with Lionheart 7
「さて!今日から魔法の使い方について勉強していこうと思います!点呼!レオンハルトくん!」
「はっ、はいっ、よろしくお願いします!」
麗らかな午後。
悠理とレオンハルトは庭で向かい合って立つ。
本当はもう少し経ってから始めようと思っていたが、昨夜マリアの傷痕をどこまで消せるだろうと蔵書を読み漁ってみたら、レオンハルトが魔法を使えるようになれば悠理よりも良い結果を出せそうなことに気づき、予定を早めた。
マリアが有能過ぎて部屋の掃除は一人でさせた方が早いこともわかったというのもある。
家具は近いうちに店から人を呼ぶことにした。
「そんじゃ、まずは基礎。身体に流れる魔力を感じ取ることからしていくよ」
随分昔レオナードにしてもらったことを思い出す。
(えっと確か…)
「レオ、手を出して、こんな感じで」
悠理に向かって手のひらを出すよう、腕を胸の前へあげさせる。
「ん、そのまま」
距離を詰め、手のひらを合わせ、指を絡めた。
「!?!?ゆっ、ユーリ様!?」
真っ赤になって慌てるレオンハルト。
(うんうん、わかるよ、恥ずかしいよね、私もそうだったよ…)
「しー。…目を閉じて、右手に意識を集中して?」
本当はここまで近づく必要も指を絡める必要もないのだが、悠理はかつで自分がされたやり方しか知らないのだから仕方がない、全てレオナードのせいだ。
レオンハルトが狼狽えながらも目を瞑るのを確認して、左手から魔力を流した。
繋がれた手にピクリと力が入る。
「…わかる?」
「……はい、右手が、あたたかいです」
「いい子ね、そのまま、意識を全身に向けて」
悠理は目を閉じて集中しているレオンハルトの顔を眺めた。
(…まつげなが…)
今でこそ自分に好意に似た恩を感じてくれているが、いつかこの少年も、誰かに恋をするんだろうか。
きっと彼はこの美しさを保ったまま成長するだろう。そんなレオンハルトに愛を請われて断れる女などいるのだろうか。
そこまで考えて、胸がチリリと痛んだ。
(……これが…娘を嫁に出す親の気持ち…!?)
残念極まりない誤解だが、それを否定してくれる相手はいない。
「あの…ユーリ様…?」
「ん、あぁ、ごめんごめん、からだの…胸の辺り、とくにあったかかったりする?」
レオンハルトの不安そうな声に我に返り、自分もされた質問をする。
「はい、心臓…熱いです」
「いい子。それじゃ、今度はレオンハルトの魔力を左手から私の右手に伝えてくれる?そう意識するだけでいいよ」
やがて右手にレオンハルトの魔力を感じる。
干渉する意思のない純粋な魔力は持ち主によって受け取る側の感じ方に差が出る。
包み込むように優しくあたたかだったレオナードのものに比べて、レオンハルトの魔力は随分と熱い。恐怖を感じるようなものではなく、惹かれて手を伸ばしたくなるような熱さだ。
「…これが、レオの魔力…、うん、熱くて心地いい。上手にできたね、本当に賢くていい子だ」
左手を離して頭を撫でてやる。
目を開けたレオンハルトは相変わらずの悠理との近さに一瞬固まったが、嬉しそうだ。
「今日は夕飯まで、ひたすら復習をしようね。明日は魔法の基礎を本で学んで、それから実習にします!私は近くで植物の世話をしているから、何かあったらすぐに呼んでね」
危険なことは教えていないので何か起こるとは思えないが、念の為傍を離れないようにする。
雑草を抜いたり弱っている株を間引いたりしながら時折様子を伺えば、目を閉じて先程教えたことを行っているのだろう、静かに立つレオンハルトが見えた。
この調子なら、すぐにでも初歩の魔法から覚えていけるだろう。
(ほんとうに、城のクズ共は勿体ないことをしてたもんだ)
ざまあみろと心の中で舌を出した。
ちなみに夕食時、レオンハルトから話を聞いたマリアによって100年越しに悠理の勘違いは正された。
本当は手を重ねるのも、上下に置くだけでいいらしい。
(…なんということでしょう…)
「ユーリ様、今までずっとそうやってきていらしたんですか?」
唖然とする悠理に、どことなく不機嫌な声が隣からかかる。
「……それが正しいと思っていたけど、レオ以外にしたことはないよ」
伊達に引きこもりの魔女をやっていない。
「そうですか、僕だけですか、それはよかった」
正直に答えると声が柔らかなものになったが、突きつけられた真実の衝撃が大きすぎて悠理は気づいていない。
齢10にして既に男としての独占欲を覗かせる元主と、恐らく齢100を超えているくせにその熱情に全く気づかない現主を客観的に見ているマリアは溜め息をつきかけて、飲み込んだ。
賢明な判断といえる。
「ユーリ様、まだお休みにならないのですか?」
寝る準備を整え、悠理は巣の中で魔術書を開いていた。
「今日みたいな勘違いがあったら恥ずかしいからね…、もう少ししたら寝るつもりだけど…、レオ、明るいと眠れない?」
昨夜マリアの傷について調べていた時は本棚の前から動かなかったので、部屋の明かりはもっと落としていた。
「…そう、ですね…、ユーリ様が、公爵様から直接教わったのはそれだけなんですよね?」
「まぁ、そうだね」
正確に言えば火と光の魔法も教わっているが、それは他の家庭教師との比較も出来るので大丈夫だろうと思う。
「だったら平気ですよ、きっと。ユーリ様、昨日も遅くまで調べ物していらっしゃいましたし、今日はもう寝ませんか?」
よく眠っていると思ったのに、どうやら起きていたらしい。
「……それもそうだね、今日はもう寝ようかな!」
本を閉じて、モソモソと毛布へ潜り込む。
「………」
視線を感じる。
「ん?レオ、どうし…」
額に口づけられた。
「おやすみなさい、ユーリ様、また明日もよろしくお願いします」
「……おやすみ…」
やはり早めに部屋を整えた方がよさそうだ、子猫が獅子になる前に。
すぐに寝息を立て始めたレオンハルトの頭をひと撫でして、悠理は熱くなった頬を隠すように毛布を顔の真ん中まで引っ張りあげて眠りについた。
このままでは聖魔女が通報されかねないのでレオンハルトくんには早く大人になっていただきたいと思います…( ˇωˇ )




