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白夜に愛をうたう星  作者: おジョー
24/63

with Lionheart 5

更新が遅くなってしまった…。

一睡も出来なかった。




と、言いたいところだが、ぐっすり寝た。


目が覚めると、背中を向けて寝たはずのレオンハルトが目の前にいて驚いた。

単に悠理が寝返りをうっただけなのだが昨日のこともあるし、声を上げなかったことを自分で褒めた。




(……起きない)


それもそうだろう、むしろあの後眠れなかったのはレオンハルトの方で、彼が寝付いたのはほんの二時間程前だ。


(どーしようかな)


今日はレオンハルトの部屋を用意するという重大ミッションの他に、カラス達に渡すナッツも作らなくてはならない。

しかし穏やかに寝息を立てるレオンハルトを起こすのもしのびない。

悠理は暫く悩んで、


(…まぁ、いいか、魔女は気まぐれさ)


これは悠理が自分を甘やかすときの常套句だ。

一緒になって二度寝を決め込んだ。




結局二人が起きたのはとうに陽も昇った時間で、のんびりブランチを済ませ、ナッツを炒めた。


「甘くていい匂いがします…!」


「ふふ、私たちのおやつに少し残しておこうね」




ナッツが冷めたのを見計らったようにやってきたカラスから「出てこい」と催促をされて、二人は庭に出る。


「いいタイミングだね、ちょうど君たちへの報酬が仕上がったところだ、それで、見つかった?」


レオンハルトは悠理とカラスを不思議そうに眺めていた。

祝福によって、悠理は人間以外の生き物とも会話ができると聞いたがカラスたちは先程から鳴いたりしていない。

嘴を開いたり閉じたりしながら、首を左右に傾げているだけだ。

しかしそれで意思疎通が出来ているようだし、悠理の力もだが、カラスの賢さにも驚いてしまう。


「…ほんとに?そう、ありがとう、お礼はこの子が持ってるからもらって」


カラスの目がレオンハルトを捉える。

黒く、丸く、知性を感じる瞳だった。


「…ありがとうございます、マリアを探してくれて。作るのは僕も手伝いましたけど、味付けはユーリ様なので、安心して食べてください」


手に持った袋の口を開けて差し出す。

なんとなく、自分の言葉も理解されるような気がして話しかけてみた。

カラスは悠理にしたのと同じように首を傾げて、すぐ近くへ飛んできた。

間近で見るとその大きさに少し怯んでしまいそうになる。


「レオ、カラス達が、怖がるな。ってさ」


「は、はい」


カラスはレオンハルトの腕に足をかけ、袋の中身を啄む。

怖さではなく重さで手が震える。


「ふふふ、レオを気に入った?じゃぁ、あんまり意地悪しないであげて」


悠理が笑うと、カラスが飛び立つ。

少し距離をとったところで、ひと鳴き。


「ありがとね、早速行ってみるよ。レオ、残りは袋のまま渡すからそのままそこに置いていいよ」


言われるがまま足元に袋を置いて、もう一度カラスに向き直った。


「本当に、ありがとうございました、僕はレオンハルトと言います、ユーリ様の弟子にしていただいたので、またお会いすると思います」


カラスはじっとレオンハルトを見つめ返すだけだ。

きっと伝わったろうと思い、悠理に続いて家の中へ入った。




「レオは、ちゃんとお礼が言えていい子だね!」


悠理はワシワシとレオンハルトの頭を撫でる。

褒めて伸ばすのが悠理のスタイルだ。


「僕にカラス達の言葉はわかりませんが、彼らには僕の言葉が通じるように思えたんです」


「うんうん。あの子たちもレオを気に入ってたし、もしかしたらそのうち力になってくれるかもねぇ」


最近悠理と対話するのはいつもあの二羽だ。

まだ若く、好奇心旺盛だが賢く強い。

もしもレオンハルトに懐いたなら、名前をつけてもいいかもしれない。


(二羽のカラスにつける名前なんて、一つしか浮かばないんだけどなぁ…!)


悠理の頭にある名は火星の衛星だ。

昔見たアニメの影響に違いないのだが、レオンハルトのアンタレスは火星に対抗するものなのに従えるのがその衛星とはこれ如何に。


(……ま、もしもの話だ、そうなった時に考えよう。それより)


「レオ、これから着替えて街に行くよ!」


カラスの情報によれば、以前レオンハルトに付いていた侍女マリアは城からかなり近いところに住んでいる。

そしてその生活は悠理の考えていた通り、決していいものとは言い難い。

レオンハルトの部屋すらまだ手付かずだが、三人でかかれば一部屋くらいなら、今日中に掃除が終わるだろう。

最初から断られるとは思っていないので既にマリアも戦力として数えた。



レオンハルトには昨日買ったばかりの服を着せる。


(はいかわいい)


ちなみにまだ彼の部屋がないので、脱衣所で着替えさせた。

悠理は黒いマキシ丈のワンピースに黒いローブで、如何にも魔女です!といった出で立ちだ。


「顔、隠しちゃうんですか?もったいない…」


心底残念そうに言うレオンハルト。


「魔女として人を攫いに行くんだからね、それなりの格好でキメていかないと!」


別に深いことは考えていない。

そんな気分だっただけだ。


「それじゃ、いこうか」


手を繋ぎ、目を瞑らせる。

再び目を開けば、そこは王都の外れだ。






「あんたが、マリアかい?」


突然声をかけられた女が振り向く。


そこには全身を黒で包んだ、声からして恐らく女、と、


「……レオンハルト様…?」


自分が仕えていた不遇の第二王子の姿が。


「マリア、久しぶり」


レオンハルトが困ったような顔で笑う。

それも仕方の無いことだろう。

マリアと呼ばれた女は、レオンハルトの姿を認めた瞬間泣いてしまったのだから。


「レオンハルト様っ…!こんな…!ご立派に…!!」


駆け寄ってきたマリアがレオンハルトの傍で跪く。

正直立派なのは服だけで、中の体はまだ不自然に細いのだが、マリアにとってみれば「レオンハルトが普通の生活をしている」ことが驚きであり安堵であった。

悠理は完全に置いてけぼり、蚊帳の外。


(話しかける雰囲気がこい)


泣き止むまで待つ時間は正直惜しい。

出来れば早く帰って部屋の掃除をしたい。


「マリア、落ち着いてくれ。こちらの方が、助けてくださったんだ」


(レオGJ!!!流石うちの子!!)


「貴方様が…!ありがとうございます、ありがとうございます…!!!」


何度も頭を下げられる。


「顔をお上げ。礼を言うのはあたしの方さね。アンタがこの子の心を守ってくれたおかげで、あたしはいい弟子を持てたんだからね」


マリアが跪いたまま顔を上げると、流した髪で隠していたであろう火傷の痕が首筋に見えて、悠理は心の中で舌打ちした。


(レオは左手と言ってたけど、もっとひどいな…、どれくらい消せるだろう…)


マリアは二十歳前後に見える。

花ざかりの女性にこんな大きな火傷を負わせあまつさえ仕事を奪うなど、人間の所業とは思えない。


「……アンタの、今の主人はどんなやつだい?」


いい扱いをされていないのはわかっていたが、敢えて聞いておく。


「…その……」


(そりゃぁ言いづらいよねぇ)


レオンハルトが気に病みそうなことを軽く口にはできないだろう。


「聞き方を変えよう、そいつは、金で動くやつかい?」


「え…」


悠理は簡素な麻の袋をローブから取り出した。


「とりあえず、そいつに会わせとくれ…あぁ、一応アンタの意思も聞いておかないとね。アンタ、またレオンハルトに仕える気はあるかい?レオンハルトに、というよりは、聖魔女ルシフェルに、だがね」


「…!!!!」


驚きに目を見開くマリアの手を取り立ち上がらせ、雇い主の元へ案内させる。

レオンハルトをどうするか少し考えて、連れていくことにした。




「なんだ、お前たちは!」


丁度よく屋敷の中にいた今もマリアの主人は無礼な三人に憤慨するが、貴族にしては線が細く、陰険そうな顔をしていて全く威厳を感じられない。


「いやぁ、突然すまないね、うちの坊主がこの女を一目見て気に入ったらしくてね、どうだろう、この侍女を売ってはもらえんかね?」


「なにを…」


馬鹿なことを、と男が言う前に、悠理は先程ローブから出した麻の袋をテーブルに置いた。

ガチャン、ジャラリと音がする。


「一方的にこちらが欲しがってんだ、色はつけよう」


男の喉がゴクリと動いた。


「……アンタが、も(・)し(・)こ(・)の(・)女(・)の(・)火(・)傷(・)を(・)治(・)療(・)し(・)て(・)い(・)た(・)ら(・)かかっていたろう費用、ま(・)と(・)も(・)な(・)生(・)活(・)を(・)さ(・)せ(・)て(・)い(・)た(・)場(・)合(・)に(・)かかっていたろう費用、女の数年分の賃金が入ってる」


マリアを手放すことを惜しいなどと思わせない金額だ。


「即決なら全額、考えたいというならまずは…」

「わっ、わかった!いいだろう」


減額を匂わせれば男は慌てて返事をしてくる。

実に簡単だった。


「…では今からマリアは私のものだ。マリア、手離したくない私物があるならさっさと持っておいで、すぐに帰るよ」


「…は、はいっ」


一連のやり取りを呆けた顔で見ていたマリアに声をかけ、急がせる。

レオンハルトの顔がどことなくキラキラしているのは気のせいだろうか。


鞄一つを抱えて走ってきたマリアを連れて屋敷を出た。




帰りは魔法ではなく、馬車を使った。

金のにおいに釣られた男が従者に尾行させているのを知った上で。


悠理の庭へ直接行ける門の近くで馬車を降り、気づいていないフリをして歩いた。


従者には悪いが、このまま庭まで尾けさせて、二度と手出しできない程度に痛い目を見てもらおう。




こうして悠理の傍に、また一人、特別な人間が増えた。

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