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白夜に愛をうたう星  作者: おジョー
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with Lionheart 36

角部屋といっても、その造りは他と大して変わらない。

レオンハルトの部屋から見える景色も、悠理の部屋から見える景色も、そう差はないだろう。

ましてやそれが眼下に広がるものでなく、星の瞬く夜空であれば尚更。


「ね、なんで私の部屋?別に、レオの部屋とかわんないでしょ?」


部屋から空を見あげようと思えば、窓のある壁際に置かれたベッドに座るしかない。

着替えの後、自宅の巣とは比べるまでもなく固いマットレスで、開いた足の間に座らされ後ろから抱え込まれている悠理がふと疑問を零した。


「俺の部屋なんかきたら呪いとか関係なくめちゃくちゃにキスするしなんなら乙女じゃなくなるよ」


頭を撫でる手と答える口調の優しさからは信じられない言葉に、ぼぼっと音が出そうな程悠理の顔が赤くなる。

レオンハルトは先程から、悠理の頭を撫で、その先で揺れる髪をすくい取っては唇をおとすというのを繰り返している。

まるで身の内に猛る焔をそうすることによって宥めているような行為に、それが脅しでも部屋に入れたくないがための口実でもなく、ただの事実なのだと理解させられてしまう。


「…そういえば、ね」


心地良い沈黙の中に滲む焦燥感に耐えられなくなった悠理が、誤魔化すように再び口を開いた。


「ん…?」


続きを促すためのただの相槌から溢れ出す色気が半端ない。


「えと、あの、呪い、呪いね、あの、キスする時、それで解けたかどうかわかる方法が、あるんだって」


「へぇ」


髪への口付けに満足したのか、それでは足りなくなったのか、レオンハルトの声がそれまでよりずっと近くなり、悠理の肩が少しだけ竦む。


「あ、の…詳細は、ね、聞いてないんだけどね」


「ふぅん、それは、その瞬間にわかるものなんだ?」


むしろその瞬間にしかわからないのだろうか。


「んー、どうなんだろう、でも多分そうなんじゃないかなぁ?それ以降に確認できたら、むしろダメな気もする」


悠理の言うこともわからなくもない。

それまで呪いによって不老不死であった人間がそうでなくなったことをなんらかの方法で知ってしまえば、それまでの生き方にもよるだろうが命を狙われたりするようになるかもしれない。


「…それもそうだね…それじゃ、今日も大人しく待てするとしようかな」


ふぅ、と吐かれたため息が悠理のうなじを撫でた。

そのまま項垂れた顔を肩口にうずめてぐりぐりと押し付けられ、抱きすくめる腕の力はますます強くなる。


(…これは、待てできていると言えるんですかレオンハルトさん…!?)


最早窓の外を眺めるどころではない。

「星を見たい」は、とんだ隠語になってしまったものだ。


「…ユーリ、ねぇ、今日は、このまま貴女を抱いていたいな」


「へぁ…!?」


悠理を逃がさないと言うように苦しくなる一歩手前まで抱きしめる力を強めていた腕がふと緩む。


「…カミサマってのは、随分キレイな顔をしてたね」


「……え?」


「………自分が、こんなにも狭量だなんて、いや知ってたけど…それにしても…」


「…………え??」


独り言のように呟かれた言葉に思わず勢いよく振り返れば、ぶつかるのを避けて顔を上げたレオンハルトと目が合った。

こんな色も見せるのかと、揺れるアンタレスにいつも以上に心を奪われる。


「……言ったでしょう、過去にすら嫉妬してやまない、独占欲の強い男だと」


いっそ開き直りともとれる態度でレオンハルトがプイと顔を背けた。


(……は、なにこれ可愛い)


レオンハルトの独占欲など、今までだって何度も見せつけられてきたはずなのに。

彼への感情を認めることを自分に許した途端、それが今まで以上に嬉しくて恥ずかしい。

悠理は抱え込まれた体の向きを少しだけ変えて、そっとレオンハルトの頭に手を伸ばした。

触れた黒髪は柔らかく、指の間をスルリと滑る。

後頭部はきれいに丸く、イケメンは骨格まで美しい。などと今の空気にそぐわない感想を抱いた。


「レオ…」


そっと呼びかければ、さっきよりも感情の凪いだアンタレスに悠理の姿が映る。


「ふふ、可愛い、私のアンタレス…」


「…ユーリ?」


「私にとって一番キレイなのは、レオだよ…、でも、妬いてくれたのは、嬉しい...私も、レオが私のこと想ってくれてるってわかってたって、その…や…妬いたり…する…し…」


レオンハルトがどれだけ想いを言葉にしていたって、二人の関係は曖昧で。

そこから先に進めない理由ももちろん理解していて。

それでも、悠理は自分だけの魔女なのに、そう思ってしまうことが、悠理にとって負担になるのではないのかと理性が本能に棘を刺す。

悠理に嫌われたら、本当に生きていかれないのに、大人になりきれない心が暴れるのを制御できずにワガママを言ってしまう。


レオンハルトが燃やした嫉妬の炎に混じっていた不安を取り除いてやりたくて、シラフの悠理は相当恥ずかしいが自分も同じ感情を抱くのだと口にした。

以前ジュエルに嫉妬していたことを認めさせたことはあるが、改めて悠理から独占欲を言葉にされたレオンハルトは目を見開く。


「……ユーリ…、貴女は、どこまで…」


俺を落とすの、と囁く声は甘く掠れて、まんざらでもなさそうだ。

というより嬉しくてたまらないようで、耳と尻尾が見える。

勿論悠理の幻覚だ。


「はぁ…もう…ホント好き…貴女だけが一生好き…ずっと愛してる…」


柔らかく頬を両手ではさまれて、顔中に口付けられた。

静かな部屋にいくつも聞こえるリップ音が悠理の羞恥心をますます掻き立てるが、逃がしてはもらえない。


「ん…、ちょ…レ、オ…」


「はー、ユーリ、ホント、ダメだと思う、いや嬉しい、嬉しいけど、ホント、無理…好き…、なんで俺全部解決したらとか言ったんだろ…今すぐキスしたい…、全部俺のものにしたい…はー…もうホント、あの二人殺すか…?」


ちゅ、ちゅ、とキスを落とし続ける合間に零すには余りにも物騒な言葉である。


「ユーリ、あとどれくらいで帰るの?」


「んぇー、もう少しゆっくりしようと思っては…いた、けど…」


普通のテンションで会話をするが、レオンハルトの唇は変わらず悠理の顔に触れては離れを繰り返している。

慣れって怖い。


「はぁー…がんばろ…唇以外はキスさせてもらえるんだし…あーでもやっぱ星見るならユーリのあの部屋がいいな…、広いし落ち着く…」


ぶっちゃけてしまえば、この地に立った瞬間、転移の移動が可能になったわけだが、悠理は賢明にも口をつぐんだ。

レオンハルトには悪いが、もう少しだけ、旅の恥としてかき捨てられる時間を楽しんでいたい。

彼の底なしの愛情と、年相応の欲を受け止めるための心の準備も必要だ。


なんてことを考えていたら、無防備な首に口付けられ、案の定、吸われた。

昨晩とは別の場所を。


「ちょ、レオ、レオっ…!!」


「…ユーリが俺の独占欲受け入れてくれたのが嬉しくてつい」


衝動のまま動いて反省しているような口ぶりだが、レオンハルトはその後もいくつか痕を増やしていく。

当然反省も後悔もしていない。


「…も、だ…め…!」


「…ん…これで最後にする…」


流石にマズいと弱々しく押し返したレオンハルトの頭部が悠理から離れる頃には白い首筋に新しい鬱血痕がいくつも残り、悠理のライフはゼロになっていた。


「…ふふ、いい眺め…、ユーリもそのうち、俺に同じシルシを残してね」


満足気に自らの唇をペロリと舐めたレオンハルトの瞳から先程まであった不安の色は消えたが、代わりにとんでもない色気を漂わせている。


「そろそろ寝ましょうか、俺の魔女様?」


このタイミングで就寝を促す理由を悠理はわかっているので、言いたいことは山ほどあるが全て飲み込んでコクリと頷いた。

これ以上薮から狼を出す訳にはいかない。

おいで、と呼ばれるまま、広くも狭くもないベッドで差し出されたレオンハルトの腕に頭を預ける。


「ん、いいこ…おやすみなさい、俺の魔女」


ワシが育てたと言える相手にいい子と言われる100余歳。


「…おやすみ、私のアンタレス」


おやすみと言いつつも、せめてもの仕返しに眠れない夜を過ごすがいいさ!という思いと共に悠理は少しだけ頭を上げてレオンハルトの白い首に一瞬だけ唇で触れた。


「…!!!!??」


今はまだ、ここまでしか出来ないけれど。

きっと想いの長さはそんなに変わらないから。

待っててほしい。

そんな願いも、少しだけ込めて。


硬直するレオンハルトをよそに、何事もなかったように寝心地のいい場所におさまった悠理は目を閉じた。

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