with Lionheart 33
早めに書くって言ったのどこの誰だよ…、大変お待たせしました。
日が落ちて昨日とは別の店で軽めの夕食を済ませたあと、悠理達は再び京子の部屋を訪れた。
「やぁ、昨日ぶりだね、みんな」
京子はドアを開けて三人を出迎える。
「お邪魔しまーす」
「………血の匂いがしますね」
飲み物を用意するから適当に座っていて、と背を向けた京子を玄関からじっと見つめたまま、マリアが呟いた。
「…は?」
音もなく近づいてきたナイトが、グイグイと頭を擦り付け、鍵しっぽをふくらはぎに巻き付けてくる。
昨夜の時間でものすごく悠理に懐いた、というわけではなさそうだ。
「…ナイト、もしかして、京子…」
「にぁお」
「?どしたの、そんなとこ突っ立ったままで?」
飄々とした京子は怪我をしているように見えないが、使い魔が言うなら嘘ではないのだろう。
マリアの鼻の良さにも舌を巻くが、今はそれどころではない。
「…あぁ、うん、お邪魔します」
「悠理、それさっきも言った」
クスリと笑う京子に促され、京子と並んでソファに腰掛ける。
レオンハルトとマリアは毛の長いふかふかの絨毯に腰をおろした。
ローテーブルの上に京子特性の果実酒が入ったグラスがレオンハルトと京子の分で二つと、酒に呑まれた苦い記憶が余りにも新しい悠理とマリアの前には温かい紅茶のカップが二つ、置かれている。
「それで、私に聞きたいことって?」
「あぁ、うん、その前に、京子、怪我したとこ出して」
「えっ」
「え、じゃない。なんでそう昔から自分のことに無頓着なの」
怒りと呆れを多分に含んだ目でジトリと睨まれた京子は、気まずそうに視線を逸らし小さく笑った。
「いやぁ…、どうせ死なないしと思うとつい、ね…」
「チッ」
「悠理ちゃん舌打ちした!?今舌打ちしたよね!?」
悠理と同級生であった時分、つまり生身の人間だった頃から京子はどうにも彼女自身に対して優しくなかったが、どうやらそれはこちらへ来てから悪化しているらしいことを発言から感じ取った悠理は、見せつけるように苛立ちを態度に出す。
「そういうのいいから早く見せて」
「うぅ…」
緩慢な動きで肩から落とされた服で隠されていた部分を見て、悠理は再び舌打ちした。
「…なにしたの」
「いやぁ、ちょっと下手うっちゃって…、あ、でも抱えた子は無事だったから!」
「黙って」
「はい」
どうやら何かを庇ってつくった傷らしい。
どこかにぶつけたのだろうか、肩は紫色に腫れ上がり、腕の付け根から肘にかけて大きな擦過傷ができている。
切ったり刺したりしたような深い傷ではないが、これだけの広範囲なら血の匂いがしてもおかしくはないだろう。
だが、
不老不死は、死なないというだけで、痛みを感じないわけではない。
「レオ」
「ん」
名前を呼ばれただけで悠理の意図を理解したレオンハルトが腰をあげた。
「え、なに」
二人がしようとしていることはわからないが悠理がとんでもなく怒っていることだけは理解できる京子は身を捩るが、そんな力どこから、と思えるくらい強く手首を掴まれていて逃げ場がない。
「あー、ここが我が家だったらめちゃくちゃ染みる薬草全力で擦りこんでたぁ」
「ぇ…悠理こっわ…」
「ミヤコ、じっとしてて」
悠理の笑顔に恐れ戦いていると、背後に回り込んだレオンハルトがソファの背もたれ越しに京子の傷に手を翳した。
「レオンハルトくん?」
なにを、と問いかける間もなく、レオンハルトの美しい手から赤色の魔力が流れ出し、ジクジクと嫌な熱を持っていた部分が心地よい温かさで包まれる。
「わ…」
ほんの数分もしないうちに、面倒だから膿まないといいなぁ、くらいに考えていた大きな傷はすっかり消え、実は相当我慢していた肩の痛みも引いた。
京子からは見えないが、こちらも恐らく快癒しているのだろう。
「レオンハルトくんスゴいね、ありがとう!こんな上手い人初めて見たよ!」
「どういたしまして」
感激して勢いよく振り向き礼を述べる京子に対し、まるでなんてことないとでも言うようにひらりと手を振るレオンハルトに、回復の様子を間近で見ていた悠理も声をかけた。
「ありがとう、流石レオだね」
「ふふ、可愛くて愛しい俺の魔女に、昔それなりに扱かれたからね、貴女の大事な人に傷が残らなくてよかったよ、あとでご褒美をちょうだい?」
レオンハルトは先程京子にしたのと同じように背もたれ越しに悠理の背後から手を伸ばし、彼女の柔らかな頬を優しく挟んで上を向かせると、人目も憚らず額に口付ける。
「ちょ、レオっ…!」
「ぶふっ、返答の温度差がひどい!!いやでもほんと、ありがと、回復魔法は苦手だから助かったよ。それで、聞きたいことがあって来たんだよね?」
「そ、そう、そうなのっ、レオ、こらっ、レオっ、も、わかった、あとで、あとでっ!」
あとで、と言った瞬間レオンハルトのアンタレスがギラリと光ったのに悠理以外は気づいたが、勿論誰も口にはしない。
言質をとったレオンハルトがそれでも渋々悠理から離れ、元いた場所に座ると、胡座をかいた足の間にするりとナイトが滑り込んだ。
「おや、珍しい、ナイトがそんなに誰かに気を許すなんて」
ナイトはそこで何度か身動ぎすると、落ち着くポジションを見つけたようでくるりと背を丸めて寛ぎだす。
「え、なにそれ羨ましい」
悠理は祝福によって動物たちと会話は出来るが、話が出来るのと懐かれるのは別物だ。
「はは、素直か。そのうち悠理にもあぁなるんじゃないかな?で、私に聞きたいことって?」
「うぐぅ…あぁ、うん、この世界でね、魔女になる方法、知ってる?」
「それは、元々この世界で生きている人間が魔女になる方法、ってことでいいのかな?」
「そう、京子はこっちにきてから、魔女の元にいたんだよね、その時に何か見たり、話を聞いたりしていないかな?知りたいのはその方法というか、第三者から見て、その人が魔女だと分かるかどうか、ってことなんだけど…、つらいこと思い出させたらごめん」
「いや、もうつらくはないよ、ただ、どうだったかなぁ…」
京子はそうしてしばらく考えていたが、どうやらそれらしき記憶にはたどり着かなかったようだ。
「いやぁ、わからん!!」
「そうかぁ、ありが「こうなったら、神様に聞いてみよう!」
ガタッと音を立てて京子がソファから立ち上がった。
「……ん?」
(聞き間違い、かな?かな?)
「充実の福利厚生、アフターケア!いつ使うの?今でしょ!というわけで、少し待ってて」
「嘘だ!!!!」
京子は別の部屋へ立ち去り、信じられない、信じたくない悠理の叫び、と言っても時間帯を考えて大きさを抑えた声が部屋に響く。
確かに京子は昨夜、サポートがついていると言っていた。
言っていたがしかし、魂さえも扱う神と繋がるのがこんな気軽でよいものなのだろうか。
「お待たせー」
うんうんと唸る悠理の元へ戻った京子の手には、ピンクのコンパクトが。
「……ニチアサ…?」
「んー、近いかな、なんとかプリズムパワー!ってやつ」
どちらにせよ女児用アイテムである。
悠理の中で神様オタク説がまた一つ信憑性を増した。
「よいしょっと…、神様ー、神様ー」
ソファに再び腰掛けた京子がコンパクトを開いて呼びかける。
「軽いな…」
悠理の呟きが漏れたのと同じ瞬間、コンパクトの中央に据えられている大きな水晶が強く輝き、空中に美しい男性の姿が浮かび上がる。
ただし小さい。
そして向こう側が透けている。
手のひらサイズのホログラムといったところだろうか。
『ミヤコ、どうした?』
(こいつ…動くぞ…!)
「神様こんばんわ、お久しぶりです。あのですね、ちょっと聞きたいことあって」
『私でわかることなら』
神様であろうホログラムの男性が優しく微笑んだ。
レオンハルトとはまた違うイケメンの笑顔に、悠理はつい手を合わせそうになる。
「この世界に元々いる魔女って、どうやってなるんですか?これが魔女だ!って証とか、あったりしますか?」
『そんなことを知ってどうするんだ?』
神が今度は訝しげに眉を顰める。
なにか教えたくないことがあるのだろうか。
「親友がね、嵌められたんですよ、恐らく魔女であろう性悪に。そんでその性悪放っておくと、多分この国が傾くし、親友の呪いがとけるチャンスがなくなる」
「ふぁ!?」
『ほう?』
どれに対してかわからないが、神様は京子の言葉に食いついた。
悠理も反応せざるをえなかった。
「もうね、120年経つらしいんですよ、最初の出会いでチャンス逃してから。今回の男逃がしたら永遠コースだと思うんですよね、私みたいに自分から飛んだなら死ねない呪いもまぁ甘んじて受け入れますけど、聞いたところによると彼女がこちらにきたのはそっちの手違いらしいですし?」
『な…!?』
神が答えを出し渋ったことを京子も感じ取ったようで、重ねた言葉は質問と言うより最早脅迫に近い。
「そっちでもどうせ流行ったでしょ?やられたらやり返す、倍返しだ!!!って。その手助けをしたいんで、教えてくだい」
(わけがわからないよ…)
もうツッコミが追いつかない。
死んだ魚の目で床に座っている二人を見やると、マリアはすっかり冷めているであろう紅茶を気にせず口に運び、レオンハルトは丸まったナイトを優しく撫でている。
『わかった、教えよう。ただし、あくまで、その世界の魔女全員に共通していることだけしか伝えられないが』
「もちろん、それで充分です、ありがとうございます」
そうして、悠理達は手がかりを掴むことに成功した。
久しぶりに魔法っぽさ出した。
レオンハルトくん魔法使うの上手なんだよ!ってことをたまには出しておかないと…忘れそうで、私が(作者ェ…)




