with Lionheart 12
春。
草木が芽吹き動物たちが眠りから覚め世界が華やかに賑やかになる季節。
「……人間にも発情期があるんでしょうか…」
レオンハルトは朝食の席で疲労と苛立ちを隠そうともせずに呟いた。
国民に存在を周知されてから三ヶ月あまり。
ルドルフを囲む人間の把握に始まり小さく燻る地方の火種を消すに至るまで、レオンハルトの仕事は多岐にわたり、またその手腕は瞬く間に知られていった。
彼は宣言通り、毎日悠理の家から登城している。
忙しさから夕食を一緒にとれないこともしばしばあり、離れている時間を少しでも埋めるように家にいる時は悠理にベッタリだ。
今もマリアが食器を下げるのを確認すると、隣の椅子に座っていた悠理を横抱きにして自分の膝に移した。
「…どうしたの」
初めのうちは毎回顔を真っ赤にして慌てていた悠理も随分慣れてしまい、抵抗もせずされるがまま膝に座り、頭を撫でてやる。
どうしたと聞いてはみたが、先程の言葉から答えはわかりきっている。
美貌、地位、才能。
隠されてきた第二王子に舞い込む縁談の数は、想像に難くない。
「…はああぁーーーやだぁーーー俺にはユーリ様がいるのになんで諦めてくれないのーーー」
駄々っ子のように肩にぐりぐりと頭を擦り付けられ、サラサラの髪が悠理の首元をくすぐる。
「ちょ、レオ、くすぐった…んっ」
小さく出た甘い声にバッ!とレオンハルトの顔が上がった。
アンタレスがキラキラと輝いている。
「ユーリ様、今の声すごく可愛い。もっと聞かせてください」
「………やだよ…、で、どうしたの」
目と話題を逸らす悠理。
早く話せと言わんばかりにグシャグシャと乱暴に頭を撫でた。
「再来週、王城の夜会に参加しろと言われました」
再び悠理の肩に顔をうずめて、ポツリとレオンハルトが呟く。
「やかい……あったねぇそんなの…!?」
実は悠理、ルシフェルの名を賜ってから数度夜会に参加をしたことがある。
無論レオナードのいないものを狙って、さらに髪と瞳の色を変えてだ。
しかしすぐに飽きて行かなくなった。
もう数十年前の話である。
「えぇーレオの礼服いいなぁ!」
話の流れからして、レオンハルトのお披露目、本人にとっては見せしめだろう。
王城で開かれるのだ、規模は国で最大。
口に出されないだけで元々社交界なんて若い男女の出会いの場、そこに成人したばかりで婚約者のいない、仕事も出来て溜息がでる程美しい第二王子なんて餌を放り込んだ日には、居合わせるご令嬢達の火花で王都中が明るくなるだろう。
悠理にもそれがわからないわけではない。
しかしそれより大事なのは、好みどストライクど真ん中の男が着飾るという事実だ。
「……ユーリ様…」
不服そうにジトリと睨むレオンハルト。
「…レオは私とマリアくらいしか知らないでしょ、だからもっと色々な人と出会って、話してみなよ」
それで悠理への思いがただの刷り込みだったと気づいて離れられるのは正直面白くないが、今なら傷つきはしない。
熱量に負けて絆された頃に「運命の相手が別にいました!」なんて言われるのはごめんなのだ。
狡いことを言っている後ろめたさから、悠理は目を伏せた。
後ろでマリアが「うわぁ…」と言い出しそうな表情をしているが二人には見えていない。
「…………わかりました」
抑揚のない声に、流石に傷つけただろうかと悠理が顔を上げると、レオンハルトはそれまで一度も見せたことのない顔で笑っていた。
しかしその冷ややかな微笑みを悠理は知っている。
かつて自分の隣でレオナードが当時の国王陛下に向けたものによく似ていたからだ。
「ユーリ様がそう仰るなら、従います」
同時に押し寄せてきた安堵と寂しさを整理する前に、ただし、と笑顔のまま言葉が続く。
「ユーリ様も参加してください、招待状とドレスは俺が用意します。エスコートは…、そうですね、マリアに男装でもさせましょう」
「……へ?」
ぽかんと開いた口を閉じるように顎に指をかけられ、目線を合わされた。
「俺が着飾ったとこ、見たいんでしょう?ちょうどいいじゃないですか」
笑顔のはずなのに有無を言わせぬ迫力と威圧感。
蛇に睨まれたカエルはこんな気分なのだろうかとどうでもいいことが悠理の頭をよぎる。
「……ユーリ様、返事は?」
「ひゃい、…あっ?」
つい反射で返事をしてしまったがレオンハルトの耳にはしっかり届いてしまった。
もう取り消すことは不可能だろう。
今度は実に満足気な笑顔を向けられる。
「……あの…、レオンハルト様…?」
それまで黙って成り行きを見守っていたマリアが突然飛んできた割と巨大な火の粉に戸惑いの声を上げた。
「マリアも、そういうことだから。もちろんこちらの悪ふざけに付き合わせるんだ、必要なものは全て用意させてもらう、二週間もあれば、簡単な曲くらいはマリアなら踊れるようになるだろう?」
それは、悠理と踊るための男性パートを、ということだろう。
「………かしこまりました」
マリアが今仕えているのは悠理なのでレオンハルトの言うことを聞く義務はないのだが、断れば悠理が一人で夜会に赴くことなる。
どんな者がいるかもわからない場に主人だけで放り込むなどできるわけがなかった。
「ふふ、ありがとうマリア。さて、そろそろ行かなきゃかな、行ってきます、ユーリ様、マリア」
膝からおろす前に額、瞼、頬の3箇所に唇で触れて、レオンハルトはゆったりと家を出ていった。
「なんか…ごめんね、マリア…」
「いえ、かまいませんよ」
残された二人はぼんやりと言葉を交わしながら、レオンハルトは怒らせないようにしよう。と思った。
次回マリア様男装回です(^q^)
ヤローの服はどうだっていいんだ、男装の麗人hshs。




