第2話『いつかみた、知らない場所』-6
「――、『セカンドスキル』? 何それ?」
混雑し始めたファミレスの奥で、綾は対面に座る日高の台詞を、オウム返しに呟いた。
「名前は僕が勝手にそう呼んでるだけだけど、ようは超能力の事だよ。朝霧さんも見ただろ? “剣を飛ばしてくる”大輔のセカンドスキルを」
忘れるわけがない。
両手の平に刻まれた傷跡を見る度、綾の背中には嫌な寒気が駆け抜けるのだ。あれは危険な攻撃だったと、彼女の勘はずっと警鐘を鳴らし続けている。
大輔の放った不可解な『剣』、あれが彼のセカンドスキルだと日高は言う。
「一ヶ月前くらいに、僕は大輔からセカンドスキルの話を聞いたんだ。部活が終わった後、いつもみたいに自主トレしてたら、いきなり手元に『剣』が出るようになったって言ってた」
「は、はぁっ!? 手元から、剣?」
一体、どうシチュエーションだったのか、綾にはまったく理解が及ばなかった。
「うん。で、そこからしばらくしてさ、大輔以外にもそんな風にセカンドスキルが使えるようになったクラスメイトがいたらしいんだ。……でも、その子達は噂が立った途端、学校に来なくなっちゃったんだよ。その理由までは解らないんだけど」
「セカンドスキルを使えるのは、大輔だけじゃなかったワケだ?」
ドリンクバーのコーラを持て余していた綾が、片眉を吊り上げた。つまり、あような危険な能力を持った人間が、大輔以外にもまだ複数いるという事である。
「問題はここからさ。噂になった子が学校に来なくなってから、二年一組の生徒がどんどん不登校になったんだ。僕がAとBの世界を移動し始めたのも、ちょうどその辺からだよ」
「日高の空間移動と生徒の失踪事件の犯人は同一人物って事? でも、セカンドスキルの原因がなんなのか分からないし、犯人捜しのしようがないじゃない。……あれ? ちょっと待って。そういえば、あんたはセカンドスキルを持ってるの?」
もし日高がセカンドスキルを持っているのなら、失踪した生徒達はセカンドスキルを持っていたために、彼のように別世界へ飛ばされてしまった、とは考えられないだろうか。
だがそんな綾の希望を、カルピスを口に含んだ日高はあっけなく否定した。
「残念、僕はセカンドスキルを持ってないんだ。だから犯人の目的にも見当がつかない」
「あー、ダメか。まぁ、そう簡単にはいかないよね」
淡い期待は水泡に帰した。それどころか、謎は深まるばかりである。
次回はいつB面に飛ばされるかわからない綾にとって、問題解決の糸口さえ見つからないこの状況は、はっきりいって気が気でない。日高も彼女の不安を察して、気の毒そうな顔をした。
「これはあくまで僕のいた世界の噂なんだけど……。実は『B面の朝霧さん』も、セカンドスキルを持ってたらしいんだ。ただ、僕はあんまり朝霧さんと親しくなかったし、彼女もここしばらくは不登校だったから、詳しいことは分からないんだけど」
結局、セカンドスキルが何を原因として発生しているのかは解らないままだった。
時刻は夜の七時である。
そろそろ家に帰らないと、門限に厳しい朝霧家では祖父の説教が長くなる。綾はもう少しB面の世界の事情を詳しく聞きたかったが、背に腹は代えられない。
話をそこでいったん打ち切って、二人は支払いを済ませるとファミレスを出た。
「ひとつ、聞き忘れてたんだけどさ。……日高、その顔どうしたの?」
別れ際、綾は赤く腫れ上がった日高の小顔を見て言った。
フードを被ってそれを隠そうとしていた彼は、自分より背の高い綾を見上げ、それから、なんとも言いにくそうな顔を作ったあと、珍しく口をへの字に曲げたのだった。
「な、なんでもないよ。ホントに。そ、それじゃ!」
逃げるようにその場を去る日高を見送りながら、綾は首を傾げていた。
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