with Lionheart 11
「おはようございます、ユーリ様」
「………おはよう…」
結局あれから、悠理は殆ど眠れなかった。
すぐに寝入ったレオンハルトの腕から逃れようとしてみたものの、かえってキツく抱きすくめられてしまったりして、寝返りもまともにうてないまま、レオンハルトの美しい寝顔を見て数時間を過ごした。
「眠れました?」
(そんなわけないよねぇ…)
しかし素直に答えるのは悔しい。
子供だのただの弟子だのと思っていた相手から眠れない程ドキドキさせられるなど、恥ずかしくて認めたくない。
「あー……、まぁ…」
曖昧な返事をすると、クスリと笑う声が聞こえた。
「うそつき」
そのまま前髪を指で分けられ、額にくちづけられる。
「ユーリ様、俺にドキドキしてくれてるんですよね、嬉しい、可愛い」
「かっ…かゎ…!?」
抱きしめられて今度は頭頂部にキスされた。
「ユーリ様、俺の…俺だけの魔女…」
悠理は昨夜なにも返事をしていないが、レオンハルトにとって彼女が彼だけの魔女というのはもう確定事項であるらしい。
髪を梳かれながら噛み締めるように囁かれた。
起き抜けから糖度が高すぎる。
「…………今、何時…」
起きるべき時間なら腕から逃れられるだろう。
「まだ朝食までは2時間くらいあります」
あゝ無情。
「………二度寝、する」
「おやすみなさい、ユーリ様」
悠理は毛布を頭までかぶった。
息苦しくはあるが、背に腹はかえられない。
子供をあやすように回した腕で背中をとんとんされる。
力加減とリズムが心地よくて、悠理はすぐに眠りに落ちた。
朝食の後、悠理は本当なら昨夜するつもりだった話を切り出した。
「レオンハルト」
「…なんでしょう、ユーリ様」
呼ばれたのが愛称でないことで、レオンハルトもそれが大切な話だと察したようだ、姿勢を正して座り直す。
「レオのこれからの身の振り方についてなんだけど」
レオンハルトを拾い上げて四年。
悠理は彼のもつ魔法のセンスを開花させ、マナーを洗練させ、生活力もそこそこつけさせた。
今のレオンハルトならば、望むように生きられるだろう。
第二王子として城へ戻っても、以前のように蔑まれたりはしないし、ただのレオンハルトとして生きていくとしても、高給取りになれるはずだ。
いや、ただのレオンハルトとして生きていくのはルドルフが寂しがるかもしれない。
「レオはこれから、どうしたい?」
「俺はユーリ様の傍にいられるのであればなんでも」
即答にも程がある。
なんなら食い気味だった。
「お、おぅ…、じゃなくてね…?え…?」
「え?ユーリ様と一緒にいられるなら、なんでもいいですよ、…魔女って結婚できるんですか?」
「……さぁ…」
悠理の知る魔女の多くは自由気ままに生きることを好み、縛られることを酷く嫌う。
代償を支払ってまで得た力を誰かのために使いたいとは思わないのだろう。
結婚は出来る出来ない以前に、そんなことしたくない者が殆どだ。
「出来ませんよ」
口を挟んだのは明らかに昨夜までとは雰囲気の違う二人を見ても態度を変えず淡々と仕事をこなす有能な侍女マリアだ。
「出来ないのか?」
「はい、魔女は監視対象ではありますが、法の域を出た存在です、わかりやすく差別的な言い方をすれば、人間だと認められておりません」
人間以外のものと婚姻は結べない。
精神的な繋がりだけならそれは個人の自由だろうが、レオンハルトが求めているのはそういうことではない。
「…どうせ監視するなら、結婚くらいさせて縛っておいた方が楽だろうに」
確かに、結婚をして子でも授かればそうそう自由を求めてフラリといなくなったりはしないような気もする。
「恋は人を狂わせる、と申しますから」
「?」
魔女が恋に狂ったところで、過ぎる力を容易く使えないように監視がつくのではないのか。
悠理の頭にいくつも疑問符が浮かぶ。
「自らの恋のために、魔女になる者が多かったのでございます、ユーリ様」
だから、魔女になって恋を叶えても結婚は出来ないぞと。
つまり、牽制というわけだ。
多かったといっても、そもそも魔女になれるような人間がそんなに多くはないのだが、悠理には知る由もない。
本来であれば、悠理と女神が交わしたようなカジュアルなやり取りでなる存在ではないのだ。
「え、じゃぁ、国に見つからなければ普通に人として結婚出来たりするってこと?」
「そうですね…、それは可能かもしれませんが、ユーリ様には当てはまらないので考えなくてもよいかと」
「それもそうか…、っていやいやいやいや、待って?私、なにも返事してないよね???」
そこまで話して悠理は漸く気がついた。
レオンハルトもマリアも、二人が結婚したがっているという前提で話を進めているが、悠理は是とも否とも答えていない。
「あら…、そうなんですか?」
「そうだね、まだちゃんと返事はもらっていないけど、俺が同い年になるまでにあと2年あるし、それまでに愛してもらえれば問題ないよね。というわけで、ユーリ様、決めました」
「んっ?んんん?決めた?なにを?」
真っ直ぐな気持ちと言葉を向けられることに慣れず、理解するまでに時間を要してしまう。
「俺は第二王子として兄を支えながら、くだらない決まり事を変えてもらうことにします、ユーリ様の花嫁衣装が見たいので」
(動機が不純すぎる)
理由がなんであれ、ルドルフは喜ぶだろう。
レオンハルトが紛うことなき王族なのだと認めさせるのも、聖魔女ルシフェルの証言と今の彼の実力を持ってすれば容易い。
「……わかった、それじゃぁ、城に戻るんだね」
四六時中一緒にいた相手がいなくなる寂しさはあるが、レオンハルトのことだ、ルドルフ以上に遊びに来るだろう。
「え?俺はここから通いますよ?」
「え?」
それは、流石に許されないのでは。
「ずっとお傍にいるために選んだ道ですよ?それで会えなくなるとか、本末転倒じゃないですか」
そう言われれば、そうなのかもしれない。
悠理は気づかない、レオンハルトが言いくるめにかかっていることを。
「それくらいのことは、許してもらいますよ。というかそんなことも許可させないで目標を達成できるなんて思いません。マリアとだって離れ難いですし」
ついでのように名前を出されたマリアは嘆息を飲み込みつつ「そうですね」と適当に相槌をうつ。
「…ユーリ様だって、突然俺がいなくなったら寂しくなるでしょう?」
「それは、まぁ……って、いや、そうじゃなくて!!」
まるで誘導尋問だが、答えた後に赤くなる悠理を見てレオンハルトは満足そうにニコニコとしている。
「ね?なので俺は、このままここで暮らします、かまいませんよね?」
(ひぇ…、なんだこのアングル…顔がいい…キレイ…)
隣に座るレオンハルトはテーブルに肘をつき組んだ手に頭を預け、悠理の顔を覗き込んでいる。
顔が良すぎて眩しい。
「……わ、わかった、じゃぁ、それで…」
15歳に丸め込まれた100余歳。
それから数日と経たずして、レオンハルトという第二王子の存在を国中の人間が知ることとなる。




