番外編2020Halloween
時系列とか全部忘れて、頭空っぽにしてお読みください☆
レオンハルトが好き放題してるだけです。
「レオ」
初心者向けの魔法に関する書物を一生懸命読んでいる少年に声をかけ、おいでおいでと手招く。
「なんでしょうユーリ様?」
栞をはさんで本を閉じ、とてて、と寄ってくるレオンハルトは今日も大層可愛い。
「今から言う言葉を復唱して」
「わかりました」
理由も目的も告げていないのになんの疑いもなく了承する。
悠理に対する絶対的な信頼はありがたいが少し心配にもなる。
もちろん、悠理がレオンハルトにとってマイナスな行動に出ることはないのだが。
「トリックオアトリート!」
「?とりっくおあとりーと?」
当然意味はわかっていない。
首を傾げながら復唱したレオンハルトの前に、悠理が握った手を出す。
「もう一回、言ってみて?」
「?とりっくおあとりーと」
それを合図に開かれた手のひらには、色とりどりの銀紙に包まれた小さな菓子。
「ユーリ様、これは…?」
「前の世界のお祭りでね、子供たちがお化けのカッコして練り歩くんだ、そこでTrick or Treat…、お菓子をくれなきゃイタズラするぞ!って言うと、大人たちからお菓子がもらえる」
本来はもっと違う意味や目的だったはずだが、悠理もよく知らないので楽しめそうな部分だけかいつまんだ。
ガッツリ子供扱いをされたレオンハルトは若干不服そうだが、
「はい、レオ、あーん」
差し出されたチョコレートでコロリと機嫌は直った。
「来年はマリアにも頼んで、レオにお化けの仮装してもらおーかなぁ」
黒髪、赤目の美少年であるレオンハルトに、是非、是非、ヴァンパイアの仮装などしてほしい所存である。
(………と、思っていた時期が私にもありました…)
昼食を少し過ぎた頃のプラネタリウム。
遠い目で過去を思う悠理の目の前には、柔らかな黒髪を後ろに撫で付け、赤い瞳を妖しく煌めかせ、薄く開いた唇から造り物の犬歯を覗かせて艶然と微笑むレオンハルト。
言われるがまま呪文を復唱し、放り込まれたチョコレートを必死で咀嚼する可愛らしさなどとうに消え失せ、欲しがっているのはお菓子などではなく膝の上に抱えた乙女なのだと全身で訴えかけてくる姿はさながら本物のヴァンパイアのようだ。
(本物のヴァンパイアとか見たことないから知らんけど!)
「今年のユーリ様、猫の耳がついてる、可愛い」
レオンハルトの可愛い姿が見たくてマリアに仮装の話を振ってみたところ、翌年以降何故か悠理も強制的に参加させられるようになった。
今年の悠理は黒猫らしい。
衣装のみならずヘアメイクまでプロデュースしたマリアはそれはもう満足気に頷いていた。
「ユーリ様、口開けて…、…ほら、ユーリ…?」
自前の耳を隠すようにおろされていた髪を白く長い指で除けられ、わざと息がかかるように囁かれて肩がすくむ。
「ひゃっ、んむ…!?」
驚いて意図せず開いた口に、かつて自分が食べさせたのと同じチョコが放り込まれ…ることはなく、レオンハルトの整えられた爪先ごと口内に入れられた。
「ふ、ユーリの唇は相変わらず柔らかいね…、中もあったかくて、おいしそう…」
(まてまてまてまて)
誰だこれは。
いやこんな美しい男が身近に複数いてはたまらないし、これは紛うことなきこの国の第二王子で、悠理を想ってやまないレオンハルトなのだが、こんな彼を、悠理は知らない…こともないと思い当たる。
が、これは教育上どうなのか。
「…ちょ、レオ…ん…」
やわやわと唇を食むように指の背ではさまれ、その裏側をつつ、となぞったかと思えば再び侵入してきた指先で溶けかけたチョコレートを舌に塗りつけられる。
「歯、立てないでね…?」
笑みと甘さを含んだ声で釘をさされ、最早悠理はレオンハルトの足の間でされるがままだ。
「ね、ユーリ、ちょっと鳴いてみて…」
思考回路が上手く働かない。
レオンハルトが耳元で囁いている言葉の意味がよくわからない。
「今日のユーリは可愛い黒猫でしょ?猫はどうやって鳴くんだっけ?」
悠理が反応できない理由をわかっているレオンハルトは、美しい指を口内で遊ばせたまま、まるで誘導するように優しく囁き続ける。
「ほーら、ねーこさん?」
「……にぁ…にゃぁ…」
もうどうにでもなーれ。
羞恥と反射で肩を震わせながら小さく鳴いてみた。
「……かーわい…そうそう、忘れてた、ユーリ様、Trick or Treat」
これでやっと解放されると思った悠理だが、手を伸ばした先にあるべき菓子は見当たらない。
そういえばたった今食べさせられたものが最後の一つだった、ような、気が。
「…あれあれ、お菓子は用意できないのかな…?困ったなぁ、こんなにも空腹なのに…」
全く困っていない声でレオンハルトが嘆く。
「仕方がない、お菓子の用意ができないと言うのなら、イタズラするしか、ないよね…?」
「んんーっ…!?」
逃げられないように後頭部を優しく抑え込まれ、反らした首筋に噛みつかれた。
わざと犬歯があたるように何度も甘噛みされて、時折唇以外の熱を感じ、音を立てて吸われる。
その間も指による口内探索は続いて。
「ひっ、んっ…」
一体自分は今何をされているというのだろう。
脳みそが溶けだしそうだ。
これは可愛らしいイタズラなどでは到底なく、まるで捕食のようじゃないか。
上を向いているために飲み下せなかった唾液が口の端から零れる。
レオンハルトはそれに気づくと、当たり前のように唇を寄せ、ペロリと舐めとった。
「…あま…」
(……はぁ!?!?)
キスなんかよりよっぽど先の行為に進んでいる事実に改めて気づく。
「はっ、とまんなくなりそ…、あーまたマリアに怒られる…」
(アカン)
なにがアカンって、悠理の羞恥心と大人としての良心がとっくに限界だ。
「あー…、ユーリ様ほんと可愛い…好き…」
満足したのか漸く指を引き抜かれた。
顎の疲れがひどい。
「あは、ベタベタ」
めちゃくちゃに恥ずかしいことを言われているが、勢いよく顔を逸らすこともなくくったりとレオンハルトにもたれかかることしかできない。腰が砕けたようだ。
流石にその指を舐めとる姿を見せつけられるような事はなかったが、レオンハルトは綺麗に拭った指を見てどこか恍惚とした表情でとんでもないことを呟いた。
「…俺、ユーリ様に指舐めてもらうのめちゃくちゃ好きかも」
(舐めた覚えは一切ないしその扉は開く前に鍵をかけておいてください!?)
目を剥いて固まる悠理を見てクツクツと笑っていたレオンハルトがふいに悠理の頭を抱き寄せ、今日何度目とも知れないゼロ距離で囁く。
「はやく、キスできるようになりましょうね、貴女が生きにくい世界なんて、全て変えてみせるから…俺だけの、愛しい魔女」
悠理の心だけでなく、二人の未来を希うその声は、先程まで見せていた余裕なんてまるでない、ただ一人の、恋に溺れる男のものだ。
こんな風に想われて、愛さない方がどうかしている。
宿した切なさを誤魔化すように抱きしめる腕に力を込め、首筋にぐりぐりと押し付けられる頭を、悠理はそっと撫でた。
「そうなったら、私からも、イタズラするから、覚悟しててね」
弾かれるように顔を上げたレオンハルトの瞳はいつもと変わらず美しく、言葉と同じか、それ以上に雄弁に悠理への想いを語っており、益々愛おしさが込み上げる。
「…ふふ、その日が楽しみ。ね、私、おなかすいちゃったや、マリアにお菓子もらいにいこ?」
「…そうですね、今年のお菓子はなにかなぁ」
立ち上がろうとしたものの、まだ足腰が覚束無い。
大変しまらない。
自分がそうしたという優越感からか、ものすごくイイ笑顔のレオンハルトに半ば抱きしめられるように支えられながら、二人はおやつを用意してくれているであろうマリアの元へ向かったのだった。
悠理からイタズラなんて仕掛けようものなら何倍にも膨れ上がって返ってくるのは火を見るより明らかだが、彼女がその身をもって知るのは、そう遠くない未来の話。
ちなみに、一番近くの確実な未来は、
レオンハルトがマリアに無言で怒られる、です。




