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白夜に愛をうたう星  作者: おジョー
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with Lionheart 40

悠理とレオンハルトが行動を別にしてから、二週間が経った。

会えない時間はさぞ長く感じるものだろうと覚悟をしていたのだが、二人を取り巻く環境は易々と感傷に浸る暇を与えてくれることはなく、まさしく瞬きの間に日々は過ぎる。




「悠理、今日はもう連絡あった?」


昼食を済ませたダイニングでそうたずねてきたのは、先日密かに居を移してきた京子だ。

越してから二日ほどは家中をソワソワウロウロしていたナイトも探索に満足したのか、今は京子の膝の上でくつろいであくびなどしている。

使い魔は賢いが、ある程度は動物としての本能が機能しているというのは、京子の言だ。

なるほど猫は家につくというし、彼とその主が腰をおちつけるのに相応しいと認めてもらえたようで、動物好きの悠理はもちろんのこと、家事の一切を取り仕切るマリアが静かに喜んだのは三日前のことである。


京子の質問に首を振って答えようとした悠理だが、ふいにコツコツと窓を叩く音がしてそちらに顔を向ければ、二羽のカラスと目が合った。


「おや、噂をすれば、かな?」


「そうみたいだね、おはよう、フォボス、ディモス」


窓を開けて声をかけてやれば、カラス達は鳴き声でなく、首を何度か左右に傾げて挨拶に応えた。

京子から使い魔の存在を聞いて、契約を結ぶならこの二羽と決めていた。

正直、動物と会話の出来る悠理からすれば使い魔を持つ必要は特にないのだが、 以前から何かと動いてくれている二羽のカラス達に愛着もあるし、人間より遥かに早い別れがくるのは寂しいなぁと思ってしまった。

もちろん、寿命のことも込みで彼らの意思は確認済みであるし、そもそもこの契約は双方の合意がなければ成立しないもの、らしい。

魔女の魔法は属性の外にある事象を可能にできるのだなぁと、それを体現している自身の存在を忘れて感心したものだ。

そんなわけで、二羽のカラスはそれぞれ火星の衛星の名で呼ばれることとなった。

ちなみに名を与えた際京子は「わかる、わかるよ」と頻りに頷いていた。


さて、カラス達がきたということは、城内にいるであろうレオンハルトは人払いを済ませ、聞かれたくない話ができる状態ということだ。

悠理は京子の耳飾りを手に取り、魔力を流す。

リィン、と音がして、すぐに途切れ、そして。


「…おはようございます、ユーリ」


潜めているのだろう、まるで星を見ながら囁く時のように抑えた声が聞こえてきた。


「おはよう、レオ。あれからどう?」


「残念ながら今日もいい報告はありません」


「そう…」


つまり、まだまだレオンハルトはこの家に戻れないということだ。

そして悠理達も表立った行動は出来ない。


なにかがおかしい。

土産を渡してから早くて三日、遅くとも一週間もすれば効果があらわれるはずだったのに、ルドルフの様子が一向に変わらないというのだ。

相変わらず早朝、部屋の前で鉢合わせた時だけがまともで、朝食以降はジュエルを蕩けるような瞳で見つめ、甘く囁いているという。

たかが小娘一人がかけた魔法程度解けないだなんて、知略の魔女の矜恃に関わる。


(…やばいな、もう面倒くさくなってきたな…?)


凪ぐのを待っているだけだなんて、得意だと思っていたのに。

いや、この世界に来る前の自分は間違いなく得意であったのに。

こんなにもすぐ、物理的解決に走ろうとする人間ではなかったはずなのに。

国に蔓延っている問題など正直どうでもいい、ただただ、誰かのせいで自分の傍にレオンハルトがいないというのが面白くない。

けれどそんな理由で形だけのものであろうと、国のトップに殴り込みをかけてもいいだろうかなどと考えるほど、今の自分は、彼にーー。


「…ユーリ?」


「っ、ごめん、ちょっとルドルフのこと考えてた」


「…へぇ」


あながち間違いでないのだが言葉選びを間違えた。

というのに気づいたのは、返ってきた声が一段と言わず三段とばしくらいで低かったからだ。


「や、あの、そうじゃ、なくて」


「わかってますよ、俺の愛しい魔女は他の男に興味を持っているわけじゃない、むしろ兄上のことは、俺を大事に思ってくれているからこそなんだって、理解しています」


唇だけを吊り上げて笑みを象っているであろうことが容易に想像できてしまう声音でレオンハルトは言う。


「だけど、やはり傍にいられないというのは、愛を育てるようです」


「え…」


「同じだけ不安の芽も育ってしまって、いっそ種ごと握りつぶしてしまおうかという気になりますね、種というのが誰のことかは、明言しませんが」


突然何を、と口を挟む前に続いた言葉に悠理は頬を引き攣らせた。

握りつぶしてしまおうってなんだ、明言されずともわかる、一体彼は種(悠理)をどうするつもりなのか。

向かいに座る京子も「うわぁ…」と言いたそうな表情で目を逸らしている。


「…あの…丁寧なご説明どうもね…誤解があるようなので一応言っておくけど、ルドルフがよくならないとレオが帰ってこられないから、なんとかしないとなぁ、ってのを考えていたんだ、よ…?」


「なるほど?」


幾分か声が柔らかくなったように思える、もう一押しだろうか。


「…その…、私、だって、レオが隣にいないのは、さみしい、よ…?」


恥も外聞もどうでもいい。

いやよくはない、よくはないが、これでレオンハルトの機嫌が直るというのなら、目の前に親友がいるところで乙女のような心情を吐露するくらいのこと、


(いや待ってやっぱ恥ずかしい無理)


顔が熱い、恐らく首まで赤い事だろう。


「……」


しかも反応がないので余計にいたたまれない気持ちになってきた。


「…あの…、レオ…?」


「…ユーリ、俺がいないとさみしいの?」


(やめて!私のライフはもうゼロよ!!)


「やめたげて!悠理のライフはもうゼロよ!!」


空気に徹していたというかそうせざるをえなかった京子が突然叫び出す。


「レオンハルトくんや、ここには私もいるんだ、大層可愛いことを言っている悠理の目の前には、私もいるんだよ…」


「えっ、待って、援護射撃かと思ったのに追撃なの???」


「あぁ、そうでしたね、我が家の住み心地は如何ですか、ミヤコ?」


(我が家って言った、今コイツ、この家のこと「我が」家って言ったぞ)


恐らく京子も同じ所に引っかかったのだろう、軽く頬を引き攣らせたのが見えた。


「…おかげさまで、ナイトも落ち着いたようだよ、ただ、家主の欠けた家に居座るのはどうも心地がよくないからね、微力ながら助太刀させてもらおうと思うんだけど、改めて状況をまとめても?」


ようやく閑話休題と相成り、三人で現状把握を行った。


1.国王を呪ったのが悠理でない、つまり本当の術者が誰なのかは調べがついていて、そしてその物的証拠は既に手元にある。

2.プレイディア子爵家令嬢、ジュエル・プレイディアはこの世界で変じた魔女であり、契約の媒体は彼女の手元にあるだろうが、特に後者はまだ確実とは言いきれない。

3.レオンハルトがジュエルに渡した髪飾りは異常な魔力操作を感知し悠理に伝えるものだが今のところ反応はしていない。

4.ルドルフの私室にはオルゴール、執務室にはペンがあるのを確認できているのに、計画で予定していた日数を過ぎてもルドルフの様子がかわらない。


「……時間がなかったから、効力をちゃんと付与できていない可能性は?」


「可能性としてなくはないけど、限りなく低いと思う」


呪いと共に与えられた祝福の力で行っていることを説明すれば、京子は納得したように「あぁ」と呟き、再び考え込む。


「うーん…、そうであれば、何か、こう、別の思惑が絡んできているような気がするなぁ…、ねぇ、私が第一王子をひと目でいいから見られる機会はないかな、レオンハルトくん」


「それは、兄上に会う、ということですか?」


「んにゃ、向こうから認識される必要はないから、ホントに見るだけでいいよ、もちろん危害を加えたりはしないし、悠理と同じく私もいくつか祝福を与えられているからね、その力を使おうかと思ってね」


言われて悠理は京子の祝福を思い返す。

超がつくほどの速読、超がつくほどの記憶力、某王国の主くらい動物に懐かれる、それから、大変に疲れるが、人の心が見える、だったか。


「私の推測では、第一王子は既にまともなんじゃないかと思う。その上で、未だに彼女に心酔しているフリをしているんじゃないかな、と思ってね」


「…なるほど、見かけるだけでよいというなら、兄上の予定を調べて、公務で城を出る日を教えます、あぁ、そろそろ時間かな…、また明日、フォボスとディノスを飛ばします」


忘れがちだがレオンハルトは優秀な第二王子なので、日中に城内で一人になれる時間はそう長くない。

プツリと魔力の流れが切れた。

ちなみにカラス達はあくまで悠理の使い魔だが、レオンハルトに使われることに対してなんの疑問も抱いていないようだ。

レオンハルトの場合は使役しているというより、昔から悠理を手伝っている同胞と彼らが思っているので協力的なのだが。




そうして三日後、公務で城の外に出たルドルフを遠くからじっと見据えた京子は目頭を揉みほぐしながらニヤリと笑って呟いた。


「やっぱり、彼の思考はとっくに正常だったよ、キレイな顔してるだけじゃないね、ちゃんと人の上に立つ人間のようだ、いいね、あぁいうタイプ」

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