with Lionheart 41
約三ヶ月ぶりの更新となってしまいました…、大変お待たせ致しました…。
めちゃくちゃ疲れると言っていたがまさしくその通りなのだろう、悠理の転移で戻った京子は「ごめんけど詳しいことは起きたら言う」と告げて夕食も翌日の朝食も取らず自室に篭もり、リビングに姿を現したのは昼をだいぶ回った頃だった。
「おはよう、悠理、マリアちゃん。待たせてごめんね」
「おはよう京子。いや、いいけど、身体はもう大丈夫なの?」
「うん、もう平気だよ、久々に泥のように寝たわ…」
丸一日以上眠っていて凝り固まった身体を解しながら席に着いた京子の前に、音もなく温かいコーヒーが置かれる。
「ん、ありがとマリアちゃん、レオンハルトくんから、今日はもう連絡あった?」
「ううん、今日はまだ」
「なら、その時に一緒に話すのでもいいかな?」
ここまで待ったなら数時間増えたところで変わらない、悠理はこくりと頷いた。
コツコツと小さな音が響く。
レオンハルトからの合図だ。
昨日までと同じく、悠理が手の中にある耳飾りに魔力を込めれば、リィン、と聞き慣れた音がしてすぐにこちらも聞き慣れてきてしまった、機械を通したレオンハルトの声がした。
「こんにちわ、レオンハルトくん、昨日はどうもありがとうね」
「こんにちわ、ミヤコ。いえ、俺は特に何もしていませんが、なにかわかりましたか?」
そうは言えど、ルドルフの予定だけでなく警備の動きまで全て把握してより安全に確実に目に留まる場所で待機の指示を出したのはレオンハルトなので、何もしていないなどということは決してないのだが、きっとレオンハルトは本当に何か特別なことをしたとは思っていないのだろう。
「結論から言えば、きみのお兄さんはとっくに悪い術から解放されているよ、そのうえで、恋に溺れているように振る舞っている」
「そうですか…、兄は何故、そんなことを…?」
「うーん、私の口から言うより、本人から聞いたほうがよくないかい?」
それはそうだろうが、しかしルドルフは国王やジュエルの前ではもちろんのこと、レオンハルトと二人の時でさえ愚者の仮面を外そうとはしない。
そんな彼に、どうやって真実を口にさせようというのか。
「悠理が犯人でない証拠はすでにこちらにあることだし、そろそろ転移以外でこの家に出入りしたいと思ってたんだよねぇ」
ニコニコと和やかな口調の京子だが、悠理にはわかる。
未遂とはいえ親友を陥れられた彼女が実は相当怒っていると。
「ナイトも落ち着いて暇を持て余し始めた頃だし、王城散策してもらおうじゃないか。ネズミがしっぽを出さないなら本体ごと引きずり出すまでよ」
知的なブルーグレーの瞳が残忍さを秘めてキラリと光る。
自分の後ろでマリアが強く頷いている気配がした。
「レオンハルトくんだって、悠理に会いたくて限界でしょ?」
「それはもうとっくに超えていますね」
「ぶはっ、食い気味!そいじゃ、こっからの動きを説明するよ」
まずは今日これから、ナイトと二羽のカラスが城内に隠してあるであろうジュエルの契約媒体を探し出す。
城内にいくつかある「よくない気配」の中でジュエルに似たものを辿って、それがある場所さえわかれば任務達成となる。
見つかり次第人間たちの出番だ。
その場所が彼女の部屋以外であれば、隙を見てレオンハルトが持ち出せばいい。
しかし恐らくは最初の予想通り、彼女に与えられた部屋に隠されているだろう。
「なので、彼女には、夜中、こっそり、部屋を出てもらおう、と、思う」
いやに一言ずつ区切って話す京子に、悠理は嫌な感じを覚える。
「二人には大変申し訳ないが、レオンハルトくん、きみには再び囮になってもらうよ」
「な」
「わかりました、続きを」
悠理が口を挟む間もなく、レオンハルトは詳細も聞かず了承を示した。
「ふふ、本当に限界なんだねぇ」
からかうように笑って話し出した続きはこうだ。
依然国内のどこかにいると思わせている悠理から、「明日にでも帰る」といった旨の手紙を届けさせる。
そしてこれを、レオンハルトの目の前でジュエルの目に触れさせる。
「そんでここが大事なんだけど、とても難しいことなんだ…、…レオンハルトくん、その手紙を読んで、余り嬉しそうな態度を取らないでほしい」
「なん…だと…」
声だけでわかる。
レオンハルトの背景がベタフラであると。
冷静に考えればラブレターを送るわけでもなくそれは単なる連絡に過ぎないのだが、悠理に飢えているレオンハルトからすれば彼女の存在を感じるものに対して反応を薄くするというのは大層難しいことらしい。
「なんならいっそ物憂げにため息なんかついてほしいんだよね、そんで言葉には出さずチラッとジュエルを見てほしい、伏し目がちに」
「…っく…、……わかりました、やってやりましょう…、そのかわり、うまくいった暁には」
「もちろんご褒美を用意しよう、悠理が」
「えっ」
悠理は帰った時にレオンハルトへのご褒美がどれくらいまで膨らんでいるのか考えて、すぐに考えるのをやめた。
「レオンハルトくんの流し目でジュエルがときめくのは確定なので、そこでさらに切なげに微笑んでやれば、彼女は夜、部屋を訪れる、絶対に」
「………は?」
悠理自身ビックリする程低い声が出た。
「そんでその間に、私と悠理が契約媒体を持ち出す、それをもって、断罪劇といこうじゃないか。よかったねレオンハルトくん、悠理はこの案に反対したくても出来ないけど納得もできないって顔してるよ」
「えっ、待って、話の内容もだけどこの状態実況されるとか、最大の敵が身内にいるのやばいな??」
「ユーリ…、嬉しい。安心して、俺の全部は貴女のものだから、指一本触れさせないって約束する」
声だけでわかる。
レオンハルトは今、蕩けるような顔をしているに違いないと。
「…絶対だよ、指一本でも触れさせたら、ご褒美は全部帳消しだからね」
喜んでしまうのが恥ずかしすぎて素っ気ない言葉を返してしまったが、それにさえレオンハルトはクスリと柔らかに笑って「はい」と答えた。
「それじゃ、今日はこの辺りで、使い魔達がどれくらいで見つけられるかわからないから、明日からも定期的に連絡はしてくれるとありがたいんだけど大丈夫かな?」
「えぇ、それはもちろんです。それでは、また明日…あぁ、ユーリ?愛してます、早く貴女の元へ帰るために、頑張るから」
(なぜ、いま、ここで!!!!!)
「ふふ、貴女が愛しすぎてつい、それじゃ、今度こそ、また明日」
ふつりと魔力の流れが途切れて、温かな声が消える。
一抹の寂しさを感じるよりも、二人にも聞こえる状況で愛を囁かれたことへの羞恥が圧倒的に強く、悠理は自分が耳まで赤くなっているだろうことは容易に想像できた。
賢い使い魔達が契約媒体の在処を突き止めたのは、動き始めてから二日後のことだった。




