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白夜に愛をうたう星  作者: おジョー
22/63

with Lionheart 3

ブクマ、評価などありがとうございます、励みになります!

帰ってから気づいたことがある。




レオンハルトの寝間着を買いそびれている。


(今日も私はあの可愛さと戦うのか…)


昨日はまだよかった。

幼い少年には結構ヘヴィだろう話もあったし、二人の間にもまだ探りあうような空気を感じ取ることができたから。


しかし今日はどうだろう。

一日は穏やかに過ぎ、シリアスの気配は微塵もない。

悠理から見たレオンハルトは、素直で聡明、自分によく懐いた少年。

レオンハルトに至っては既に警戒?なにそれオイシイの?といった感じだ。


(…目覚めよ母性…!!!)


心の中は波風どころではないのだが、そんな悠理を余所に今日もレオンハルトはぶかぶか彼シャツスタイルでバスルームから戻ってきた。


「ユーリ様、お風呂ありがとうございました、…ユーリ様?」


心頭滅却せんと眉間に皺を寄せて机に両肘を立て、組んだ両手を口の前においてサングラスと「勝ったな…」なんてセリフが似合いそうなポーズで瞑想していた悠理が声に気づいて瞼を開くと、


(はい死んだ)


黒髪に滴を湛え、雪のような白肌を薄桃色に染め、甘く柔らかい石鹸の香りをまとったアンタレスが目の前にあった。


「なぁっ!!…っんでもない、よ…!レオ、ごめんね、今日も私の服で…、早く買いに行こうね…!!」


椅子ごとひっくり返りそうなほど仰け反って顔を背ける。


「?はい、ありがとうございます、でも僕はこのままでも大丈夫ですよ?」


(だいじょばない、私が死にかねない、社会的にも)


「……ユーリ様の匂い、落ち着くのになんだかドキドキして、不思議な感じです」


長すぎる袖を鼻にあて、流石に恥ずかしいのか小さな声でそう言って「ふふっ」と笑うレオンハルト。


(殺す気か!!!!!!!!)


悠理のライフはとっくにゼロだ。


唯一愛した人間によく似た美しい少年から向けられる真っ直ぐな好意。

そこに恋情はないとわかっているし、自分にだってそんな気持ちもつもりも毛頭ない。

しかし心は動く。

きっとあんな夢を見てしまったから尚更。


(待って…無理…かわいい…無理…)


「あ、でも、僕が着るとユーリ様の服がなくなっちゃいますね…」


「…それはね、別にいいんだけどね…、どうせまた近いうち街には行かなきゃだろうから、その時に買おうね…」


肩を掴んで背中を向けさせ、髪を乾かしてやる。

同じものを使っているはずなのに、レオンハルトの髪は自分よりもいい匂いのような気がする。





「お待たせ、レオ、ケーキ食べよっか」


悠理も入浴を済ませ、テーブルに買ってきたケーキを並べる。


レオンハルトは悩みに悩んで果物の沢山乗ったタルト、悠理は大きな栗が目を引くモンブランをそれぞれ選んだ。

紅茶は香りの柔らかいものを用意し、好みで使えるようミルクと砂糖も出してある。

食事の時は向かい合ったが、隣に座った。


「レオ、それ下の生地かたいから、食べるの気をつけてね」


果物を支えているクッキーが弾け飛ぶと大変に切ない思いをするので先に注意しておく。

レオンハルトは神妙な面持ちで頷き、ゆっくりと、まずはてっぺんで輝きを放つ苺を一つ取り、口に含んだ。


「…!!!!!!」


聞かなくても見ればわかる、美味いやつだがしかし、一応訊ねる。


「おいしい?」


コクコクと言葉を忘れて何度も首肯するレオンハルト。

年相応の表情を漸く見せた気がして、悠理も幸せな気持ちになった。


「それはよかったよ、いい子にしてたらまた買いに行けるからね」


これはどちらかといえば自分に言い聞かせたに近い。


(こう言っとかないと手放しで甘やかす、その自信が私にはある!!)


全く要らない自信である。


「レオ」


二手目を攻めあぐねているレオンハルトが顔を上げると、


「はい、あーん」


右側に、一口大のモンブランが乗ったフォーク。


「…ぇっ」


「ほらほら、あーん、して?早くしないと落としちゃうよ?」


急いで紅茶を一口飲み、口をあける。


「…ぁー…?」


「ん!…おいしい?」


果物とはまた違った上品な甘さ。

しかし美味しさの理由はきっとそれだけではないのだろう、今度も黙って頷くレオンハルトの耳が赤いことに、悠理は気づかない。


「嫌いな味じゃなくてよかった」


悠理は栗や芋といった秋の味覚が好きだ。

同じものを楽しめそうで安心した。


「…ユーリ様も」


「…えっ」


左から差し出されたフォークにはフルーツ、クリーム、タルト生地と、さっきまでどう食べるか悩んでいたのが嘘のようにキレイに切られた一口分が乗っている。


「あーん、してください?」


無邪気な笑顔の美少年から、無邪気を差し引いたようなレオンハルト。

つまりただの笑顔の美少年だ、それも、タルトのフルーツより艶のある。


(ひぇっ…顔がいい…!)


十歳の少年が醸し出していい色気ではない。


「…ユーリ様、せっかくきれいにとれたのに、落ちちゃいます、あーん、してください」


悠理と同じ言葉で急かされる。


(ひえぇ…!!!)


「……ぁ、あー…」


「ん。……ごめんなさい、ちょっと大きかったですね」


下唇の端についたクリームを親指で拭われた。


「!!!!??」


そしてその親指を舐められた。


「!!!!?!?!」


わけがわからないよ。


「クリームも甘くておいしいんですね」


(……いや待って、今の、クリームつく要素なくない?私どんだけ食べるの下手だよ???えっ、ていうか待って、今のなに?えっ?)


初めてのタルトに心底喜び、「あーん」ひとつで頬を染めた少年は何処へ消えたのか。


「ユーリ様?」


「おいしい、うん、おいしかった、ありがとう、レオ」


今度は悠理が耳どころか首まで染め(させられ)た。


新しい扉は開いてはならないと母性と倫理観をフル稼働させて落ち着こうとする。

この二日間だけで今までの一生分以上に母性さんには頑張っていただいている。

これが企業ならコンプライアンス!と声高に叫ばれていただろう。


「ユーリ様、もしよろしければ、今朝の魔法のこと、聞かせてほしいです」


悠理の頭の中で母性が賃上げのストライキを起こし始める頃、突然現実に引き戻す声がした。


「今朝の魔法?あぁ、カラスの?んー、そうね、いいよ」


レオンハルトには他言する相手もいない、自分のことをいくつか話してもいいだろうと悠理は考えた。

この先成長したレオンハルトが誰かに秘密を洩らす可能性はもちろんあるが、何故か悠理はレオンハルトのことを手放しで信用できると思っている。

レオナードの面影のせいかもしれない。


「それじゃ、また星空を見ようか」


「はい!」


今日は、いつ、どこの空を眺めようか。

無事母性さんがいい仕事をしてくれた悠理は、嬉しそうにタルトを頬張る少年が先程見せた色気まみれの笑顔など忘れたように皿の上のモンブランを頬張ったのだった。

健康診断前夜に書くネタじゃなかったな…って思……。(深夜1時)


健康診断後は甘いものを食べる、絶対にだ。(強い意思)

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