with Lionheart 24
店の雰囲気にそぐわないシリアスな空気がテーブルに流れている。不穏な言葉にレオンハルトとマリアまでもが悠理に説明を求めているのが言葉にされなくてもわかった。
全てにおいて理解が追いつかないが、そうも言っていられないらしい。
(……私が、身を投げた、とは…)
幸いアルコールによる思考力の低下はない。
100年以上前の女神との会話は、案外すんなり思い出せた。
「………あっ。それ誤解だね!?」
今日一番の大きな声が出た。
「誤解?」
「そう、誤解です。でもその話をする前に、二つ、確認させてほしいんだけどいい?」
悠理は椅子を引いて「みやこ」と呼んだ女にそこへ座るよう視線で促す。
「……お邪魔します」
「確認の前に、何飲む?」
腰掛けたところですかさずメニューを見せた。
「いや、長居は…」
「せっかく会えたのに?」
「………じゃぁ、悠理と同じものを」
昔から彼女は、悠理の「寂しい」という態度に弱い。
「…で、確認っていうのは?」
「まずひとつ、ナイトくんの頭文字はどっちですか」
実はずっと気になっていたのだ。
悠理以外にはどうでもいい、というか、レオンハルトとマリアには、質問の意味さえわからないだろうが。
女は数回瞬きをしたあと、破顔した。
「……っふ、ふふっ、あんた、そういうとこ、ほんっとかわんないね。この空気でナイトのことって…、ふふふっ、…あの子の頭文字はKだよ、HolyKnight」
「はぁー、すっきりした!いいね、彼にピッタリの名前だ、私が話しかけた時も仕える主を守るって言ってたし…、またお会いしたい…」
悠理は昼間の出来事を思い出しついウットリとしてしまう。
マリアはレオンハルトが心配になり盗み見るが、本人は涼しい顔でグラスを傾けている。
「なに?マリア?」
「……いえ…、レオンハルト様、大人になられたんですね…」
あんな表情、以前のレオンハルトなら間違いなく嫉妬していたのに。
刻一刻と成長していく様を間近で見て感極まったのか、マリアがグスリと鼻を啜った。
「…あのなマリア、一応言っておくけど、今二人が話してるナイトっていうのは、猫のことだぞ」
レオンハルトは何故そうだと知っているかは伏せて、マリアの勘違いを正してやる。
「……猫…」
「別れ際に足に擦り寄られたんだと嬉しそうに話していたよ」
その時の会話、正確にはそのすぐ後、独占欲をのぞかせた言葉を思い出し、レオンハルトは愛おしそうに目を細めて悠理を見る。
とんだ勘違いをしていたマリアは恥ずかしくていたたまれない。
「………ごめんなさい、こんな時、どんな顔すればいいかわからない」
「笑えば、いいと思うよ」
マリアは笑うことはせず、再び手元の皿と向き合いだした。
食事が美味しいようで何よりである。
「それじゃ、もうひとつ。京子、あんた今いくつ?」
この世界へ転移する方法がどれだけあるかは知らないが、先程のやり取りからして、きっと彼女は、身を投げたのだろう、悠理の消えた世界で、恐らく数年後に。
そうであれば同じ呪いをかけられているはずだ。
「…それは、こちらにきたときの年齢?それとも、こちらにきてからも含める?」
「両方、かな。」
「………きたときは、21歳。短大出て、就職先が真っ黒で、毎日しんどいと思いながらもなんとか生きてたけど、気付いたら電車のライトが目の前に」
悠理は指先がひどく冷たくなるのを感じた。
「で、拾われたわけだ、こっちにきてからはどれくらい経つ?」
悠理の声が震える。
彼女が死を選ぶほど追い込まれていた時に、仕方がないとはいえ何も出来なかった。
悠理は確かに国を一つ救ったかもしれないが、友達の一人すら助けられなかった。
「やだ、悠理、泣かないでよ。こっちにきてからは、そうだな、10年は経った?かな?」
「………マジか」
同じ世界線でも地球と宇宙で時間軸が違うのだ、世界をまたげばズレも大きくなるだろうとなんとなく適当に納得しておく。
「ほかは?もうない?」
「あー、あとで色々聞きたいけど、とりあえずは」
「じゃ、今度はあんたの番」
京子だけでなくレオンハルトの視線が痛いのでさっさと結論だけ告げることにする。
「私は別に死のうとしたわけじゃなくて、星を見に行って誤って落ちたところを、自殺と勘違いした女神様に助けられただけなんだよね…!」
色々なことを諦めてはいたが、何もかもに絶望していたわけではなかった。
「……へ…」
今更だが、あそこで悠理が断っていたら女神はどうするつもりだったのだろうとふと思う。
あのまま落ちていたら大怪我、若しくは死んでいたとは確かに言われたが、自殺でなく事故だとわかったわけだし、もしかして無傷で帰っていたのではないだろうか。
その時は断ることなど出来ないと思い込んでいたし、なんだかんだあの状況にテンパっていたんだなぁと本当に今更考える。
「……なんだ、よかったぁ…」
京子がふにゃりと笑う。
悠理の知る彼女と比べたら大人っぽくなっているが、この笑顔は悠理の知るままのもので、なんとなく嬉しくなった。
レオンハルトも納得したのか、再び食事に手をつけ始めている。
「悠理はじゃぁ、私よりちょっと先輩ってことだね!」
ちょっと、だろうか。
「ウーン、ソウ、ダネ!」
「ユーリ様、どんどん言いづらくなりますよ」
マリアがしれっと口を挟んだ。
「うっ…」
「?どしたの?ていうかこの二人はどういう関係か聞いても?」
悠理はこのタイミングでさらっと話して流してもらおうと決めた。
「こっちがマリア、初めて私についた次女の曾孫」
「は?」
「こっちがレオンハルト、アルテイアの第二王子」
「は??」
「ちなみに私が名付けた」
「待って情報量が多すぎる」
結構な早口で伝えたが流してはもらえなかった。




