with Lionheart 34
神、曰く。
この世界においての魔女とは、悪しき存在と契約を交わした者のことである。
自らのうちに在る以上の力を求め、代償を支払うことにより、外から取り入れた過大なる力を振るう者。
「うん、で、結論、他人から見てその人が魔女だとわかる物的証拠は?」
『ミヤコはせっかちだな』
「そうかも、で、答えは?」
『ある』
その後も続いた説明によれば、
つまりそれは、本人と相手が交わした、契約書のようなものであるらしい。
形は人それぞれで、書面で残している者もいるらしいが、殆どの者がもっと丈夫で、肌身離さずつけていられるような代物を選ぶようだ。
『それより、現状を聞く限り、ミヤコの友人は女が魔女である証拠より、自らの無実の証拠を探すべきなのではないか?』
「あぁ、うん、それね、私も昨日聞いてて思った」
「うーん、私も今朝までそう考えてたんだけどね、一刻も早く城から出たかったし、まぁぶっちゃけ出かける前にある程度の手も打ってきたから、そっちはあんまり、というか、今回のことが解決しても根元から叩いとかないと意味なさそうだなって気づいた」
「「なるほど」」
神と京子の相槌が重なった。
腐っても悠理は知略を讃えられた聖魔女だ、転ばされてただで起き上がるような阿呆ではない。
(ていうか神様、アフターケア充実し過ぎでは?)
話し始めた時に答えるのを渋っていたのが嘘のように、些細な質問にも丁寧に答え、あまつさえ京子本人のことではないのに心配するような口ぶりである。
「すみません、神様、ご心配?おかけして…?」
『いや、かまわない。我々も楽しんで呪いを与えるわけではない、ましてこんな面白そ…えー…ゆかい…いや…えー……興味深い?そう、興味深い案件なら、他の奴らも多少の肩入れには目を瞑るだろう』
「ねぇ今愉快って言わなかった?」
流石、暇を持て余した神々。
誰も彼も他人の恋バナが大好きらしい。
「そいじゃ、またなにかあったらお尋ねしまーす」
京子の神の扱いが軽い。
それはもう春の風に舞う綿毛くらい軽い。
『あぁ、いつでも頼るといい、それでは、おやすみ、私のミヤコ』
(…ん????)
「はーい、おやすみなさい」
京子がヒラヒラ指先を動かすと、ホログラムっぽい神様の姿は消えた。
「…えっ、スルー!?」
神は「私の」京子と言っていた。
悠理の聞き間違いではないだろう。
「え?あー、あれか、いつものことなので。暇が過ぎて、新しい玩具でも欲しくなったんでしょうよ」
そんなものなのだろうか、神との交流など初めの一度きりだった悠理はなるほど、と頷くしかない。
「さて、それで、どうやら証拠はあがりそうだね、そのジュエルってのが魔女で、私たちみたいな特殊なタイプでなければ」
「逆に、私たちみたいのだったらわかりやすいんだけどね、一回殺してみればいいんだし」
「悠理、今割とエグいこと言ってるけどわかってる?」
「わかってますよー」
伊達に戦火を鎮めるのに一役も二役も買った魔女ではない。
人の命が散る瞬間だって否応なしに目にしているし、そのうちのいくつを自分が散らしたのかも、数え切れない。
「ていうか正直それも考えたからね、面倒くさいから二人とも殺しちゃおっかなって」
「ふたりとも」
「ジュエルと国王」
「さらにとんでもねぇ発言なんだが」
冷たくなったティーカップを手の中で温め直して口に運びながらつまらなそうに悠理は続ける。
「いや二人に関しては生かしてるのが充分慈悲だと思ってるよ、それでルドルフになんかあるのも嫌だし」
まさかルドルフ達の間にあるものが真実の愛だとは到底思えないが、万が一にも、悠理の報復によってルドルフが傷つくのは本意ではない。
「ルドルフって、第一王子だっけ」
「そう、レオの実兄」
「ミヤコ、どうしよう」
と、ここで今まで空気に徹していたレオンハルトが口を挟んだ。
「えー、それ聞かなくちゃダメなやつ?」
うんざりした表情で返す京子は何がどうしようなのか、聞かなくともわかっている、そしてそのまま流してしまいたい。
「俺の魔女が優しすぎる」
「他所でやれ」
悠理はたった今まで、残虐にも思える発言をしていたはずだが、優しすぎるときた。
「ユーリ、兄上の心を守ろうとしてくれてありがとう。けどもしユーリに何かあるなら、迷わず切り捨てて欲しい、彼も、国も。俺にとって、貴女以上に大切なものなんてなにもないんだから」
ナイトを膝に乗せたままレオンハルトが悠理の手を握る。
それを振りほどくこともなく、二人の視線が絡まる。
「え?悠理今日は一滴も飲んでないよね?ってかマリアさん、いつもこんな空気の中にいるの?え、ヤバいね、尊敬するわ…」
「いえ、いつもはもう少し距離が近いです、物理的に。ミヤコ様もじきに慣れますよ」
「慣れたくないわぁ…」
京子の回したグラスの中で、カラリと氷の音が響いた。
「おふたりとも、家主の方がお困りですよ」
この有能な侍女は、仕える人間以外の感情も踏まえて行動してくれるらしい。
「…んん、ごめん、京子」
「いーえぇ。三人はこれからどうするの?私が契約を交わした魔女なら、証拠たりえる証は馬車で三日もかかる場所に置いてはおかないんだけど」
「そうだね、ジュエルが魔女なら、契約の証はここにはないと私も思う…、うーん、どーしよっかな、正直、もっと時間かけるつもりだったわ」
悠理としてははあまり早く王都に戻りたくはない。
レオンハルトにもマリアにも、もっと広い世界を見せたい。
国は越えられないにしても、色々な場所に連れていきたい。
買った土産物は腐らないのだから、もう少しだけ、喧騒から離れて二人とのんびり過ごしたかった。
「…とりあえず明日は一日のんびりしようかなぁ、その後のことは、明日の夜にでも決めようかな」
「ん、じゃ、決めたらまた連絡してくれる?夜ならすぐ繋がると思うから」
「わかった、ありがとう京子!そんじゃ、今日はもうお暇するよ、レオ、マリア、宿へ帰ろう」
悠理の言葉を聞いて、賢い使い魔である猫のナイトはレオンハルトの膝からするりと抜け出す。
レオンハルトもグラスに残っていた果実酒を平らげて立ち上がると、ソファに座る悠理に手を差し伸べた。
「ありがと、それじゃぁ京子、またね、お邪魔しました」
「んー、おやすみ」
ソファから立ち上がっても当たり前のように手を繋いだままの二人にそれを指摘するのは流石に野暮だろうが、敢えて声に出したい、悠理をからかいたい気持ちをグッと堪えて、京子は三人を玄関先で見送って、鍵をかけた。
次回更新ですが、
n回目となるストーリーを進めたい作者VS悠理とイチャつきたいレオンハルトの攻防が凄まじいため、決着が着き次第となります(˘ω˘ ≡ ˘ω˘)




