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白夜に愛をうたう星  作者: おジョー
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with Lionheart 39


少し時間を遡る。


悠理達と別れ単身で城に戻ったレオンハルトは、まずジュエルに髪飾りを渡した。

監視とルドルフへ渡す「土産」に些細な疑惑も持たせないためのカモフラージュでしかないのだが、大層喜ばれた。

それはもう、ものすごく。

「嬉しい…!」と潤んだ瞳も、ふわふわ揺れるストロベリーブロンドも、押しつけられる柔らかな胸も、計算され尽くされた仕草の全てが、きっとそこらの男なら喜ぶものなのだろう。

レオンハルトにとっては鳥肌と舌打ちを押し殺さなくてはならない苦行であったが。

絡められた腕をほどいて部屋を出たレオンハルトから思わず重たいため息がこぼれたのを見て、信頼を寄せる部下である男が苦笑する。


「レオンハルト様、あぁなることがわかっていてあんなこと仰ったのでしょう?」


「わかっていた、いや、出来れば外れて欲しかったが、マリアの言う通りだった…」


土産を渡すシチュエーションもセリフもマリアに指示されたことをそのまま実行した。




こっそりと呼び出した一室。

ーー兄上や陛下にはどうか内密に。嫉妬の余り殺されかねませんので。

自らの唇に人差し指をあてて苦笑混じりに言えば、わざとらしく驚かれた。

ーー親兄弟の絆?そんなもの、あなたと天秤にかける価値などないでしょう。

肩を竦めて見せれば、悲痛そうな面持ちで首を振る。

ーーそれでも、どうしても、貴女にこれを、受け取って欲しくて。

ダメ押しとばかりに髪飾りを乗せたジュエルの手をそっと両手で握ってやれば、頬を染めて、何故か目を瞑られたので気づかなかったことにした。

なんならその場でつけてくれとせがまれたが、悠理以外の髪に触れるなんてまっぴらごめんだったので適当に言いくるめて立ち去った。

もちろんそれもマリアの想定の範囲内だったので用意されていた言葉をなぞっただけだ。

よくもまぁ、あんな歯の浮くようなセリフと動きを考えるものだとレオンハルトは歩きながら再びため息をこぼす。

精神的にはすでに疲労困憊、なんならこの先の計画など全て無視して今すぐ悠理の元へ駆けつけ褒美をねだりたいところだがむしろこれから向かう先が本命である。



扉を軽くノックすれば、誰何の返事はすぐにきた。


「兄上、レオンハルトです、先程戻りました」


「あぁ、レオンハルトか…、いいよ、入りなさい」


些か残念そうな声なのは、今もルドルフがジュエルにのぼせているからだろうと解ってはいるが、なんとなくムッとしてしまう。

レオンハルトは立派なブラコンなのだ、仕方がない。


「どうしたのレオンハルト?聖魔女とどこかへ行っていたんじゃなかったの?」


聖魔女。

以前のルドルフは、悠理のことをそんな風に呼んでいなかった。

レオンハルトの恩人で、立場も、国も、命でさえ惜しくない、大切な存在だと知っている。

そんな相手を国の定めた記号で呼ぶような、そんな人間ではなかった。

先程ジュエル相手になぞったセリフを思い出した。

今の二人に兄弟の絆、など。

心に湧いた苦い気持ちを噛み殺し、何も気にしていないように言葉を返す。


「えぇ、まぁ…、もう少しゆっくりする予定でしたが、兄上の婚約解消の報せを聞いて驚いて僕だけ先に戻ってきてしまいました。ルシフェル様はまだあちらで羽を伸ばしていらっしゃいます。あぁ、これ、土産です」


敢えてレオンハルトも悠理のことをルシフェルと呼んでみたが、それもどうでもいいようで気にかける素振りはない。


「お土産?ありがとう、嬉しいな、開けても?」


「どうぞ、気に入って使っていただけるとよいのですが」


ルドルフに渡したのは彼の好きそうな細かい細工の施された筆記具だ。

それ自体が銀で出来ていて、胴軸の部分に凝った彫刻と控えめに宝石があしらわれている。

店で売られている時についていたのはガラスだったが、購入後王都の宝飾店に持ち込んで同じ色の宝石にかえてもらった。

ちなみに悠理が以前レオンハルトのピアスを作らせた店である。


「ん、キレイだね、明日から早速使わせてもらうよ」


「是非。それで、兄上、婚約解消というのは…?」


「あぁ、そのこと。うん、お姫様、攫われちゃった」


「…は…?」


「本当はずっと傍に控えてる騎士のことが好きだったんだって、子供の戯言だと思ってたんだけど騎士の方も満更じゃなさそうだったし、僕にもジュエルがいるしね、だから、攫うのを許してあげたんだ」


優しげに、いや、むしろ楽しげに笑うこの人は、一体誰なのだろう。

確かに幼い姫君との間に恋情は微塵もなかっただろう、しかしルドルフは誠実に、真摯に向き合っていたはずだ。


「そう、ですか…、では、両国が納得の上で、解消、ということなんですね…?」


レオンハルトはルドルフの変貌ぶりに目眩さえ感じながらも質問を重ねていく。

今回のことで関係が悪化したというのなら早急に手を打たねばならない。

万が一戦争にでもなれば悠理は間違いなく前線に送られるだろう。

そんなことは絶対に許さない、どんな手を使ってでも避けるために、現状の把握をしておかなくてはならないのだ。


「うん、それはね、大丈夫、戦争になってもいいかなぁと思ってたけど向こうが予想以上に下手に出てくれたからね、外交にはなんの問題もないよ…あれ、顔色が悪いね?」


「…は、問題はないんですね、少し安心しました…、そう、ですね、旅の疲れがでたかもしれません、今日はこれで失礼します」


「うん、ゆっくり休むといいよ」




部下ともわかれ城内で自室として用意されている部屋へと戻ったレオンハルトは、倒れるようにソファへと身を投げ出し、今日一番の重いため息をついた。


悠理の施した「悪いものを退けるまじない」の効果があらわれるまで早ければ三日程だと言う。

悠理とマリアはその間に国王を呪った犯人の証拠を回収し、レオンハルトはルドルフとできる限り同じ時間を過ごして経過を報告する予定なのだが、初日から心が折れそうだ。


「はぁ…、無理…なにあれ…ユーリ…会いたい…無理…」


正直もう証拠とかどうでもいいんじゃないかと思ってしまう。

誰に何を言われてもあの女は今すぐ殺しちゃっていいんじゃないかな…などと考えてしまうのも仕方がない。

それ程までに、恋に狂ったルドルフの愚かさに心を抉られた。

少年と青年の間の体が横になっても充分広いソファで身動ぎして、閉じた瞳を腕を曲げて覆い、特大のため息をもう一つ。


愛しの魔女は、今頃何をしているだろう。


自分と同じ色のはずなのに、己のそれよりもずっと輝いて見えるサラサラの黒髪も、

光の下で僅かに色味を変える、まさしく贈ってくれたブラックスターのような瞳も、

なにもつけていないのにどこか甘い香りも、

彼女だけの呼び名で、彼女のくれた名前を呼ぶ声も。

彼女を彩る全てが愛おしくて堪らない。

一時だって、離れ難いのに。

あと何日会えないのかなんて、考えたくもない。


(………疲れた、もういいやこのまま寝よう)


どうせあの家でないのなら、とういうより悠理の傍でないのなら熟睡などできやしない。

暫く会えないのなら、何か悠理を感じられる物を借りてくるんだったな、などと詮無いことをぼんやり思いながら、レオンハルトは意識を手放した。

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