with Lionheart 31
携帯を変えたらタイトルの予測変換がいなくなりまして(当たり前)
リィン、と小さな音が鳴る。
マリアに買い物を任せた悠理とレオンハルトは、言われた通り向かいのカフェのテラス席に腰を下ろした。
そこで今朝渡された携帯電話(仮)を試すことにしてみたのだ。
『……悠理?』
手に握って魔力を流すこと十数秒、鈴のように鳴っていた音がやみ、慣れた声が聞こえてくる。
「すご、ほんとにつながった…、京子、今日は何してる予定?」
信じていなかったわけではないが、思わず感嘆の声が漏れてしまった。
離れた相手と声を交わしている時間を、懐かしいと言うべきか新しいと言うべきか。
『つながりますよ』
クスクスと京子の笑う声が、少し擽ったい。
やはりこれは懐かしいと思う。
『今日?夕方までは色々してるけど、夜は空けられるよ、どうした?』
「ん、ちょっと聞きたいことがあってね、出来れば、人のいないところで」
『おや、逢い引きのお誘いかい?わかった、空き次第こちらから連絡するよ、ごめん、今は手が離せないので切るね』
プツリと魔力の流れが途切れ、京子の声も聞こえなくなった。
悠理は少し大振りなイヤリングを胸ポケットにしまい、置かれたマグカップを手に取る。
「マリア、なに買ってくるのかなぁ」
「さぁ…、あー、割と悪い顔してたから、意味が伝われば嫌味になるものとか選んできそう」
それはつまり、伝わらなければ好意として受け取られかねないということ。
そしてジュエルは、オブラートに包んだ言葉のオブラートのみを食べるタイプ。
「……俺、渡すの本当にものすごく嫌なんだけど。…ユーリ、ご褒美ははずんでくれる?」
心底嫌そうなレオンハルトの声に、悠理は頷く以外の選択肢が残されていないことを悟った。
「…限度はあるけど、概ねなんでも聞こうじゃないか」
「南の方に行ってみたいんだよね。そこで、ユーリの見せてくれた星がもしあるなら、本物を見てみたい、もちろん、二人きりで」
悠理がレオンハルトを気にかける理由となったアンタレスを胸に抱くさそり座は、アルテイアから見えることがない。
夏は日が殆ど沈まず、冬は厚い雲に覆われる空に、いつからか悠理も星を探さなくなった。
そんなことをしなくても、見慣れたかつての空が冷暖房完備の部屋で好きなだけ楽しめるのだから、それも仕方のないことだろう。
「そんなことでいいの?」
「心底惚れてる相手と二人で旅行とか、気ままにできない身分なもので?」
正直もっと際どい要求をされると思っていたが、なるほど確かにレオンハルトの言う通りだ。
では今の状況はなんなのだと思わないでもないが、レオンハルトの求める空はアルテイアにはないだろう。
正規に国外へ出るとなれば、それはもう手続きやらなんやらで一大事だ。
国王には融通をきかせろよと言いはしたが、二人の存在がそれぞれに自由とはほど遠いものだというのもよくわかっている。
それよりもむしろ。
「……ユーリ?」
「…いや…、心底惚れてるとか…言われることあるんだね…?」
言われておいてなんだが相当に恥ずかしい。
と同時に、相当嬉しい。
悠理は真っ赤な顔を冷ますように両手ではさみ、俯いた。
チラリと見上げたレオンハルトからは、ため息を含んだ苦笑が漏れる。
「ふ、いまさら…?…くっ、くくっ」
ジワジワとツボに入ったらしい。
「…くくく…、あぁ、やっと落ち着いた…ふふっ…」
落ち着いてはいないが、話を出来る状態にはなったようだ。
笑いすぎて涙を湛えた赤い瞳がユラリと光る。
(…おや?)
なにやら雲行きが怪しいな?と思った時には遅かった。
「ねぇユーリ、俺の気持ちに嘘はないけど、どの辺が信じられないの?」
頬にあてていた手をとられ、軽く音を立てて指先に口付けられる。
「ぇ…いや…ちが…その…」
もちろんこれまでのレオンハルトの言葉を信じていないわけではない。
昨夜京子と腹を割って話してみたら、レオンハルトへの気持ちを改めて自覚せざるを得なかっただけだ。
そうして自覚してみると、先程の自らの嫉妬には気づかなかったが、気持ちを言葉にされると嬉しくて恥ずかしくてたまらないというのがこれまた改めてわかっただけだ。
一言一言が、これまで以上に、熱と意味を強く持っただけなのだ。
同い年になるまでには、なんて言ったが、そこまで待てないかもしれない。
誰でもない、悠理自身が。
「ユーリには、もっと分かってもらわないとだね…?」
きゅ、と手を握りこまれ、離れたと思った唇が再び指先に近づき、今度は柔く食まれた。
(恥ずか死ぬし顔がいい)
不老不死なので死なない。
「や…あの…レオ…聞いて…?」
「なぁに?」
全ての神経が指先に集中してしまったのかと疑うくらい、声とともにかかる吐息にも反応をしてしまう。
薄く開いた唇から白い歯がチラリとのぞく。
(噛まれる…!?)
悠理が期待とも恐怖ともわからない感情にからだを硬くした。
瞬間。
「ここは屋外であり人の往来もございますので程々になさいませ」
「ま、マリア!」
「チッ」
買い物を終えた有能な侍女が二人の座るテーブルのすぐそばに控えていた。
早くストーリーを進めたい作者VS隙あらば悠理とイチャイチャしたいレオンハルトの攻防は続く…




