with Lionheart 30
大変お待たせしました、本編再開です。
またのんびり進めてまいりますので、お付き合いの程よろしくお願いします。
「やぁ猫さんたち、おはよう」
朝食の後、悠理は昨日の裏路地へと足を運んだ。
今日はレオンハルトとマリアも一緒だ。
マリアには今日は黒縁の伊達メガネをかけてもらっている。
気休めでしかないが、マリアの持つ精悍な雰囲気が和らいで多少は野暮ったく見えている、ということにした。
レオンハルトは何をしても顔が良かったので諦めて帽子を目深に被らせた。
顔がいい事の弊害を悠理は朝からまざまざと思い知った。
悠理も決して不美人ではない、むしろ父母のいいとこ取りをした顔面の偏差値はかなり高い。
しかしこの二人と並ぶと自分の顔はものすごく平凡なんだな…と思う。
猫たちにおはようと声をかけたが、日はとうに高い。
柔らかな太陽はまもなく真上へこようかという時間だが、彼らはさも「今しがた起きましたよあなたの声で」と言わんばかりの緩慢さで三人を迎えた。
「昨日お願いしたことはどうかな、わかった?」
悠理の質問に、にいぃ、なおぅ、と猫たちが鳴き声を返す。
「そうかそうか、ありがとう、これはお礼だよ、みんなで召し上がれ」
レオンハルトが手にした袋の口を開いて置けば、猫たちはやはりゆるゆると、しかし先程よりかは幾分はやい動きで中を漁った。
目の色を変えて飛びついてこないところを見ると、この辺りの猫は大方恵まれた暮らしをしているようだ。
「それじゃぁ、私たちはもう行くね」
一番近くの猫をひと撫でして、悠理達はその場を離れた。
「さ、てと。次は…」
「ユーリ、猫たちには何を頼んでいたの?」
手ぶらになったレオンハルトが隣に並び訊ねると、悠理は頬を掻きながら苦笑した。
「…実はね、この辺りに魔女と呼ばれる存在がいないか、探してもらってたんだよね…、私はこの世界で自らの意思によってそうなる方法とか知らないからさ、何かしら聞けないかなぁと思って」
猫達の答えは、予想通り「ナイトの飼い主」だった。
まさか最初に会った美しい猫が魔女の使い魔だなんて思いもしなかったのでとんだ無駄足だが仕方がない、そんなこともあるだろう。
「だからあとで京子に連絡とってみる、これも試してみたいしね。彼女の師について聞かせてもらうことにするよ。気を取り直して、二人へのお土産を見に行こうか!」
土産とは言うが、プレイディア領特産のものを選ぶつもりはもちろんない。
いくらジュエルをバカだと思っていても。
それにルドルフへの土産は、身につける物と決めている。
寝室に置いてあるらしいオルゴールでジュエルの力に多少なりとも抵抗出来ているのなら、今度は更に力を込めたものを肌身離さず持たせておけばいいだろう。
もう戦争などしたくはない、早々に目を覚ましてもらわなくては。
ちなみに、国王にはこれを機に退いてもらおうと悠理は考えている。
悠理を邪険にするだけならまだ許せたが、過去の仕打ちを省みることもなくレオンハルトが自分の息子だなどとほざいた男。
本当はあの瞬間その場で殺してしまおうかと頭をよぎった程だ。
玉座は、くだらない噂に惑わされ王子の才覚を見過ごし、たかだか一人の魔女(仮)に魅入られて囲っている聖魔女の力を見誤る者がいつまでも座っていていい場所ではない。
せめて最後は父親らしく、息子のやらかしたことを全て背負って華々しく散ってもらおうではないか。
アルテイアにとって聖なる魔女である悠理は魔女であって聖女ではない。
流石に殺そうとまでは思っていないが、最悪そうなっても仕方ないかな、とは思っている。
「レオ、なにかいいものありそう?」
「常時身につけるもの、となると、意外と難しいですね…」
賑わう商店街にある店のひとつで、三人はルドルフとジュエルへの贈り物を選んでいた。
相手が女であればアクセサリーで事足りそうだが、第一王子であるルドルフが四六時中手にするもの、と考えるとよさそうなものが浮かばない。
「もーいーじゃんピアス開けさそ?」
「ぐっ…」
アルテイアで耳飾りといえばイヤリングである。
ピアスを開けている人間には今のところ出会ったことがない。
悠理と、レオンハルトだけ。
この国で唯一のお揃いを、レオンハルトは分け与えるのが嫌なのだ。
たとえそれが救いたいと心から思っている兄であろうと。
ピアス自体は悠理にとって前の世界で割と当たり前にあったものだが、揃いのものを大切に思う気持ちはわからないでもない。
「……そうだなぁ、私達ももう一個ずつ開ける?そんで、一組を片耳ずつつけるのはどう?」
「…………それ、なら…」
苦々しげに承諾を得た。
もうこの際ピアッサー作ろうかな、と悠理は考える。
レオンハルトの耳に針を刺しておいてなんだが、悠理自身は薬局で器械を買ってあけたことしかない。
不老不死だって痛みは感じるので、ちょっと怖い。
それに、アルテイアでピアスが当たり前に存在すれば高い加工代を払うこともなくなるだろう。
(よし、流行らすか…王子が二人ともつけてんなら何もしなくても普及するだろ…)
ついでに一儲けさせてもらうところまで考えた。
「よし、じゃ、ルドルフはそれで決まり。もう片方はどうしようかな…」
ジュエルに渡すものは、四六時中身につけていて疑いを持たれたくない。
「…髪飾り…若しくはブローチでしょうか…」
「うぐぅ」
今度は悠理が呻く番だった。
マリアの提案は理にかなっている。
就寝時に髪飾りを外さない者も、寝間着にブローチをつける者もいないだろう。
しかしそれ以外の時間、ジュエルはきっとこれみよがしに身につけて城内を歩き回ることも容易に想像がつく。
鉢合わせなければ見ることもない。
悠理は殆ど城内へ行かないのだから、その姿を目にする可能性はほぼゼロだと言える。
ましてこれは自分から言い出したことだ。
(……それでも、やなもんは、やだなぁ)
京子と話して少しばかり自分の気持ちに素直になれたと思った途端、今までなら見ないふりを出来ていた独占欲がむくむくと育っているのがわかる。
悠理は制御しづらい感情に頭を悩ませていて、気づかなかった。
「……ユーリ、もしかして、嫌なの?」
その独占欲を感じ取ったレオンハルトが、アンタレスを輝かせて悦んでいることに。
「……そんなこと、…!?」
ない、と言う前に、距離をつめられ、長い指で顎を捉えられる。
「そんなこと、ある、よね…?」
(ひぃい、顔がいい…!!!)
至近距離で向けられたのは蕩けた瞳と甘い囁き。
余程嬉しいのか、目尻がほんのり赤く染まっているところまで含めて100億点の顔の良さだ。
二人きりの部屋ではないどころか、店内はそこそこ賑わっているのでガッツリ視線を集めているなど、忘れてしまいそうだ。
「……レオンハルト様」
当然マリア様も見てた。
たっぷりと余韻をもって離れレオンハルトは先程までが嘘のように晴れやかな笑顔を見せている。
「ユーリが嫌がるからアクセサリーの類はやめよう」
「えっ、いや、待って、間違いなく髪飾りかブローチが最適なんだよ!」
今優先すべきは悠理の感情ではない。
レオンハルトにだってそれはわかっている。
でも、とか、だって、など言い合っている二人を見ていたマリアが口を挟んだ。
「ユーリ様、もしよろしければ、彼女への贈り物は私に選ばせていただけませんか?」
有能な侍女は本人ですら気づいていない心をしっかりと感じ取っていた。
悠理は、ジュエルのためにレオンハルトが選んだものが嫌なのだ。
そこに特別な感情がなかろうと、レオンハルトの時間を、思考を、一片でもジュエルに割くことに対して嫉妬している。
であれば、その品物をマリアが選べばいい。
渡すのはレオンハルトなのだから、ジュエルにとってはレオンハルトが自分のために選んだ贈り物になるだろう。
主の心も守られる、作戦は進む、いいことばかりだ。
「先程から彼女が持てば面白いかしら、と思えるものがいくつか店内にございまして」
ニコリと微笑む彼女は野暮ったい黒縁メガネをかけていても実に妖艶で、その色気に当てられた悠理は二つ返事で任せることにした。
心が軽くなったことには、気づいていないようだ。
「では、選んで買ってまいりますので、おふたりはその間向かいのカフェへでも行って足をおやすめください」
「そうだな、ではマリア、頼んだ」
「かしこまりました」
「マリア、ありがとう」
二人が出ていくのを見届けて、有能な侍女は隠すことなく大きな溜め息をついた。




