with Lionheart 19
次回イチャイチャと言いましたがそこまでいきませんでした…。
呆然とする人間たちを横目に二人はその場を去った。
壊れた扉や窓に入ったヒビは誰かが直してくれるだろう、きっと。
レオンハルトは仕事の引き継ぎがあるので先に帰るよう提案されたが、折角なので仕事中の姿を見てみることにした。
気分は授業参観だ。
執務室でテキパキと指示を出し適材適所なのだろう人員配置をしていくレオンハルトはなるほど頼りにされるのも大いに納得できる働きぶりだが、反比例するようにレオンハルトの表情筋は夜会の時と同じく全く働いていない。
淡々と必要事項だけを伝達する美形はかっこいいよりも怖いんだなぁなどと考えながら悠理は目の前に出された菓子を頬張っていた。
そうしてしばらく時間が過ぎた頃、ノックの音が飛び込み、返事を待つことなく扉が開く。
「リオ様っ!」
(………なんだって??)
懐かしくも不快なあだ名を口にしながら入ってきたのは、悠理が疑いの目を向け始めたジュエルだった。
不躾な入室にもレオンハルトがリオと呼ばれたことにも驚いたのは悠理だけらしく、他の者はジュエルを一瞥しただけで仕事の手を止めない。
レオンハルトに至っては書類から顔を上げることさえしない。
「リオ様、しばらくここを離れると言うのは本当ですの?」
情報が早い。
というか、レオンハルトの対応はどう見ても無視なのだが、気にせず話しかけるジュエル嬢のメンタルが強い。
「……陛下から聞いたのですか?本当ですよ、その為の引き継ぎで皆忙しなくお構いもできず申し訳ない」
レオンハルトは暗に「邪魔だから帰れ」と言っているが、ジュエルはどうやらオブラートだけを食べるタイプの人間らしい。
「そんな、わたくしのことはお気になさらず…、それよりも、何故急に?いつお戻りになるの?リオ様にお会い出来ないなんて、わたくし、さみしいです…」
ジュエルは悠理に気づいていないのか、レオンハルトの側まで駆け寄ると肩に手を置いてしなだれかかる。
(?????????)
悠理はこんらんした!
「私などいなくても、ジュエル嬢には兄上がいるではありませんか…」
レオンハルトは心底鬱陶しそうに手を払い除けるが、ジュエルはお構い無しにその身を近づけ、たわわな二つの果実をレオンハルトの背中に押し付ける。
「そんなことおっしゃらないで…、ルドは確かによくしてくれるけど、わたくし本当は、あなたのことを…」
(ルド)
大きな瞳を熱っぽく潤ませてレオンハルトを見つめるジュエル。
ルドルフにもこうして迫ったのだろうか。
しかしこの美貌と身体だ、年頃の男性が落ちるのも仕方がない。
悠理の胸に焼けるような痛みが広がった。
「…ハッ、ご冗談を」
レオンハルトにはこうかがないみたいだ…。
「おい、これを陛下へ。それから誰か、兄上を呼んでこい。今頃この人を必死になって探していらっしゃるだろうから」
手元の書類をまとめて渡すと、レオンハルトはさっさと帰り支度を済ませ、悠理の座るソファへと近づく。
「ルシフェル様、お待たせしました」
最早別人なのでは?と思えるほど蕩けた瞳と笑顔で手を差し伸べるレオンハルト。
痛みに代わり仄暗い悦びが悠理の心を埋め、さっきまでのそれが嫉妬だと自覚するには充分だった。
「あら?そちらの方は?」
自らの感情に戸惑いながらも腰をあげようとしたところで、めげないジュエルから声が掛かる。
(さっきあなた私の目の前を通り過ぎましたけどね…!)
「私が生涯お傍で尽くすことを誓った方です」
振り向きもせず答えるレオンハルト。
いつの間に誓われたのだろうか。
しかし悪い気はしない、油断すると唇の端が上がってしまいそうだ。
「まぁリオ様ったら、そんな方がいながら別の方と仲睦まじげにダンスを踊られたのですか?」
大袈裟に驚いてみせるジュエル。
確かに今の悠理は以前夜会ですれ違った時とは髪と瞳の色を変えているので別人に見えるかもしれない。
(だとしてもお前には言われたくないと思うわ…)
誰がどう見たって恋人であろうルドルフがいながら、レオンハルトにも色目を使う女に浮気を責める資格はないし、わざわざ人間関係に波風を立てることを言わなくてもいい。
「…フン、いい子にしてるなら小娘にのぼせ上がるくらい多めに見てやるさ、私は心が広いからね」
出されたままの手を取り立ち上がって、レオンハルトの頬を指先で撫でてやる。
わざわざ勘違いを正してやる必要もないので、あくまで今は聖魔女ルシフェルとして振る舞うことにしてみた。
「もう用は済んだのかい?帰るよレオンハルト」
「はい、お待たせをして申し訳ありませんでした」
謝罪を口にするも、人前で悠理から触れたことが余程嬉しいのか声と表情がウットリしている。
絶対にジュエルには見せたくない顔だ。
「しばらくの間頼んだ、陛下の体調もお戻りになったし、何かあればそちらを頼れ」
「かしこまりました」
ジュエルには挨拶さえせず、二人は帰路についた。
失礼なのは名乗ることもせず余計なことだけ言った相手の方だ、気にする必要もない。
長い廊下を歩きながら自然に手を繋がれた。
「ユーリ様、今日は星を見ましょう、一晩中離したくない」
近くに人の気配がないことを確認して、レオンハルトはようやく悠理を名前で呼ぶ。
(デスヨネ!!!!!!)
悠理としては正直に言えば胸の内を整理する時間が欲しいが、素直に伝えたところでかえって離してもらえなくなりそうだ。
「あ、俺タルト食べたいです。買いに行きましょうよ、夕食までまだ時間もありますし」
「そうだね、私のワガママでバタバタさせちゃったし…着替えたら行こうか!」
あがるテンションのままに早足で家へ帰り、マリアのリクエストも聞いて街へ出た。
「……そういえば、さっき部屋にいた人達は、レオの部下?なの?」
ショーケースに並ぶ美しいドルチェを眺めながら悠里は問いかける。
「そうですね、身分や魔力量に関係なく俺が集めた部下たちです、有能ですよ」
王族の人間に付くのは普通、身分と魔力量が前提条件にある。
しかしレオンハルトは幼少期の境遇と圧倒的な魔力量から、その前提を抜きにとにかく仕事が出来る人間を城内からハントしたらしい。
今日だって「しばらく頼む」と言っていたし、信頼関係は充分築けているようで、悠理はなんだか誇らしい気持ちになった。
「そしたら、お礼と挨拶がてら彼らにもルシフェルから何か差し入れでもしようかねぇ」
レオンハルトは一瞬何か言いたげな顔をしたが、すぐに「お気遣いありがとうございます」と笑って見せた。
レオンハルトの執務室へ焼き菓子の詰め合わせを届けさせて帰宅し、夕食後、三人でデザートを食べながら悠理は今日起こった事とこれからの事を話した。
途中、隣と前の空気が冷えきって怖かったので、ついでに旅行でもしたいよねと言ってみたら、二人にものすごく喜ばれた。
悠理は戦争以外で遠出をしたことがない。
マリアもおそらく王都と故郷以外知らないだろうし、レオンハルトは言わずもがな。
魔女と王子である以上国外は流石に難しいが、プレイディア領へ行くついでに国内を周遊するくらいなら許されるだろう。
悠理は明日からすぐ動くつもりでいたが、泊まりがけで家を離れるとなると色々準備が必要になる。
日持ちのしない食材を片付けたり、行先について調べたり、庭の管理も考えなくてはならない。
出発を三日後の朝に決めて、二人はマリアと別れた。
次こそイチャイチャさせます(固い決意)




