with Lionheart 20
イチャイチャさせたぞおおおお
レオンハルトは夏の夜空が好きだ。
それも、アルテイアではない、悠理が見せてくれた彼女のいた世界の南の夜空。
悠理はあの日以来数えきれない空をレオンハルトに見せ、いくつもの星座をなぞり、神話を語った。
気に入った話は何度もせがみ、今ではそらんじることができるものも多い。
今日も二人の頭上には夏の星座が瞬く。
巣の中で抱かれて座るのもすっかりお決まりとなった。
今夜は横向きに抱きしめたい気分らしい。
「そういえば、ルシフェル様としての姿、初めて見ました」
髪を弄りながらレオンハルトが呟く。
「そういえばそうかもね?魔女っぽかったでしょ」
「そうですね、それに、瞳の色が俺に似てて嬉しかったです……この石の色、ですよね?」
耳たぶを晒されピアスにくちづけられた。
「そ、うだね。レオの瞳の方がキレイだけど…」
「ふふ、そうですか?ありがとうございます」
吐息のくすぐったさと囁く声の甘さで、思考力が奪われそうだ。
「ルシフェル様としての姿も妖艶で素敵でしたけど、俺は、そのままの方が好き…」
ちゅ、ちゅ、と音を立ててこめかみや瞼、額にもキスをされる。
「あ…の…、れお…?」
「ダメですよ、あんな風に喜ばせておいて、逃げるなんてさせない…、俺は一生貴女のものだから、責任もって可愛がってください」
可愛がられているのは悠理のような気がしてならないが、深い墓穴になりそうでそのツッコミは口にできない。
「ユーリ様…、……ユーリ…俺の愛しい魔女…」
何も言い返さない悠理を見て楽しそうに笑っていたレオンハルトの声が突然切なさを帯びた。
「…ぇ…」
と、思ったら身体が一瞬浮いたように感じて、背中の感触と天井までの距離が変わった。
簡単に言えば、押し倒された。
(…流石にこれは、マズイのでは)
悠理の瞳が戸惑いに揺れる。
「…ごめんなさい、これ以上は、しないから…」
覆い被さるように抱きしめられた。
「ねぇ、ユーリ様…今日俺があの人に近づかれた時…」
あの人が誰かなんて、聞かなくてもわかる。
先に続く言葉も。
「すごい怖い顔してた…、もしかして、嫉妬してくれた…?」
恥ずかしくて身を捩るが、当然離してなどもらえない。
せめてもの抵抗と、視線を躱すように顔を背ける。
「き…きおくに…」
「ございませんって?そんな意地悪するの…?今の俺なら仕返ししちゃうよ…?」
反らした顔が動かないよう顎を軽く掴まれて、首筋に噛み付かれた。
「ひぇっ…」
少しだけ痛い。
「ユーリ、ほら、教えて…?」
逃がしてくれないならせめて噛むか囁くかどちらかにしてほしい。
悠理は目を閉じたままコクコクと頷きを返すのが精一杯だ。
「…嬉しい…」
素直に答えても離してはもらえないようだ。
それどころか、同じように首筋に唇を寄せられ、噛まれはしなかったが今度はキツく吸われた。
何ヶ所か。
「……しまった、マリアに怒られるかな…」
悠理の白い肌に花びらのように散った赤色を見てレオンハルトが呟くが、今更過ぎる上に全く悪びれていない。
「ユーリ様、ついでにもう一個聞いてもいい?」
ダメだと言わせる気はゼロである。
悠理は視線で質問を促した。
「…俺の声って」
(声?)
「……似てる?ユーリ様が、昔好きだった人と…」
思いもよらない質問に、悠理は目を瞬かせる。
骨格が近いと声質も似ると言うから、もしかしたら似ているのかもしれない。
レオナードはどんな声だったろう。
(…えっ…)
思い出そうとしている自分に気づいて、悠理は愕然とした。
ほんの数年前まで、あんなにも鮮明だったのに。
何十年も忘れられなかったのに。
忘れたくなかったはずなのに。
「…ユーリ様?」
名前を呼ばれてハッとする。
「………どうだろう、考えたこともなかったから、な…。どうしてそんなこと?」
「顔が似てるって言ってたから、気になっただけです…、俺が好きって言った時に、声が似てるからってその人のことも思い出したりしたら嫌だからもしそうだったらどうしようかなって…で、どうです?」
似ていると答えたらどうするつもりだったのか気になるが触れない方がよさそうだ。
悠理は本能がくだした判断を信じることにした。
「……自分で自分が信じられないんだけど、レオナード様の声を、パッと思い出せないんだよね…」
もらった言葉たちは覚えているのに、思い出から急速に温度だけが抜けていくような妙な感覚に陥る。
「…俺は独占欲が強いから、思い出せないならそれはそれでいいかなって思っちゃうな…、好きも愛してるも、名前を呼ぶのも、全部俺の声で思い出してほしい」
必死で押し殺そうとしているようだが、レオンハルトの声からは嬉しさが滲み出ている。
ふてぇ野郎だ!と言ってやりたいところだが似たような優越感はごく最近抱いた覚えがあるのでそこはつつかないことにした。
「…ていうかそもそも好きとか愛してるとか、レオナード様には殆ど言われたことないんだが?」
「えっ」
「えっ?」
なにをそんなに驚くことがあるのか。
レオナードが悠理に想いを告げたのは死の間際、あの一度きりだ。
「…うそでしょ、そんなまさか…えっ、本当に?」
「本当ですよ、ていうかそうじゃなかったら私は今頃、生きていませんからね?」
「…へえ」
(あっ、しまった)
流石の悠理も今のは失言だとすぐ気づいたが、後の祭り。
見下ろすレオンハルトの笑顔が怖い。
「最初の夜にずっと、僕だけの愛しい魔女って言葉がうるさかったから、てっきり、レオナード様は伝えてるもんだと思ってました」
そういえば以前も、そんなようなことを言っていた。
「俺はどんどん貴女に惹かれていくけど、それが誰の感情なのかわからなくて、はじめのうちは怖かったりもしたんですよ」
額にかかる前髪を指で避け、キスをひとつ。
「貴女への感情以外では、得体の知れないなにかが出しゃばってくることは全くなくて」
耳をくすぐりながら、反対側の目じりに、またひとつ。
「もしかしたら俺は本当にレオナードの生まれ変わりで、戦争と法によって引き裂かれた貴女を迎えに来たのかもしれない、なんて」
熱くてたまらない頬にも、ひとつ。
ついでにペロリと舐められた。
「むしろそちらの方がいいのかなぁ、なんてことも考えたなぁ」
クッと喉の奥で低く笑いながら、唇のすぐそばに、ひとつ。
「まぁ、それも、短い時間、だけで、結局、ユーリ様を想う気持ちは、間違いなく、俺のもの、なんですけど、ね。例え俺が、本当に、生まれ変わりだとしても、今も、この先も、貴女を、世界中の、誰より、愛するのは、俺、レオンハルト、です」
言葉を区切る度に顔の至る所にキスをされた。
まさに雨のようだった。
「ここへのキスは、ユーリ様の気持ちが俺に追いつくまで、我慢しておきます」
一度は奪ったしね、と言いながら唇を指でなぞられる。
「……ふふっ、ユーリ様、顔真っ赤…」
部屋の明かりはかなり落としてあるのに気づかれてしまう程、悠理の顔は赤く染まっていた。
レオンハルトの想いに追いつくどころか、状況に思考が追いつかない。
こんなに甘くて意地悪な言葉や態度、一体どこで覚えてきたというのか。
外面しか知らない人達に言っても信じてもらえなさそうだ。
(しかしこんなレオを、誰にも知られたくないとか思っちゃってるんだよなぁ…)
完全なる独占欲だ。
「…あ、思い出した、そういえばレオ、ジュエルにリオって呼ばせてるの?」
「ユーリ様この状況でなんでそんなこと思い出すかなぁ…」
レオンハルトは相当不服そうだが、思い出した経緯は絶対に教えたくない。
「……自分もレオと呼びたいって言われたんですけど、ユーリ様以外に呼ばれたくなかったんで、リオなら今は誰も呼ばないので貴方だけの呼び名ですねって言ってみたんですよ」
「なるほど、意地が悪い」
いくらジュエルが過去の出来事を知らないとはいえ、虐待に近い扱いを受けていた頃の名前を呼ばせるなど、いい趣味とは言い難い。
「勝手に向こうがそう呼ぶんですよ」
自分だけの呼び名、などと言われたらそうなるだろう。
「……ふーん」
「ユーリ様が嫌がるから、やめさせますね」
面白くなさそうな悠理を見て、一瞬でご機嫌な笑顔を浮かべ出したレオンハルト。
「そうして。その名前は嫌い」
「それだけ?」
それだけではないことなどわかっていて聞いている。
「……それだけ…」
「ふうん?」
「………じゃ、ないけど…」
ニッコニコである。
「なんか今日レオ意地悪!」
悠理は下から睨んでみるが、レオンハルトはクスクスと嬉しそうに笑うだけだ。
「すみません、ユーリ様があまりにも可愛くてつい…でも俺の事以外を思い出すくらいには余裕でしょ?」
かなり甘い空気でジュエルの名前が出てきたのを根に持っているようだ。
「だから、もっと俺で頭の中いっぱいにしてもらわないと…」
熱と甘さを多分に含んだ声が近づいてきて、悠理に再びキスの雨が降り注ぐ。
「ユーリ様、好きだよ、大好き」
顔だけに飽き足らず、耳や首にも唇が触れていく。
「ひええぇ……」
「貴女の中を、俺でいっぱいにしたい…」
「なっ…!?ど……!?」
冷静に考えれば会話の流れからして、悠理の頭の中をいっぱいにしたいだろうが、動揺がそのまま声と態度に出た。
顔を上げたレオンハルトと目が合うと、ニヤリと笑われた。
「どういう意味だと思ったんです?」
15歳に翻弄される100歳超。
まだ少年であって欲しかったのに、悠理に向ける瞳は確実に男としての欲と熱を孕んでいる。
そしてその視線を、全く不快だと思わない自分にも悠理は気づいている。
「…そのままの意味ですよ、俺の全部で、貴女の心も身体も、満たしたいと思ってる…、…怖い?嫌?」
悠理は逡巡したが、素直に答えることにした。
「……そんなこと考えるレオは怖くも嫌でもない、けど、まだ早い…!」
「えー…、もう大人ですよ…?」
わざと子供のように拗ねるレオンハルト。
「せめて私と同い年になってからかな…、ていうか、それ以前に呪いが解けないとね…!」
なんならその前に今降りかかっている火の粉を払わなくては、堂々とそばにはいられなくなる。
「それは、そうですね…、真実の愛か…、ユーリ様、色々片付けたらちゃんとプロポーズしますね」
「へぁ!?」
どうやって真実に近づこうか考えていたらとんでもない言葉が聞こえた。
「前も言ってますけど、もっとちゃんと、色々整えて、ユーリ様がなんの不安もなく頷けるようなプロポーズをします。その時は、唇が腫れるくらい、キスしましょうね」
ちょんと指先で唇をつつかれる。
挑戦的な笑顔が美しい。
(ううぅ…顔がいい…尊い…)
「…ね…?」
「…あい…」
もうどうにでもなーれ。
恋愛における悠理のキャパシティは決して大きくない、とっくにオーバーしている。
「…ふふ、可愛い。そろそろ寝ましょうか」
隣に寝転ばれ、当たり前のように頭の下に腕を入れられ、抱きすくめられた。
「出かけるの、楽しみですね…、ユーリ様、そのままの姿で行きましょうね?」
肩まで毛布をかけられる。
「寒くない?」
「だいじょぶ…」
眠れる自信はない。
「ん、おやすみなさい、俺の魔女…、愛してます」
眠れる自信は、ない。
「……おやすみ、レオ」
いつか自分も、と答えるのだろうか。
そんなことを考えながら、悠理は今日も眠れない夜を過ごした。
イチャイチャさせてたら長くなった…。
次回から三人で旅行だー!




