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白夜に愛をうたう星  作者: おジョー
37/63

with Lionheart 18

再び城へ呼ばれた悠理に告げられた罪状は、国家反逆罪。

余りにも馬鹿らしくて鼻で笑ってしまったが、悠理を囲む者達の表情は真剣で、それがかえって笑いを誘う。

彼らの瞳から窺える感情は、侮蔑、嘲り、恐怖。


「命を救ってやった礼でも言われるのかと思えば…説明してもらおうじゃないか?」


「よくもぬけぬけと。世の命を脅かしたのがそもそもお前ではないか。言い逃れはできんぞ、呪いを追った際に証拠を掴んでいるのだからな」


「証拠」


やってもいないことの証拠が出るとはこれ如何に。


「とぼけるなよ。お前が平民を使って世を呪い殺そうとしたのだろう!」


わけがわからない。

何せ思い当たることが一ミリもない。


「これがその証拠だ!」


そう言って投げつけられたのは、クシャクシャに丸められた一枚の紙。

開いてみると、「ルシフェル様、お役に立てず申し訳ございませんでした」と中々美しい文字で書かれている。


「言い逃れはできんぞ」


(なるほどね…)


おそらく悠理はハメられたのだろうが、やり方が稚拙すぎる。

しかし「やっていない証拠」は出せない。

無実を証明するなら、真に王を呪った人間、つまり悠理を陥れようとしている者を突き出すしかないだろう。

しかし、嫌悪とは恐ろしいものだ、少し考えれば呪いを返された人間がこんな美しい文字など書けないことくらいわかるだろうに、そんなことも気づけず罰を与えようとするなんて。


「どうしたもんかねぇ…とりあえず、レオンハルトを呼んでくれるかい?」


拘束されているわけではないし、レオンハルトがこの状態を見ても突然キレたりはしないだろう。

多分。


「あれは余の息子であり国にとって必要な王子だ、お前なんぞにいいように扱われるわけにはいかぬ 」


悠理の中でブチッと音が聞こえた気がした。


「ほう…?なぁクソガキ、選ばせてやろう、第二王子を差し出すか、国を差し出すか」


「なっ…!?」


ニイッと唇の端が吊り上がるのがわかる。

今の悠理は誰が見ても100年を生きる魔女そのものだ。

王をクソガキと罵ったことに驚かれたようだが、誰にも何も口出しなどさせない。


「出来ないとお思いかい?耄碌したババアには、国を滅ぼすなんて?100年前の戦争を終わらせたのは誰だと思っている?これは平和な世でなめられている私が悪いのかねぇ?なぁ、あまり私を怒らせないでくれないか?お前が、お前達が、捨てるように私に預けたあの子はとうに私のものだ。そこのお前」


適当に指さした青年はヒッと息を飲んで顔を青ざめさせた。


「早く呼んできてくれないか、私の可愛いレオを」


青年がバタバタと走り去ったのを確認して、悠理は国王に向き直る。


「おいクソガキ?私はお前を呪う必要なんて全くないんだが、もちろんお前一人殺すのもこの国一つ滅ぼすのもそんなまだるっこしいやり方しなくてももっと簡単に出来るからな、だが一応聞いておいてやろう、お前は不老不死の聖魔女ルシフェルに罪があったとして、どんな罰を与えるつもりだったんだい?」


不老不死の相手にとって何が罰になると考えたのか、興味がある。


「…っそれは……」


すぐに答えが出ないのは、悠理の雰囲気に怯えたのか、それとも。


「…おいまさか、なにも考えていなかったのか?お前、どこまでアホなんだい?アルテイアは大丈夫なのかねぇ?ルドルフもおかしな女に逆上せているらしいし、心配だねぇ」


「ジュエル嬢はおかしな女などではない!少なくともお前のような怪しい魔女などではないからな!!」


(………は?)


ジュエルを貶してルドルフが怒るのはまだわかる。

しかしルドルフはこの場にいない。

声を荒らげたのはその父親、つまり国王だ。


(いやわからん)


「大体な、余はお前の魔力を封じて永久に隔離しようと思っていたんだ、それを止めたのが誰でもないジュエル嬢だというのに、その優しさも知らずよりによっておかしな女などと!!」


そもそも、ジュエルが事件というのも烏滸がましいが、この事について意見できるのがおかしいことに気づいていないのだろうか?

レオンハルトは知らないだろう、知っていれば悠理が一人でここにいるなど有り得ない。

では何故、第二王子が知らないことを第一王子の恋人(仮)が知っているのか。


(……あの女…、まさか…?)


考えられるのは二つ。

目の前で喚いている男が余りにも阿呆で、家族のいる、それもレオンハルトのいない食事の場などでつい話してしまったか、悠理を陥れようとしているのがそもそもジュエル・プレイディアである可能性。

どちらもありえるのが頭の痛いところだ。

前者であれば本当にこの国の行く末が心配になる。

後者は、そんなことをされる理由が思い浮かばない。

夜会ですれ違った一瞬以外、悠理にジュエル嬢との繋がりはない。

どうしても疎まれる理由に辿り着かず考え込んでいると、先程青年が走り去った扉が大きな音を立てて乱暴に開いた。

いや、破られた、壊れた。


「……レオ」


「国王陛下、これは、一体、どういうことですか?」


ツカツカと歩いてくるレオンハルトは笑顔を浮かべているが、誰がどう見ても怒っている。

国王が返答を間違えば城の風通しがとてもよくなりそうだ、物理的に。

長い足であっという間に悠理の元までくると、息をするように抱きしめられた。


「あぁ、ルシフェル様、申し訳ありません…このような愚行を…、お許しいただけますか…?」


白く長い指が頬を撫でる。


(人前なんだが?????)


「レオ、私は大丈夫だから、落ち着いて」


距離をとろうと肩を押してみるも腰を引かれてより密着されて、誰にも聞こえない声で囁かれた。


「ダメだよユーリ様、少しも俺から離れないで」


レオンハルトの声からは焦りを感じて、悠理のことを思っての距離だとわかるが、顔を撫でたり髪を弄ぶ必要はあるのだろうか。

これではまるで第二王子をたぶらかす悪い魔女だ。

さっきまで全く出なかった疑問の答えにたどり着いた。


(……誑かすことの出来ない王子の原因が…、聖魔女ルシフェル…だとしたら…?)


ジュエルが魔女。

そうであれば、見えない生い立ちにもルドルフの急激な変化にも納得が行く。

ついでに国王の乱心にも。


悠理はレオンハルトに指を伸ばし、お返しのように頬と頭を撫でた。

老獪な魔女の仮面を被って。


「……私の美しいアンタレス、よくきてくれたねぇ。クソガキ、お前が私に与えようとしていた罰を当ててやろうか、レオンハルトを私から引き離すことだろう」


ピクリとレオンハルトが身動ぎする。

美しい黒髪がフワリと浮いて、決して薄くはないだろう部屋のガラスにピシリとヒビが入った。


「へぇ…?」


静かな声の圧がすごい。


「当たっているだろう?でも残念だったねぇ、そんなことすれば、アルテイアを亡国にするのは魔女でなく第二王子だろうよ。お前が今更息子だのなんだのほざいたって、レオンハルトはとっくに私のもんだ」


悠理を抱きしめる腕に力が入る。

勢いと苛立ちに任せてマズイことを言ってしまったと気づいた時にはもう遅い、おそらく今夜は膝の上から動かしてもらえない。


「…お前…、今更私のモノって言われてそんなに喜ぶなよ…」


「そんなにわかりますか?」


表情は変わっていないというかニヤけるのを抑えるためかなんならさっきよりちょっと怖い顔をしていて、周りの人間がさらに怯えているが久しぶりに耳と尻尾が見えた。

もちろん悠理の幻覚だ。


「だって、あなたのものって…、あなたのものって…」


ぎゅうっと抱きしめられ肩に顔を埋められる。

そしてグリグリされる。


「…あーはいはい…」


しかし悠理とてかつてレオナードに「僕の魔女」と言われて嬉しく思った事実があるし、レオンハルトに「俺だけの魔女」と囁かれてときめいてしまったことも記憶に新しい。

レオンハルトの喜びようもわからなくもない。


「で、どうする?」


柔らかな黒髪を撫でてやりながら視線を国王に向けた。


「お前は私を罰したい。私にお前を狙う動機はないが無実の証拠もない。レオンハルトは私から離れたがらない……、これはもう、私が真犯人を見つけるよりないねぇ?」


「ハッ、そんなことを言って、どうせ逃げおおせるつもりだろう?そんなこと」

「口を慎めよクソガキ」


悠理の苛立ちを少しおさめたのはレオンハルトであって国王ではない、この男への溜飲は一ミリも下がっていない。


「こんな話なんかしなくたって、私はこの国から消えることもこの国を消すことも簡単にできるんだってことをいい加減その空っぽの頭によぉーく叩き込んでくれないかい?これ以上イライラさせないどくれ、血圧があがっちまって何が壊れるかわかったもんじゃない」


レオンハルトに壊された扉の破片が悠理の起こしたつむじ風に煽られて舞い上がる。


「冤罪吹っかける程度には元気なんだ、公務はお前一人でなんとかなるだろう、無理ならルドルフのケツ叩いて働かせな。レオンハルトはしばらく借りるよ」


「借りるもなにも、俺は貴女のものですルシフェル様、どうぞお好きなようにお使いください」


心酔っぷりだけ見ればレオンハルトも大概だ。


「…本人もこう言っていることだし、私とレオンハルト、それからマリアはしばらく自由に動く。国を越えることもあるだろうから便宜をはかってくれないか?」


ないか?と一応疑問系にしただけで、首を横に振ることは許さない。


「……な?」


黒髪赤目の美しい王子に抱かれながらその髪を指先で弄び、有無を言わせぬ目でニヤリと笑う姿は如何にも悪役っぽいなぁなどと思ったが身を守るためだ。

返事を急かすように渦巻く風の力が強くなった。


「………わかった」


言質をとった。

動く準備を整えて明日から早速出かけることにしよう。

ふりかかる火の粉は燃え盛る火球にして全力で投げ返してやらなくては。


「…早く帰りましょう…俺の魔女」


その前にレオンハルトの膝でめちゃくちゃに愛でられるだろうが。

次回お砂糖回予定してます。

レオンハルトくん暴走しないでね、思春期男子。

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