with Lionheart 13
レオンハルトの言った通り、夜会の前日、悠理の家にはドレスとタキシードが届いた。
悠理のドレスは黒地だが布全体にラメが散らされ、腰から下はオーガンジーがアシンメトリーに重ねられていて、幼すぎずかといって暗くは見えないデザイン。
髪留めなどのアクセサリーはレオンハルトの瞳の色を意識したのか、赤く燃えるルビーがあしらわれている。
一方マリアのタキシードは光沢感のあるシルバーグレー。
前裾は短く、衿型は黒地に大振りなビーズが散らされている。
袖口は折り返してありそこにも衿と同じ飾りが施されていて、後ろは燕尾になっている。
シャツの襟元はフリルで飾られ、ベストではなく黒いカマーバンドが同梱されていた。
革靴も磨かれた美しい黒で、こちらは身長差を出すためか踵が普通のものより高くなっているようだ。
少し日に焼けた肌と赤茶の髪によく似合うだろう。
「……レオの本気、すごいね…、ベストじゃないことまで含めてすごいね…」
「…そうですね…」
よりフォーマルなのはジャケットの下にベストを合わせることだが、マリアがそれを着ようとすれば相当キツく胸をつぶさなくてはならないので、それをさせないためのフリルとカマーバンドだ。
ちなみにレオンハルトがどんなものを着るのか二人は知らない。
「明日は俺が声をかけるまで、ちゃんとマリアに守られててくださいね。折角マリアも踊れるんですから」
風呂上がりの悠理を横向きで膝に乗せて、いつの間に覚えたのか魔法で髪を乾かしながら優しく釘を刺される。
「…いいけど。私今までルシフェルとして外に出る時は髪と目の色変えてたんだけど、それはどうする?」
レオナードの目を欺く為に始めたことだが、かつての知り合いがいなくなってもなんとなくそのままにしていた。
「そうなんですか?それも見てみたいけど、明日はそのままでお願いします」
「わかった」
乾き具合を確認するように髪に指を通され、そのまま毛先を手に取り口付けられる。
「ユーリ様の髪はサラサラでいい匂いがします」
「…お風呂上がったばかりだからね…、レオだって同じ匂いデショ…」
体勢も行動も当たり前のように受け入れている悠理だが、ふとした瞬間に我に返ってものすごく恥ずかしくなる。
例えば、昔自分がレオンハルトに対して思ったのと同じことをレオンハルトに言葉にされる、今みたいなタイミングに。
「うーん、そのはずなんですけどね、俺よりユーリ様の方がいい匂いするんですよね…」
髪を放したと思ったら、逃げられないように肩と側頭部を固定されて耳の後ろ辺りに鼻を寄せられ、嗅がれた。
(ひえええぇ…!!!)
一体こんなことどこで覚えたのか。
悠理が教えたわけではない。
「れっ…れお…!」
「なんですか…?」
甘く低い声で囁かれて何も言えなくなってしまう。
レオンハルトは悠理が恥ずかしがっている時ほどこうして距離を詰めてくる。
少年の面影と共に初心さも消えたのだろうか。
「……レオンハルト様」
見かねたマリアが助け舟を出した。
まだ触り足りないレオンハルトは不服そうに肩を竦める。
「わかったよ…ユーリ様、俺も湯をいただいてきますね、遅くまで付き合わせてしまいました、明日に響かないよう、あたたかくして寝てくださいね、おやすみなさい」
悠理を隣の椅子に座らせ、額に口付けてレオンハルトは部屋を出ていった。
(…なんなんだ、あれは…いったい…)
絆されているというより流されきっている悠理は額を押さえて、しまった扉を眺めるしかできずにいる。
「…ユーリ様、湯冷めされる前に、お部屋へどうぞ」
「…ん、あぁ、ありがとうマリア、おやすみ」
「おやすみなさいませ」
甘い空気の残骸でも漂っていたのか、マリアは誰もいなくなったテーブルセットの上で二、三度手を払って、やれやれと溜息をついた。
「何から何までありがとうマリア!」
「とてもお似合いです、ユーリ様」
微笑むマリアを見て悠理はガッツポーズをし頬を染めた。
(ぐぅかっこいい…!!!マリアのが…似合っているよ…!!)
夜会当日。
昼過ぎから悠理の着替えが始まり、ヘアメイクまでマリアが全て整えた。
有能で万能だ。
マリアは普段真ん中で分けている長い前髪を一筋残して後ろに流しサイドの髪と共にハーフアップでまとめ、結び目には服と共に贈られた艶のある細く黒いリボンをつけている。
今の彼女を見て、一目で侍女だと思う人間は恐らくいないだろう。
「ユーリ様、失礼します、お手を」
左腕を出す仕草が決まりすぎている。
「はい、よろしくお願いします、マリア」
入場した二人は注目の的だ。
様々な理由で。
マリアの性別が気になる者もいれば、悠理の年齢が気になる者もいる。
そもそも社交の場で初めて見る顔なのに余りにも堂々としているあれらは誰なのかと思っている者も多い。
「マリアがカッコイイから、みんなが見てる」
「そんなことはないかと…、皆様はユーリ様のことを気にされているのでは?」
耳打ちするように楽しそうに笑い合う二人の関係が気になる者もいるだろう。
そういえば、マリアを傷つけた輩は来るのだろうか。
昔自分がしでかしたことを覚えていたら、レオンハルトが第二王子として知られるようになったことについてどう思うのか聞いてみたいところだ。
そんなことを考えながら会場内の人々を見ていると、中年の男と目が合ったので、マナー通り笑いかけておいた。
やがて悠理達が入ったのとは別の扉が開き、国王、王妃、ルドルフ、レオンハルトが入場してきた。
(は?詰襟かっこよ…??)
ルドルフは金髪が映える青に近い紫、レオンハルトは瞳の美しさが際立つ黒の軍服のような衣装を纏っている。
服の装飾品は控えめだがそれがかえって二人を引き立てていて、悠理だけでなく会場中の女性が見惚れているに違いない。
(個人的な感情を抜きにしても、今の国王はなーんか華がないんだよなぁ…)
むしろ国王だけ血が繋がっていないと言われる方が納得出来そうだ。
そんなことはもちろん有り得ないだろうが。
(威厳がないっつーか貫禄がないっつーか…カリスマ性が足りないんだよなぁ…今が平和な世の中でよかったねぇ)
ウンウンと神妙な顔つきで頷いているうちに挨拶は終わったらしく、華やかな音楽が流れ出した。
(……ルドルフとレオは誰と踊るんだ…??)
二人の王子にパートナーはいない。
ルドルフの婚約者はまだ幼いため夜会には出ないし、レオンハルトは悠理のいる場所で他の女の手を先に取ったりなどしないだろう。
まさか踊らないなんてことは…、などと考えていたら、ざわめきと悲鳴が上がった。
悲鳴の理由は次回。
出来るだけ早く更新します_(:3>∠)_




