with Lionheart 8
更新が遅れて申し訳ない…_(:3>∠)_
ずっと一人だった魔女の家に住人が増えて数ヶ月。
アルテイアは白夜の季節を迎えていた。
部屋について分不相応だと言い張るマリアと少し揉めて悠理の部屋の家具も新調したりしたが、三人それぞれに自室と呼べる空間ができた。
レオンハルトは規則正しい生活と栄養豊富な食事ですっかり健康的な美少年となり、服も増えた。
悠理は自分に貢ぎ癖でもあるのだろうかと少しだけ悩んだりもしたが、オタクの悲しい性がそうさせると悟ってからは「推しにお金を出すのは当たり前」とむしろいい笑顔でレオンハルトに色々と買い与えた。
といってもその殆どが悠理の好みに合わせた服と勉強の為の本ではあるのだが。
週に二日はマリアに家事をさせないことも決めた。
手持ち無沙汰で仕方ないと泣きつかれたので休みの日は剣の稽古をつけさせることにした。
悠理がこれまで退屈をなんとか殺してやり過ごしてきた毎日は、新しい住人達によって鮮やかな色を帯び、眩しく輝き出した。
それは同時に、刻まれた呪いを改めて恐ろしいものなのだと悠理に理解させた。
幸せであることが恐怖となるなんて漫画やドラマの台詞だけだと思っていたのに、悠理は時折胸が痛くなる程に二人を愛おしく思い、置いていかれる苦さを噛み締めた。
ある日、魔女の家を配達区間にしている強者の商人から、第一王子の成人を王都を挙げて祝われることを聞いた。
第一王子。
レオンハルトの四歳上の異母兄で、マリアの前の前の主。
そういえば初めて会った頃のレオンハルトがマリアのことを話す時、「兄以外に優しくしてくれる唯一の人」と言っていたことを思い出した。
マリアをレオンハルト付きにしたのもルドルフの指示だとマリアも言っていた。
彼が成人する事で、城内の換気が少しでも行われれば、レオンハルトも過ごしやすくはなるのではないのだろうか。
といっても悠理はまだレオンハルトを手放す気はないので、今更環境が多少改善されたところで何の関係もありはしない。
(成人かぁ)
しかし、思い通りに動かせない大人達の中で一人、レオンハルトに優しくいようとした王子の誕生日を祝うのは吝かでない。
何故か悠理を嫌う国王はいい顔をしないだろうが、まじないをかけたアクセサリーの一つくらい贈ってもいいだろう。
しかしここで問題が出てきた。
(……ルドルフ王子って、どんなんだっけ)
金髪碧眼ということしか覚えていない。
人と関わることを避けて生きてきた弊害がまさかこんなところに表れるとは。
仕方が無いので、二人に相談することにした。
「というわけで、レオによくしてくれたみたいだし、ルドルフの成人祝いにルシフェルとして何か身につけるものを贈ろうと思うんだけどなにがいいかな」
「兄上の、誕生祝いに、身につけるものを…ですか…」
優しくしてくれた兄へ好意を寄せる相手が他意はないがアクセサリーを贈る。
10歳の少年の心は複雑だ。
兄の優しさも悠理の優しさも嬉しく誇らしいが、何も贈るものが身につけるものでなくても、と思わなくもない。
そんなレオンハルトの気持ちを察してか、マリアが口を挟む。
「ユーリ様、僭越ながら、ルドルフ様に身につけるものを贈るとなると、周りが黙っていないかと」
「……だよねぇ、小さな怪我一つでも私のせいにされたりしてな」
こわーい。と全く恐れていない口ぶりで悠理が笑う。
怖くはないが面倒くさいのだろう。
「そもそも私、ルドルフ王子のこと全然知らないんだよね」
同じ敷地内に居を構えてはいるが、国王陛下や第一王子のルドルフについてなら恐らく王都に住む国民の方が余程よく知っているだろう。
「兄上は…、お優しくて…」
それは周囲の人間によって遠ざけられていたレオンハルトも同じで、流石に悠理ほどではないにしても、ルドルフについて持ち得る情報は少ない。
頼みの綱はマリアだけだ。
「……ルドルフ様は、可愛らしいものがお好きです」
「かわいらしいもの?」
「といっても多くの女性と趣味が近いというわけではなく、アンティークの小物や食器ですとか…、異国からガラスでできたペンを贈られた時などはとても喜ばれていたように思います」
可愛いというより、繊細で美しいものが好きなようだ。
自室に置いても邪魔にならないサイズで魔法をかけられるもの。
「……オルゴール、とかどうかな」
中に小物がしまえるようなものがいいだろう。
蓋に魔力を込めた宝石でも埋めてやれば、殆ど繋がりのない魔女からの贈り物としては上等だろう。
「あぁ、それは、素晴らしいですね、安眠効果のある曲などがあれば尚良いかと」
安眠効果。
第一王子は不眠の気でもあるのだろうか。
(まぁ、気は張るよねぇ)
気ままに生きる悠理にはおおよそわかりえないストレスなどもあるだろう。
「そんじゃ、近いうちにまた街へ行こう。蓋の柄はマリアが選んで、曲はレオが。埋める石は二人にそれぞれ決めてもらおう」
ルドルフ本人には、レオンハルトとマリアが絡んでることをこっそり教えてもいいだろう。
「…そんな、よろしいのですか?」
「え?だって私、ルドルフのことなんも知らないからさ、彼をちゃんと見ていた人が選ぶ方がよくない?」
プレゼントは選ぶ方にも大切な時間となる。
今は直接祝うことが出来ない二人からの心が、少しでも伝わればいい。
「ありがとうございます、ユーリ様」
悠理としては最初から二人にも手を加えてもらうとつもりだったが、涙を浮かべるほど感激されてしまった。
二人が選んだオルゴールは深い木の色を活かした外身と優しい曲。
なるほどこれであればアンティークに趣を感じるルドルフもきっと気に入るだろうデザインだ。
悠理は贈る相手のことを何も知らないので、店内であれでもないこれでもないと唸る二人をただニコニコと眺めていた。
それぞれの選んだ石を嵌め込んでもらう。
レオンハルトはルドルフの目に似たアクアマリン、
マリアは髪の色を意識したのだろう、シトリン。
悠理は宝石ではなく、魔除けとされる銀の細工を模様の中に施してもらった。
思いのほか豪華なものになってしまい、レオンハルトとマリアに恐縮されたが悠理にとってこれくらいの出費は大したものではない。
勤勉と言われる日本人だけあって何もしないで過ごすことが出来ず、内職やら製薬やら色々と手を出して数十年経つ。
物欲もそんなにないので、金は貯まる一方だった。
贈る物自体が手元へきたので、あとは悠理が魔力を込めるだけだ。
手をかざして流し込むことも出来るが、折角なら祝福の力を借りることにした。
悠理の庭には、もうひとつ建物がある。
それは小さな小屋で、中にはピアノとソファセット、壁には使えないお飾りの暖炉が設えられている。
公爵邸の部屋に似せてあるのだ。
二度と帰ることはないと決めて、それでも時々揺らぐ心を慰めるために作った場所。
殆ど触らないが、定期的に調律はさせている。
元々手慰みに弾く程度だ、レオンハルトが来てからこの小屋に入るのは初めてだった。
「ユーリ様、ピアノが弾けるのですか?」
かつてのマリーと同じ言葉を曾孫から聞くとは。
「……ちょっとだけね」
屋根を開き、椅子に腰かける。
オルゴールは譜面台の近くに置いた。
強く望んで歌えばいいので、曲はなんでもいい。
歌い慣れた、弾き慣れたもの。
少し考えて悠理が選んだのは、元いた世界では誰でも知っているであろう有名な曲だった。
怖い夢を見ないよう、
強い敵意が近づけぬよう、
幸せな生となるよう、
思いと魔力を込めて歌った。
子供でも歌える童謡は二回繰り返して歌っても1分あるかどうかという短さで終わった。
ふぅ、と息をついたところで、拍手が聞こえてくる。
振り向くとソファに座るレオンハルトがキラキラした目で悠理を見ていた。
「あはは、やだな、拍手してもらうような曲じゃないのに」
照れくさくなってしまう。
オルゴールはといえば、目を凝らして確認すると、思った通りの効果がついたようだ。
「ユーリ様、もう歌ってくださらないんですか?」
結果に満足して椅子から立ち上がりかけたところで、まさかのアンコール。
「もっと聞かせてほしいです、前もあんまり聞けませんでしたし…」
前というのは、カラスを呼んだ時のことだろう。
「…ワガママ言っちゃ、だめですか?」
(ぐぅ可愛い!!!!!ダメじゃない!!!!!!)
魔女がチョロ過ぎる。
「今日のところは、あと1曲ね…?」
「ありがとうございます!」
リクエストを募っても無意味だろうから、悠理の脳内から勝手に選曲することにした。
似せた部屋のせいだろうか。
よく似た少年のせいだろうか。
懐かしい日々を思い出した。
「……Daisy, Daisy…♪」
美しい人へ、愛を告げる歌。
縋るように答えを求めて、二人同じ道を歩むことを望む歌。
悠理にとってのデイジーはまだレオナードなのかと言われると、そういうわけでもない。
本当は女として愛されていたという事実を知れただけで充分に満たされたし、もっと早く伝えあっていればと思ったこともあったが、そうしていたらもしかしたらアルテイアは敗戦国になっていたかもしれない。
今の悠理にとって愛しいのはレオナード個人ではなく、彼を含む人々と過ごした時間そのものだ。
それでも何故か、頭に浮かんだのはその曲だった。
「…Of a bicycle built for two…♪」
「……おそまつさまでした」
鍵盤から静かに指を離した悠理が振り向くことなく小さく呟く。
「……ユーリ様、本当にすごいです!」
レオンハルトの瞳は興奮と好意でキラキラと輝き、まさしく夜空のアンタレスのようだが純粋なその視線に耐えられない。
(ひえぇ…なんでかわかんないけどめちゃくちゃに恥ずかしい…!)
まず選曲が恥ずかしかった。
何故10歳の少年からのアンコールであれを選んだのか、五分前の自分を正座させて問い詰めたいと思った。
「今のは、なんという曲ですか?」
「…デイジー・ベルっていう歌だだよ」
「すてきな歌ですね、また聞かせてくれますか?」
どうやらレオンハルトはこの歌が気に入ったらしい。
「……魔女の気が向いたらね」
言葉が違うが歌詞の意味はわかるのか気になりはしたが、わからないから教えてくれと言われたら恥ずかしくて逃げたくなりそうなので聞かないことにして、小屋を出た。
後日こっそりと渡したオルゴールはとても喜ばれて、返礼品が届いた。
なんなら第一王子が時々遊びに来るようになった。




