with Lionheart 26
大変遅くなってしまった…_(:3>∠)_
「おじゃましまーす!」
近所迷惑にならない程度の元気いっぱいで訪れたのは京子の家。
悠理達の飲んでいた酒場から歩いて10分程度にあるパン屋の別棟を間借りしているらしい。
(………この環境で飼う黒猫の名前をナイトにしたのか…)
悠理なら二択で悩みそうだ。
「はい、どーぞ。ん、ただいま、ナイト」
「なぉ」と小さく鳴いてナイトが京子に擦り寄る。
「ひゃああああやっぱりものすごい美猫でいらっしゃる…、ナイトくん、こんばんわ」
京子が連れてきたことで警戒はだいぶ薄れているらしく、悠理にも同じように鳴いて足に擦り寄った。
「そっち、座って。もう少し飲もうよ」
「ありがと、お言葉に甘えて!」
促されるままソファに腰掛ける。
フカフカで気持ちがいい。
京子にとっては約15年、悠理に至っては130年くらいぶりになる親友との再会だ。
京子はレオンハルトに適当な時間に迎えにこさせると言ったが、何時に帰すとは名言していない、流石に日が昇る前には解散するつもりではある。
「悠理、梅酒的なのあるけど飲む?」
「えっ、飲む」
グラスに氷を作り出し、自家製の果実酒を注いで手渡すと、京子は悠理の隣に座った。
「いやー、魔法って便利よねぇ」
「そうだねぇ」
家電の便利さには到底敵わないが、やっていられない程の不便さも感じない。
「そんじゃ、改めて」
乾杯、と声を合わせグラスを鳴らす。
「ぷぁーっ、おいしい!!」
「それはよかった。悠理は、結構いける口なんだね」
悠理が消えた時は二人とも未成年だったので、こうして酒を酌み交わすことが出来るなんて思ってもいなかった。
「んー、そうみたいだね、でもこんな風に酔ったな!って思うのは初めてだよ。レオナード様の前でも他の誰かと飲んでもいつもシラフとかわんなかった、ちょっと人肌が恋しくなるくらいで、ふわふわ楽しいなんてなったことなかったから」
京子の知らない名前が出てきた。
それがレオンハルトの温度を下げた相手だろうか。
「京子はさ、どんな神様だった?」
「銀髪碧眼メガネのイケメンでしたわ。悠理は?」
「なんかふわふわした美女。祝福と、呪いをうけた?」
「うけたよ、不老不死の呪いと、いくつかの祝福」
「どんなものか、聞いても?もちろん私も話すよ、全部…長くなるけどね」
悠理は自らの過去を語りながら、今まで誰にも言わなかった天候を操る力についても包み隠さず話した。
それと、レオナードに会いに行ったことも。
「大事な相手がみーんないなくなってからの数十年は本当に毎日ただ生きてただけだったなぁ」
無味乾燥。
死なないから生きているだけ。
あの日、レオンハルトと出会うまでは。
「………で、今に至るわけです」
「…っはー…、ホントに壮大だったわ…4クールくらいは覚悟してたけど、シリーズにしたら8作品くらいあるわ…最後前後編で…」
「フォイ…」
「とりあえず、色々お疲れ」
京子は悠理の頭を優しく撫でた。
「んふ、京子、相変わらずなでなで上手ー」
両親から愛情を受けた記憶など殆どない悠理がそれでも愛情を知っているのは、京子と鈴木さんのおかげだろう。
京子は昔から、一度懐に入れた人間への情が厚い。
「それはどうも」
「…そーいえば、京子、髪と目の色どうしてるの?魔法?」
悠理の知る京子は純日本人らしい黒髪黒目だが、目の前の彼女は確かに黒髪なのだが、光の加減によって青く見える。
さらに、瞳の色に至ってはブルーグレイ。
よくひと目で京子だと気づいたなと悠理自身思う。
「あ、これ?おまけで変えてもらった」
「おまけで」
「そう、私の祝福は、めっちゃ本読むのが速いのと、めっちゃ記憶力がいいのと、めっちゃ動物と仲良くなれる、あと近視と乱視治してもらった、ついでに見ようとすれば人の心が見える、めちゃ疲れるけど」
「……オタクはみんな近いものを望むのだろうか…?」
自分と似たりよったりな祝福を授かっていることに驚く。
「あ、あとヘルプ機能つけてもらった」
「ヘルプ機能」
「そう、呪いや祝福、この世界についてわかんないことがあったら神様に聞けるようになってる」
「アフターケアが充実している…」
「だから、悠理が知りたいこと、多分私は知ってる、というか、答えられる」
頭を撫でられたまま、優しく微笑まれる。
「さて、恋バナを始めようじゃないか?」
やや吊っているブルーグレイの瞳が細められ、中性的な印象を与える薄い唇が弧を描いた。
「シラフじゃ言いづらいこともあるでしょう、とりあえずもう一杯どうよ?」
「……いただきます」
甘口で飲みやすく仕上げてあるが、度数は強めの果実酒を先程より多めに注ぐ。
「ふふ、推しの話はしてたけど、ガチ恋話は初めてするね?さっき出てきたレオナード様とやらのことも、きみにベッタリのレオンハルトくんのことも、詳しく聞かせてもらおうじゃないか」
京子としては、友達の恋愛を面白がるというよりも、妹、若しくは娘の恋人を品定めする父兄の気分だ。
大事な親友をろくでもない男にくれてやるつもりなど毛頭ない。
レオナードは過去の人間なのでくれてやるもなにもないが。
主のただならぬ雰囲気を察したナイトが伺うようにソファの背もたれに登り体を擦り寄せてきた。
艶やかな毛並みを撫でながら、悠理が口を開くのをじっと待つ。
「……いやまぁ、お察しの通り…レオナード様、は、初恋…でした、ね…」
「レオンハルトくんは?」
「……………わかんない」
「わかんない」
てっきり、「今の好きな人」とか言われるのかと思っていたが、そうではないらしい。
「だって、生まれた時から知ってて…、と言ってもちゃんと関わり出したのはレオが10歳になってからなんだけど…言ったらさ、レオンハルトはワシが育てたって感じなんだよ…!」
確かに、それでは恋愛感情は抱きにくそうだ、と京子は神妙に頷いたが、
「でもなんかいつの間にかめちゃくちゃカッコよくなってて、いや最初からドストライクの顔だったけど、魔力も強いし、まぁそれはどっちでもいいんだけど、王子としても優秀っぽいし、仕事してる姿かっこよかった…、外では超無表情で、私にだけ大型犬みたいに懐いててベッタリで、でもちゃんと男の子で、こないだなんてちょっと押し倒され?た?し、正直さっき京子との距離が近かったのもモヤッとしてしまった自分への嫌悪もやばいしジュエルに至っては本音を言えば消えて欲しい…」
続いた言葉に、つい遠い目をした。
簡単に感想を述べれば、
わかんないってなにがだよ大好きじゃねぇかなんだそれ。である。
「…レオには、私しかいなかったから」
ポツリと吐き出された言葉に、なんとなく、悠理の心情が全て込められている気がした。
「………悠理はさ、なにが不安?」
「…ふあん…」
「そう、彼の気持ちも、自分の気持ちも、真っ直ぐ受け止められない理由があるわけでしょ?」
京子は悠理を焦らせないよう、ナイトを撫でるのとは逆の手で頭を撫でる。
「……真実の愛って、なんだろう」
傾けられたグラスの中で、カラリと氷が音を立てた。




