Side Jewel
小さな頃から、「お姫様」になりたかった。
強い男に愛され、乞われ、幸せになるのはいつだって見目麗しい、特別な力を持つ女だ。
それは自分のように痩せて艶のない体でも、彫りの浅い顔でもなく。
ただ内包量が多いだけで特に強みのない魔力でもなく。
巷では様々な憶測が飛び交っているようだが、私は紛うことなきプレイディア子爵の実子である。
一年ほど前までは、「リエラ」と呼ばれていた。
…呼ばれることは殆どなかったが。
よくある話だ。
父は妻の側に控える女に手を出した。
日々に疲れた男のたった一度の気の迷いだった、わけではなく、初めこそ無理やりに押し込めた腕の中で父は女に愛を囁いたのだという。
やがて絆された女の胎に命が宿るのは必然。
そうしてこの世にひり出されたのが私というわけ。
不幸なことに私の容姿は父にそっくりだったので不義をごまかすことなど到底できず、彼の妻は激怒した。
怒りの矛先は私の母へ、母が死んでからは私に向いた。
それが漸く落ち着くのは私の身体が女になった頃だ。
異母弟が、出来た。
今までの苛烈さが嘘のように穏やかな顔で赤子を抱く女に、吐き気すら覚えた。
ひどい侮蔑も暴力もなくなった、代わりに、私はいないものとして扱われた。
もしかしたらその時に死んでいることになっているかもしれないが、どのみち必要としない名前に興味はない。
幸い使用人は何名かを除いて概ね私に同情的だったので満たされることはなくとも飢えて倒れるようなこともなかったし、以前のようにわざわざ探し出して打たれるようなこともなくなった。
当然外出などできるはずもなかったので、同情的な使用人達によって文字を読む、書くくらいのことができた私は異母弟とかち合わないようにだけ気をつけて書室に入り浸った。
そうしてそこで、幸せになる女達の物語に出会った。
美しい容姿。
特別な才能。
清廉な心。
幸せな結末を迎える物語の主人公は、そのいずれか、若しくは全てをその身に備えていた。
私には、ひとつもないものだった。
そうか。
だから私は、幸せになれないのか。
すとん、と理解はしたが、納得は出来なかった。
私は、幸せに、なりたい。
美しい男に欲しがられて、愛を囁かれて、幸せな結末を迎えたい。
どうしたら、手に入るのだろう。
欲しい、欲しい、欲しい。
ある時、決してしない筈の声が聞こえた。
それまで踏み入ったことのない方の棚から、だ。
書棚から声が聞こえるなんて、馬鹿げている。
けれど私には確信があった。
あぁ、私は選ばれ、そして呼ばれているのだ、と。
私を呼んだ声の通りに手に取った書物の頁を開き、載っていた儀式を行い、現れた何者かと契約を結んだ。
その行為によって私は「魔女」となり、それはこの国で忌避される存在で…、などと、七面倒臭い事は後から知ったが、そんなことはどうでもいい。
バレなければ、いいんだもの。
契約によって手に入れたのは、幸せな結末を迎える為に必要なもの。
美しい容姿と、特別な力。
清廉な心も求めてはみたが、鼻で笑われた。
代償は、近親者からの私の記憶と死後の魂。
そんなものでいいのかと、つい聞きそうになってしまった。
全くもって痛くも痒くもない。
むしろ都合がいい。
人の記憶にも家の記録にも残らず、姿も能力も違うリエラだった娘が特別な力を持つ女であるジュエルとしてプレイディア家に迎え入れられるのは簡単だった。
使用人達はリエラの事を覚えてはいるだろうが、あれと私を結びつけるようなことはないだろう。
治癒の力を持つと噂の娘。
王城で開かれる夜会への招待はあっという間だった。
なぁんだ、こんなに簡単なんだ!
王子には、一目会えればそれでいい。
それだけで、彼らはみぃんな、私に夢中になるのだから。
そうすれば私は、幸せな結末を手に入れられる。
金髪碧眼の第一王子ももちろん素敵だけど、それよりも私が欲しいのは、第二王子だ。
産まれてくる子供の髪色が濃くて不貞を疑われるのも嫌だし、何よりもあの、人を寄せつけない雰囲気!
それが私の前でだけほどけるのを想像するだけで身悶えてしまいそう。
うん、決めた。
私が結ばれる相手は、レオンハルトにしよう。
なのに。
なのに、なんでよ。
どうして、私のものにならないの?
調べてみれば、レオンハルトの傍には聖魔女と呼ばれる存在がいるらしい。
そのせいで、彼の瞳は私を映さない。
取り除かなくては。
私の幸せな結末に、そいつはいらない。




