with Lionheart 14
更新が遅れて申し訳ない…。
会場を埋めたざわめきと悲鳴の原因。
誰が声をかけられるのか、招待客がそわそわと落ち着きのない中で、なんとレオンハルトはルドルフの手を取ったのだ。
「兄上、踊りましょう」
「えぇー…、レオンハルトが女性役ならいいよ?」
苦笑しつつも付き合うルドルフ。
仲睦まじげに踊る王子に向けられる視線は、戸惑いと歓喜。
どの世界にもどの時代にも腐った乙女はいるものである。
レオンハルトはいつ覚えたのか、女の動きも完璧だ。
「なんだあれごちそうさまです」
「ユーリ様、声に出ていらっしゃいます」
悠理は記録として残しておく技術がないことを酷く悔やんだ。
目を輝かせているのに忘れてはならぬと修羅の気配を漂わせる悠理を隣で見下ろしていたマリアが動く。
「…レオンハルト様が整えてくださいましたし…」
兄弟でファーストダンスを踊るなど殆どが虫除けのつもりだろうが、恐らくレオンハルトにはマリアと悠理が踊れる空気を作るつもりもあったはずだ。
今日の主役がしでかしたことを招待客が真似たところで、大した騒ぎにはならないだろう。
マリアは悠理の前に立つと恭しく腰を折り手のひらを差し出した。
「美しい方、最初に貴女の手をとる幸せを、私にいただいても?」
「は、はいっ…!!」
まるで初対面の少女のような反応をする悠理に優しく笑いかけて、出された手を握る。
曾祖母も世話をしたというのだから相当な歳上である主人が可愛く見えた。
「…ユーリ様、そんなに緊張なさらないでください、いつものように、私に身を任せて…?」
フロアで向かい合ってピタリと身体を寄せ、赤い耳飾りの揺らめく耳に囁きかける。
(いつものようにって…、マリア様が見ていると緊張しますが…?)
侍女が思っていたよりノリノリで、今までに見せたことの無い表情をしている。
カッコよすぎて悠理が様付けにしてしまうのも仕方がない。
レオンハルトがいつ頃悠理の元に来られるようになるのかわからないが、これだけ見せつけておけば変な虫が群がることもないだろう。
ちなみに、マリアが手本にしたのは言うまでもなくここ最近のレオンハルトだ。
一曲踊り終えて、二人はまた壁際に戻った。
離れたところにできている人だかりを見るに、レオンハルトが声をかけてくることはまだないだろう。
一息ついたところで、人に囲まれた。
先程からそれぞれに向けられる視線を感じてはいたが、まさかこれまでとはと、二人は驚きを隠せない。
特にマリアの女子人気がすごい。
「お褒めいただきありがとうございます、ですがわたくしは、身も心も全てお嬢様のもの。この方の傍を離れては、片時も生きていかれませんので…」
きゃぁっと歓声があがった。
(イケメンか。ねぇそんなのどこで覚えたの?????)
マリアの言葉は、自らに近寄る女性を躱すだけでなく悠理とダンスをしようと話しかける男達への牽制も同時にしている。
二人は主従関係にあるしこの場では護衛も兼ねているので嘘は言っていないが誤解を招くこと必至だ。
それなりに楽しく過ごしていると、できた輪を割いて一人の男が近づいてきた。
「やぁお嬢さん方」
ダンスの前に目が合った男だ。
人々が道を空けたところをみると、それなりの立場の者だろう。
「…こんばんわ」
「初めて見る顔なので、つい気になって声をかけてしまったよ、お二人はどんな人なのかとね」
お前達はどこの家の誰なのかと。
しかしこれはこの場にいる者の総意らしく、皆が聞き耳を立てているのがわかった。
「ふふ、ある方からご招待いただいて馳せ参じた次第ですわ」
コロコロと何も知らない振りで笑いかけてやる。
「ほう、その方はどちらに?」
「今はお忙しそうですが、そのうちお声をかけていただけることになっておりますの」
応対が面倒くさくなってきてレオンハルトの存在をガッツリ匂わせてみた。
「なるほど…では、その方がいらっしゃるまでダンスのお相手をお願いしても?」
(そうきたかーーー)
値踏みするような視線を隠そうともしない男に辟易しているので是非ともお断りしたい。
一番手っ取り早いのはレオンハルトの言葉を直接伝えることだが、それは彼の独占欲を甘んじて受け入れているようで躊躇われる。
「………申し訳ございません、その方がお声をかけてくださるまで、他の方とは踊らないでくれと…」
背に腹はかえられない。
物凄く自惚れたことを言っている自覚から、悠理の頬は赤く染まり、言葉尻が小さくなった。
正直全部投げ出して帰りたい気持ちでいっぱいだ。
(なんだこの空気!!!!!!)
マリア以外の視線が唐突に劇的に変わっている。
悠理はずっと昔、似たものを見たことがあった。
あれはそう、漫画の中でくっつく直前の推しカップルを見る友人の目だ。
これまで不躾に見てきた男までもが、先程とは打って変わって生ぬるい視線を送ってくるではないか。
ちなみにマリアは悠理から顔を背けているので見ることができない。
(なんなんだこの空気…!!魔女ぞ…!?我、100年を生きる聖魔女ぞ…!?)
全部バラして投げ出して消えてしまいたい気持ちが振り切れそうな頃、すぐ近くで低く甘い声が聞こえた。
「ユーリ、お待たせ」
「レオ!……ン、ハルト、様…」
「いつものようにレオと呼んで、私の可愛い人」
王子達が手を取りあった時と同じくらいのどよめきが起こる。
マリアは無言で頭を下げて一歩引き、それまでの場所をレオンハルトに譲った。
レオンハルトは支えを失った悠理の手を当然のように自らの肘に乗せて、更に甘く囁く。
「贈り物は気に入った?あぁ、やはりとてもよく似合っているね」
「…アリガトウゴザイマス」
「大丈夫?疲れていない?私と踊ってはもらえるのかな?」
全部台無しにして消え去りたいですとはとてもじゃないが言えない、というか、誰も何も口をはさめない。
「レオンハルト、そんなにまくしたてては、彼女が困っているよ」
「ルドルフ、様…」
「やぁ、こんばんわ、ユーリ嬢、マリア」
笑い声に振り向くとルドルフも近くへ来ていて、名乗りもしていない悠理とマリアの名を呼んだ。
二人は慌てて礼を返す。
「…恐れながら、こちらのご令嬢方は…?」
今度は驚愕の表情で男が声をかけた。
くるくると忙しない男だ。
そうさせているのは、悠理達だが。
「…あぁ、彼女は私が城を離れている間世話になった家のお嬢さんだ」
嘘は言っていない。
レオンハルトは普段見せる可愛さも今見せた甘さも一切ない冷たい視線と声で面倒くさそうに答えた。
(うわぁ、レオってば、普段はこんななのか…)
「マリア、もう下がっていいぞ。ユーリ、手を」
しかし悠理にはやはり蕩けるような視線と甘い声で接してくる。
これ以上周りに余計な詮索をされたくもないので、素直に出された手を取った。




