれッ!」


 およそ三分前から、異形(いぎょう)剣士は追われていた。

 突如、野球グラウンドの外野フェンスを突き破って出現した、無人のタンクローリーに。


 物理法則を無視した動きで中庭まで突っ込んできた大型特殊車輛から、大輔は遁走(とんそう)を余儀なくされていた。

 ドリフトを繰り返す車体から、だぷんだぷん、という水音が聞こえ、大輔の顔が青ざめる。おそらくタンクの中身はガソリンが満載に違いない。迂闊(うかつ)に“剣弾”を撃てば、確実にドカンだ。


 セカンドスキルを封じられた大輔は、猛牛を相手取るように紙一重で車体をかわし、逃げ続けるしかなかった。ステップを刻む足取りが、徐々に、徐々に重くなっていく。


「はぁっ、はぁっっ! ハァッ……」


 暴走を続けるタンクローリーは、無論、西井香織の奸計(かんけい)によるものだ。

 

 セカンドスキル“接続(コネクト)”。その能力は、物体の持つ性質・性能を共有する。

 彼女は“接続”を使い、なんとラジコンに付属しているリモコンで、玩具の何百倍も体積のあるタンクローリーを操っているのだ。


『ゴーゴーレッツゴー』


 大輔にとって厄介なのは、タンクローリーが見た目通りの挙動をしていないことだった。

 

 シフトチェンジもハンドルテクニックもあったものではない。全速力で突撃したかと思えば、間髪入れずにバックスピン。かと思えば、急にエンジンが停止するようなフェイントまで使われる始末である。どうやら、性能そのものがラジコンとリンクしているらしい。

 

 香織の思うままに、巨体にあるまじき細やかな動きと急加速が、手負いの大輔を翻弄(ほんろう)する。うまくかわしたように思っても、予測を裏切る動きに何度も騙されて、彼は車体に体をひっかけてしまう。大輔はその度に、病院送りになるような衝撃を味わった。

 

 タンク登場から三分、グラウンドには幾何学模様を思わせるタイヤマークが、無数に刻まれている。

 そして、何度目かの突撃をやり過ごした叶大輔の動きが、ついに完全停止した。


『トドメだー』


 最後まで、魔人の声は間延びしていたが、死刑宣告を受けた異形剣士は、不敵な笑みを刻み込んでいた。


「……ようやく『いい方向』に向きやがったな? デカブツ」


 巨体にはやや狭い野球グラウンドで、一気に時速一五〇キロまで加速したタンクローリーが、マウンドから獲物へ向かっていく。端から見たそれは、打席に立った大輔へ繰り出す、姿無きピッチャーのストレートだった。


 人身事故の瞬間、異形剣士は迫り来るタンクローリーに、その両手を押し当てていた。

 およそ叶大輔以外の人間が、いかなる手段を用いれば、以下のような現象が起こるだろう。


 被害者を()き殺す寸前で、タンクローリーは空中分解した。


 それどころか、彼が手を押しつけたフロントバンパーから車体の尻に至るまで、一切の金属部品が瞬時に“剣弾”化して、四方八方へ飛散する。車体を構成する金属以外のパーツは、慣性の法則に従って直進を続け、大輔を掠めるように通過してバックネットへ直撃した。


 積載していたガソリンも大輔の頭上を飛び越え、ネットの向こうへ撒き散らされたが、幸い引火するような火気はない。

 まさに、奇跡のような荒技だった。

 

 打席の向かい側では、三年棟の屋上から地面に、おもちゃのリモコンが落ちていく。


「……あれ? 私、負けちゃった?」


 魔人は、もう何もする事ができなかった。


 強引なセカンドスキルの運用で、大輔はすでに意識を半分以上失っている。香織は自分の方向へ飛んでくる一発――、“剣弾”の『先端』が、まるで手心を加えたように丸くなっているのを、ただぼんやりと眺めるだけだった。


 飛距離三百メートルを記録した特大のピッチャー返しは、精密に西井香織の腹部を狙撃した。


◆     ◆     ◆


 読者の皆様、いつも作品を読んで下さり、ありがとうございます。


 本日、小説家になろうサイト様に投稿をはじめてからの累計PV数が、ついに1000を突破致しました。


 投稿を開始した当初は、このような短期間でこれほど多くの方に読んで頂けるとは、想像もしていませんでした。

 この場をお借りして、読者の皆様に御礼申し上げます。


 今後も、より多くの方に読んで頂けるよう頑張って参ります。

 合わせて、ブックマーク・高評価もよろしくお願いいたします。


 それでは、続きをお楽しみください。

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