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白夜に愛をうたう星  作者: おジョー
23/63

with Lionheart 4

もうひとつ、気づいたことがある。





レオンハルトの部屋がない。



正確に言えば、ないわけではない。

人が住める状態じゃないだけで。

かつては客間として使用したこともあるが、最後に人を泊めたのは何十年前だか思い出せない。

家具も全て買い換えた方がいいだろう。


昨日困らなかったので思いつかなかったが、気づいてしまえば早急になんとかしなくてはならない大問題だった。


「…レオ、昨日はよく眠れた?」


「?はい、とても。あんなによく眠れたのは久しぶりです」


(…まぁ、あったかくなってきて、風邪引く心配もほとんど無いし、暫くはここで一緒に寝るかぁ)


侍女を迎えるなら、彼女の部屋も用意が必要だ。

部屋がないわけではないが以下略。


「明日は片付けだな…」


巣の中でタマゴを抱きしめ遠い目で呟く。

ぶっちゃけあと二、三年なら悠理としては同衾でもいいかと思わないでもないが、情操教育上やはりよくはないだろう。


「レオ、部屋が片付くまではここで寝泊まりになるけど、大丈夫?」


もし無理だと言うなら死ぬ気で片付ける、そして死ぬ気で家具を買いつける。


「…ひとりじゃ、なければ」


「ん?それはまぁ、この部屋に一人で寝かすようなことはないと思うけど」


「それなら大丈夫です、むしろユーリ様の近くで眠れるなら安心します」


悠理とは違う色のタマゴを抱えるレオンハルトがニコッと笑う。


(うーん、かわいい)


その笑顔に許されて甘えてしまいそうだが、叱咤して持ちこたえた。


「……うん、はやめに用意するね、部屋…」



部屋問題が収束したことで、悠理の頭を占めるのは別のことになった。


最後に自分のことを誰かに話したのは、人を泊めたのよりも更に前のことだ。


昼間レオンハルトに見せたのは魔法ではなく女神から与えられた祝福のひとつなのだが、その説明のためにどれくらい前からどこまで話すべきか、悠理は決めかねている。


「うーん…、どっから話したもんか」


腕を組んで唸る。

チラリとレオンハルトを見やれば、好奇心と後悔と罪悪感がないまぜになったような表情をしている。


「教えたくないようなことじゃないから大丈夫、そうだったらそもそも目の前で使ったりしないからね、ただなんていうか、こんなに人が近くにいて、長く話すのが久しぶりだから、緊張してる」


言葉にしてみると情けなくて笑ってしまった。

根暗引きこもりの魔女らしい理由だ。

無口だけが取り柄というわけでもないのだが。


「……レオ?」


返事がない。

レオンハルトは何かを考えているようだ。


「…ユーリ様っ」


意を決したように顔をあげたレオンハルトに、悠理の抱えていたタマゴが取り上げられ、


「…!?」


それまでタマゴがいた場所に、レオンハルトが背を向けてちょこんと座った。


(カラフルタマゴのかわりに黒髪レオンハルトが脚の間で座っている???どういうことなのだ????)


悠理の頭の中は大混乱なのだ。


「れれれれれレオくん??」

「あのっ!僕は、いないものだと思ってください!」


食い気味だがこの存在感で何を言い出すのか。


「僕はタマゴの代わりに、ユーリ様のひとりごとを、盗み聞きさせてもらいます」


薄暗い部屋でもレオンハルトの首筋が赤いのがわかる。

彼も恥ずかしいのだろう、それでも悠理が話しやすいように考えて、行動してくれたのだ。


(……なんだこのいい子)


「レオ、ありがとう、じゃ、お言葉に甘えて」


「…!!」


背中にクッションをはさんでだらりともたれかかり、レオンハルトの小さな身体を抱き寄せる。

やはりいい匂いがする。

猫っ毛で柔らかい髪を指で梳き、いつもタマゴにするように腕を回した。

レオンハルトは悠理の胸を枕にもたれかかっているような状態で、もし悠理の声がまさしく独り言のボリュームだったら、彼の心音でなにも聞こえないくらい、ドキドキしている。


「…明けの明星(ルシフェル)が見える季節の空にしようか」


昨日と同じように更に部屋の明かりを落として、春、ちょうど今のアルテイアと同じ季節の、夜明け前の空を映し出した。

悠理が見た時は春先から夏の終わり頃まで明け方に昇っていた星を、東の空に見つける。


「レオ、見える?あれが金星。私のいた世界では、明けの明星と言われてた。朝を連れてくるひときわ眩しい星は大昔を生きた人にとってまさしく希望の光だったのかもしれないね、私のいた国以外でも沢山の呼び名を持っていて、その中のひとつに、ルシフェルっていうのがあるんだよ」


絵本を朗読するように柔らかな声で語るのは、他の誰でもない、自分の話。






「……と、まぁそんな感じで今に至ると」


ペラペラの短編のつもりが、壮大な長編大作になってしまった。

その間レオンハルトは大人しく頭を撫でられ続けていた。

祝福の話だけならもっと簡単に説明できたはずなのに、つい余計なことまで喋ってしまったのは、きっと悠理も本当はずっと誰かに聞いてもらいたかったのだろう。

良くしてくれた当時の国王にさえ黙っていたというのに。


「…いやぁ、伊達でも100年生きてたら長い話になるもんだね、聞いてくれてありがとう。あ、今更ルシフェル(私)の事なんか知りたがる輩もいないと思うけど、一応これ内緒話ね?」


自身の話で作り出した空気の重さに耐えかねて茶化してみるが、レオンハルトからの反応がない。


「…レオ?」


もしかしてつまらなくて眠ってしまったのだろうか、小さく声をかけると、それまでされるがままだったレオンハルトが突然体ごと悠理に向き直った。


「ユーリ様の代償は…呪いは、とけることはないのでしょうか」


不安にさせたのかと少し申し訳なくなる。


「一応、とけることはとけるらしいんだけどね、まぁもう諦めてるかなぁ」


赤い瞳に希望が灯った。


「方法は、わかるのですか?」


「真実の愛を誓い合う相手とのキス、だってさ」


「…キ……」


強く燃えていたアンタレスが今度は羞恥と戸惑いに揺れる。


「まるでおとぎ話みたいでしょう?でもこんなこと、好きな相手にこそ話せないよねぇ、本当に神様ってやつは無邪気で雑なんだよやることが。この歳まで生きちゃうと尚更ねぇ、こんなばーさんと恋に落ちる相手なんて想像もつかないし」


呪いの存在×実年齢×聖魔女の地位×少女に思われがちな見た目。

マイナス要素が青天井だ。

どんな切羽詰まった相手でも悠理のことは選べないだろうし、悠理自身この先もレオナードより愛せる相手に巡り会えると思っていないので、呪いについての諦めはとうについた。


「大事な人を作らなければ、見送る時も、傷は浅く済むしね」


「…僕も、ですか?」


軽い言葉で繕ってもかえって傷つけそうだ、齟齬のないよう、考えを伝える。


「…どうかな、弟子のことを大事に思わない師はいないだろうからな、けど別れは死だけじゃないし、時の流れは、残酷だけど優しくもあるから」


大事に思っていた人達との別れだって、今思い出してみても当時のように切り裂くような痛みをもたらしたりはしない。


「どうしても離れがたくなったら、レオも魔女にしちゃおうかな」


代償を払って身に余る力を手に入れた男性のことはなんと呼ぶのかわからないので魔女と称したが、もちろん冗談だ。

こんな下らない運命に付き合わせる気など微塵もない。


「……僕は、いっそそれでもかまいませんよ」


「えっ」


冗談だと笑い飛ばす前に返ってきた言葉に驚く。


「ユーリ様が望んでくださるなら、僕は代償を支払ってでも、同じ時間をお傍で過ごします」


子供の絵空事だと軽く聞き流すことなどできない声。

悠理も真摯に答えた。


「…ありがとう。でもレオ、本当に気にしないでね?師弟関係だからって恩を感じる必要もないんだし」


流石にある日突然後ろから刺されたりしたら度し難いとは思うが、自分に縛り付けるために手を差し伸べたわけではない。


「………ユーリ様は、公爵様のことを、異性として想っていたんですよね」


「突然なんだい!?」


当たり前だがそんなことは話していない。

レオンハルトは、悠理の声のトーンがレオナードのことを話す時だけほんの僅かにかわること、髪を撫でる指先と抱きしめている腕が少し強ばることを感じ取っていただけだ。


悠理は100年以上ぶりに突然始まった恋バナが自分の話題で、しかも話す相手が10歳の少年だなんて、予想外が過ぎて思春期を疑うくらい赤面してしまう。


「……いやぁ、まぁ、そりゃね、お世話になったしね、かっこよかったしね、魔法も教えてくれたしね、優しくしてくれたしね…?」


恥ずかしくて人差し指で頬を掻きながら顔を背ける。


「…はぁ…」


呆れているのだろう、ため息をつかれた。


「……いや、ごめん、見苦しいとこを…、忘れてクダサイ…」


悠理だって自分よりかなり歳上の…、例えば世界の狭間で会った女神が重たい身の上話から突然の恋バナでこんな反応をしてきたら、ちょっと、いやだいぶ、イラッとするだろう。


(ひえぇ…つらい…穴があったら入りたい…)


しかしどうやらレオンハルトのため息の理由は違ったらしい。


「ユーリ様」


もう一度名前を呼ばれて、返事をする間もなく、


「…!?」


互いのくちびるが触れた。


「……あと5年で成人します、今はまだなんの力もない子供ですが、貴女の元で強くなります。ユーリ様の呪いは、僕が解きます。だからそれまで、もう少しだけ、待っていてください、僕の魔女」


目尻まで赤く染めながらもその眼差しは真剣で、10歳の少年相手に不覚にも悠理は胸が高鳴るのを止められずにいる。


「…突然キスなんてして、すみません。あの、もう寝ますか?」


熱烈な告白を受けたような気がしたが、今日も隣で眠るなどできるのだろうか。


「………ぇ、あ、そう、そうね、寝る、うん、寝ようか」




100余年を生きてきて、100歳以上年下の少年にファーストキスを掠め取られた魔女は絶対に明日中に部屋を片付けなくてはと決意を新たにタマゴを抱きしめ少年に背を向けて眠りについた。

やってやったぜレオンハルト!!!(大声)

レオは半分以上悠理のせいで拗らせますが、

悠理も悠理で拗らせている…(しかも無自覚)。

あんまりじれじれさせないよう頑張ります…笑


雨の日が続きますが、

少しでも皆様の気分転換になるよう更新していきます。

活動報告に金星のお話を少し書きます(今から)、

是非そちらも暇つぶし程度にご覧くださいませ。

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