with Lionheart 23
「報告は後ほど聞くとして、まずは乾杯しよ!お疲れ様!」
丸いテーブルを囲んで座りジョッキを掲げる。
三人が選んだのは、海の幸も山の幸も食べられて酒も提供している大衆食堂だ。
時間が早いこともあって、賑わいも程々。他のテーブルの会話など気にする人間はいないだろう。
「ぷぁーっ!人と飲むお酒は美味しいと思えるんだよなぁ…!すいませーん、おかわりください!」
さながらオッサンである。
二杯目を半分ほど空けたところで料理がきた。
「レオには前少し聞いたけど、マリアはお酒飲めるの?」
「そうですね、たしなむ程度には…家族からは子供の頃にあまり飲まないようにと言われていましたので許容量はわかりかねますが…」
酒の味も知らない頃から注意されていたなんて、一体どんな理由だ。
「えっ、なんで?」
「…その…曾祖母が…」
まさかのマリー。
「……人様に絡むタイプの酔い方だったらしく…」
三世代に渡って注意されているとは、余程ひどかったのだろう。
「へぇ…、あのマリーが…」
優しくも押しの強いマリーしか知らない悠理には想像がつかない。
「…フォルティナ邸、酒乱ばっかりじゃん…」
と言っても二人しか知らないが。
「他にも曾祖母のような方がいらっしゃったんですか?」
テーブルを埋めた料理を皿に取り分けながらマリアが小さく驚く。
「ん?あぁ、他の使用人はわかんないけどね。レオナード様が外で飲むなって言われてたんだよ、マリーみたいな絡み酒じゃなかったけど、アレは確かに外に出しちゃいけなかった」
無自覚に色気を振りまくレオナードを思い出して、つい遠い目をしてしまった。
「そんなにも…いったいどんな…」
ざわ、ざわ…。
「レオそっくりの美貌からずっと色気がダダ漏れてるって言えばわかりやすい?」
「それは…めんど、いえ…やっか、いえ…、……皆さん気が気ではなかったでしょうね…」
酒のせいか、旅の開放感か、オブラートに包む前の言葉がマリアから覗いてしまった。
「マリア、全部声に出てるぞ…、なるほどね、ユーリはそれで、俺がどれくらい飲めるか知っておこうと思ったわけね…」
おっと、と言うように唇に指先をあてるマリアが可愛い。
「あの色気とあの距離感はダメだと思うの…、キャットファイトでは済まない…、戦争が起きかねない…」
距離感、と聞いて呆れていたレオンハルトの肘がピクリと動く。
悠理がしまった。と思った時にはもう遅い。
「へぇ…、そんなに近いの?」
レオンハルトは笑顔だが、フォークで刺されているレタスからは悲鳴が聞こえてきそうだ。
「や、あの、誰でも?って?わけでは?なかったのかもしれないんだけど?」
焦って盛大な墓穴を掘った。
マリアは素知らぬ顔でエビを咀嚼している。
「…へぇ?」
悠理の好きなアンタレスが強くも昏い光を宿す。
「わかってるんだよ?公爵殿は過去の人だって。でもやっぱり面白くはないよね」
ニコニコニコニコとレオンハルト。
もぐもぐもぐもぐとマリア。
口を出す気はゼロのようだ。
「ところでユーリ、俺が彼と同じ酔い方をするとして、それを外でやっちゃだめっていうのは、なんでかなぁ?」
マリアはタイミングよくレオンハルトが話しているうちに次の食材を口へと放り込んだ。
「!?……そ、れは…」
「うん、わかってるよ、俺にはユーリしかいないって言ってるのにそんなことしたらまた全部燃やしたくなるくらい縁談がきたりしそうだよね、保護者として心配なんだよね、でも…、それだけかなぁ?」
悠理の顔が赤く染まる。
アルコールのせい、などではない。
「クスクス、ユーリ、もしかして、少し酔った?」
レオンハルトはわかっていて質問を重ねる。
悠理が恐る恐る視線を向けると、レオンハルトの頬は心なしか赤く染まり、目が潤んでいる。
「いや…、むしろ…」
酔っているのは、レオンハルトでは、と続けようとしたところで、何者かに肩を叩かれた。
「やぁっと見つけた」
「!?」
「………失礼、どちら様ですか?」
せっかく悠理が照れてたじろいでいる姿を堪能していたのに邪魔をされたレオンハルトが、悠理の背後に立つ人物に氷のような笑顔を向ける。
(こっわ…)
「うっわ、少年こっわ。そんな警戒しなくても大丈夫、ウチの子が世話になったそうだからね、そのお礼を言いに来ただけだ」
ウチの子が世話になった、とは。
悠理は今日猫と戯れた以外、良くも悪くもこれと言った行動をしていない。
「…あの、人違いでは…?」
いつまでも肩に乗せられた手を払いがてら振り向いて、悠理は目を見開いた。
「いや、貴女で間違いないよ、今日はうちのナイトがどーも、ね」
ナイトとは、間違いなくかぎしっぽの黒猫のことだろう。
頭文字は、KだろうかNだろうか。
「………みや、こ…?」
ここにいるはずの無い人物の名を呟く。
驚きと緊張で悠理の声が掠れた。
「やぁ、悠理」
「お知り合いですか?」
マリアが口元をナプキンで拭いながら大して驚いた様子もなく問いかける。
「知り合い?そうだね、私は親友だと思ってたけど、どうかなぁ?」
みやこと呼ばれた女の顔に、自嘲の笑みが浮かぶ。
「そう思ってたのは、私だけかも」
女は軽い口調で肩を竦めた。
「なぜですか?」
「…知らなかったからね、身を投げる程、追い込まれていたなんて」
その言葉に、黙って女を睨めつけていたレオンハルトが反応を示す。
「……ユーリが、身を投げた…?」
やっと…!
やっと主要人物が…!全員…!
いつもお待たせして申し訳ない、ブクマや評価、ありがとうございます。




