with Lionheart 2
朝食の後片付けを終えて、悠理はミルクティーを飲みながら今日一日の予定を立てた。
レオンハルトを暫く預かる旨を一応でも伝えておくべきだろう、城の中の人間が気にしていないとしても、後から何か言われたら面倒くさい。
悠理の家で生活させるのに必要なものを揃えるために買い物にも行かなくてはならない。
昨日摘み損ねた薬草も今日は採取しておきたいので、この後すぐに終わらせてしまおう。
それから、レオンハルトが言っていた侍女についても情報を集めなくては。
(これは、動物たちに頼むか)
優先順位の高い用事はそれくらいだろうか。
レオンハルトの育成は生活が落ち着いてからでいいだろう。
どうせ何年かそばに置いておくつもりなのだし。
「レオ、着替えたら庭に出るよ、薬草を詰むから手伝って」
「はいっ」
急がせる気はなかったが、レオンハルトはパタパタと走って着替えにいき、パタパタと走って戻ってきた。
(んんんんん、犬かな…かわいい…)
ピコピコと動く耳とフサフサと揺れるしっぽが見える。
紛うことなき幻覚だ。
「昨日は転移したけど、今日は歩くよー、どうせそんな遠い距離でもないしね」
悠理も動きやすい服装に着替え、手を引いて歩く。
まだ少し肌寒いが、陽射しは柔らかく二人を照らしてくれる。
薬草のエリアで摘んで欲しい種類を説明すれば、間違いなく持ってくるレオンハルトを「えらいぞ」と褒めてやり、必要な量を伝えた。
「すぐ戻るから、進めておいてもらってもいい?」
「はい、わかりました」
「おねがいね」と頭を撫でて、悠理はその場を離れ、姿を変えた。
(はぁーーめんどうくさい。けど仕方ない、行くか…)
悠理が転移で向かったのは、アルテイア城の中。
この時間であれば、誰かしらは暇しているだろう。
本来なら約束を取り付けて然るべきだが、腹を立てている悠理にそんなことは関係ない。
(魔女は気まぐれなのさ)
聖魔女という立場はそれを許すものでもある。
誰に何を言わせることもなく、悠理はレオンハルトを預かる権利を手にした。
正論と、少しばかり見せた理不尽な力で。
「おかえりなさい、ユーリ様!」
戻ってきた悠理に気づいたレオンハルトが嬉しそうに声を上げた。
「ただいま、ごめんねレオ、一人で作業させちゃって」
「いえ、楽しかったです」
そう言われて彼の足元を見れば、まもなく言いつけた量に達しそうだ。
「速いね、それに丁寧だ。レオはいい子だなぁ!」
ポンポンと頭を撫でてやると、「えへ…」と嬉しそうに目を眇め擦り寄ってくる。
(かっ…イッヌ…いやにゃんこか…!?かっゎいいなぁ…!!!!)
犬でも猫でもない。
「ふふふ、よくできたご褒美に、魔女の特別な力を見せてあげよう」
「!」
レオンハルトの瞳が期待に輝くのが見えて少し申し訳ない気持ちになる。
「あ、でもごめんね、全然派手な魔法とかじゃないんだけど…」
悠理はレオンハルトから三歩ほど離れるとくるりと背を向けて歌い出した。
「…!!!」
話している時とは違う、よく通る美しい歌声にレオンハルトが聞き惚れていると、二羽のカラスが近くまで飛んでくる。
「おはよう!一つお願いがあるんだけど、頼まれてくれないかな?」
悠理が呼びかけるとカラス達は足元までやってきて、続きを促すように首を傾げた。
「お礼はそうだな、ハニーローストナッツでどう?…ありがとう、きっと街の子達にも協力してもらわないといけないんだけど、この子によくしてくれてた侍女を探して欲しい」
「えっ…」
「見たことある子はいるかな?レオ、マリアの身体的特徴を教えて、髪の色とか、瞳の色とか」
「…えと…、マリアは、赤っぽい茶髪で、瞳の色は小麦色で…、左手に、火傷の跡があると思います…」
辛そうに目を伏せたのを見るに、おそらくそれがレオンハルトの治せなかった傷なのだろう。
「……カラス達、彼女が見つかったら教えてくれるかな?恐らく城下町、そんなにいい暮らしはしてないと思う」
一つ、了承したと言うように鳴いて、カラスが飛び立つ。
「よろしくね!」と声をかければ空からまた鳴き声が返ってきた。
彼らに任せておけば安心だろう、人を捜すなら一番向いている。
次点でネズミ、あとは猫くらいか。
カラスを見送ってレオンハルトを振り返ると、興奮した様子で賞賛される。
「……すごいです、ユーリ様、すごいです!!」
悠理はレオンハルトに近づき頭に手を乗せた。
今度はできる限り優しくなるよう意識して。
「レオ、彼女のこと、教えてくれてありがとう」
火傷の跡は大きな目印になるだろうが、辛いことを言わせてしまった。
「…っ、いえ、お礼を言うのは、僕の方です、ユーリ様、ありがとうございます、僕だけじゃなくて、マリアのことまで気にしていただけるなんて…」
マリアという侍女がいなければ、レオンハルトの精神状態はもっと悪かっただろう。
傷つけられても少年の心を守った女性ならば、自分のテリトリーに入れることもやぶさかではない。
「そろそろ侍女をつけようかと思ってたとこだから気にしないで、どうせなら顔見知りの方がいいじゃない?」
乗せていた手をワシワシと動かす。
陽射しを受けた柔らかな黒髪が温かかった。
「さて、レオのおかげでお庭のことも早く終わったし、一度家に帰って、買い物へでかけよう!」
街へ出た二人はいくつか店を見て歩いた。
買った服にその場で着替えさせ、それまでレオンハルトが着ていたものは店の者に捨てさせた。
他に既製品は二着買い、後は全て作ってもらうことにする。
昨日の今日なので子供にしては不自然な細さは仕方ないが、すぐ健康的な体型になるのを見越してやや大きめに採寸させた。
新品の服に袖を通したレオンハルトは「少しからだの弱い貴族令息です」と十人に紹介すればほぼ全員が疑わないだろうなといったところだ。
(なるほど姿勢がいい、そして顔がいい)
最初こそ雰囲気に気圧されていたようだが、悠理が「よく見たいからまっすぐ立って?」と言えばシャンと背筋を伸ばし顎を引いて美しい立ち姿を見せた。
これも恐らく侍女のおかげだろう、まだ見ぬマリアに悠理は心の中で礼を唱えた。
靴も同じく一足だけ買ってその場で替えた。
残りは出来上がり次第、使いに取りにこさせると言いつけたので、今日持ち帰る荷物は今のところ二着の服だけだ。
「食器どうしようかなぁ…、重いしな…」
今の姿で住所を知られるわけにはいかないので配達はなしだ。
「僕持ちますよ?」
「いや、今度でいいよ、とりあえず今ある分で事足りるし」
(だからきみはそのまま大事そうに服を抱えてちょこちょこついてきてくれ)
そう、先程から隣を歩くレオンハルトは悠理の買い与えた服を両手で胸の前に抱え、中身を気にするように時折ソワソワと袋を見ては悠理との距離が空いたことにハッとして小走りで追いついてくる、というのを繰り返している。
袋の中身は試着しているのでわかっているにも関わらず。
その姿が余りに可愛く思えて、レオンハルトの歩くスピードが遅くなっても速さをかえなかった悠理が、ふと足を止めた。
「…レオ、甘いものは好き?」
「はい、多分…?」
返事が曖昧なのは、悠理の視線の先にある物をレオンハルトは食べたことがないからだ。
「よし、それじゃ、カラス達へのお礼にハチミツも要るし、買って帰ろう!」
ついでに紅茶の葉も何種類か買い足しておくことにした。
何が好きで、どんなことが嫌なのか、レオンハルトにはちゃんと彼自身を知っていってほしいと悠理は思う。
紅茶やお菓子の好みは些細なことだが、魔法の使い方や生きる術だけでなく、感情を教え、育てていきたいのだ。
予定通り蜂蜜と紅茶、レオンハルトがガラス越しに見惚れていたケーキと、巣で食べやすいチョコレートを買って帰路に着いた。
しばらく平和でいてほしい(願望)




