閑話ーside Leonard
本編、「Once upon a time 10」のネタバレ?を含みます、未読の方はお気をつけください。
初めてこんな感情をきみに抱いたのはね。
僕はどちらかと言えば女性が苦手だ。
そこそこ整っていると言えるだろう見た目に、現国王の兄であり公爵という地位、そうでなければ筆頭魔法使いであったかもしれない魔力量と適応属性数。
そんな僕に向けられる目は、恋慕だなんて可愛らしいものじゃなく、ギラギラと野心に満ちた獣のようなものばかりで、恐怖すら抱いた。
女神の使徒を名乗る女性が言うには、ユーリは僕に幸せをもたらしてくれるらしい。
半信半疑どころか、最初に使徒の話を聞いた時には捨ておこうとさえ思っていた。
その女性の口調が余りにも軽かったっていうのも、原因のひとつなんだけど。
迷った挙句、その日の予定を変更してでも僕は言われた場所へ向かった。
結果として、恋を知った。
ユーリは僕の腕に落ちてきた?降ってきた?時から三日間、眠り続けていた。
目を覚ましたと聞いて、すぐに視察を切り上げ帰路についた。
単純に、彼女に興味があったから。
こんなにも幼い子供が、何故女神に出会い、僕の元へきたのだろうかと。
初めて見た瞳は髪と同じ黒色。
可愛らしい顔立ち。
返事がぎこちなかったのは最初だけで、しっかりと考えて発言してくる。
彼女への好奇心が膨れ上がるのがわかった。
手元に置いておいてもいいかもしれない、幸せをもたらすかどうかは本人も言った通りわからないけど、害にはならないだろう。
そう感じたのには、僕と話していてもユーリの目がギラギラしないことが大きかった。
いたずらに距離を縮めてみれば頬を上気させはしたものの、瞳や表情からは戸惑いと警戒がありありと見て取れる。
身分を明かした時も興奮するでもなく、むしろどちらかと言えば元々無理に貼り付けていたような笑顔がさらに引きつったのがわかって、扉をしめるまで笑いを堪えるのが大変だった。
ユーリにおかえりなさいと言われて、胸の辺りがくすぐったいような、でも焼け付くほど熱いような、不思議な気持ちになった。
年齢を聞いて驚いたけど、自分との歳の差を考えて「なら大丈夫かな」と思った自分にはもっと驚いた。
侍女のマリーが言う通り、ユーリはとても美味しそうに食事をする。
見ているこちらが気持ちよくなるくらい。
マナーがなっていないなんてこともなく、これからは彼女と食事をとるために早く仕事を切り上げる日を増やそうと思った。
可愛い妹が出来たようで嬉しかった。
血の繋がった妹はいるにはいるけど、テオ以外の兄弟とはあまり近づきすぎないようにしているし、外見も似ていない。
僕はすっかり他の女性に抱くような警戒心をユーリに対しては持たなくてもいいんだと安心して、ますますユーリを手離したくないなと思った。
どうすればこの子の気を引いておけるだろう?
そんな初歩的なこともわからず、酒を飲みながら子供のような質問を重ねた。
ユーリは呆れるでもなく、真面目に答えを返してきて、それにも好感が持てた。
半年先の誕生日を一緒に祝おうと言ってみたり、
大事そうに触れる耳飾りはお祖母様の形見だと知って何故か安心したり、
兄だと思ってほしいなんて言いながら甘えたりした。
楽しそうにピアノを弾いて歌うユーリは幼くなんて見えず、むしろ色気すら感じて驚いたけれど、褒められて照れくさそうに笑うユーリはやっぱり小さな女の子のようだった。
自覚がないだけで、僕はとっくに彼女に恋をしていたんだと思う。
チョロすぎるでしょう公爵。と思うけど、仕方がない。
だから手のひらを合わせるだけでも充分なのに、魔力を流す際は指を絡めてみたりもした。
ユーリの反応が可愛くてたまらなかった。
守ってやらなきゃと思っていたら、頭を撫でていた。
自覚をしたのは、そのすぐあと。
国王陛下に報告の義務があると話したらユーリの肩が強ばったので、安心させたくて「一緒に帰ってこよう」と言ってみた。
その時のユーリの笑顔に、僕は完全にやられてしまった。
テオはきっと優秀な魔法使いを手元に置きたがるだろうけど、そんなこと絶対にさせない、そう決めた。
それからは、出来るだけ毎日早く仕事を終わらせて長い時間をユーリと過ごすようにした。
恋は人をダメにすると聞いたことがあるけど僕には当てはまらなかったみたいで、マリー達が驚いていたっけ。
驚きといえば、王城へ出向いた時の城の人間達が面白かったな。
この歳まで結婚していないどころか婚約者もいない公爵の心は国王陛下の元にあって、二人は禁断の愛を育んでいるのでは?なんて噂もある僕が、見たことも無い女性を連れて登城したんだからそれは驚きもするだろう。
研究所では足の踏み場もないのをいいことに手を繋いだりした。
魔力測定の説明を受けて少し不安気なユーリが可愛くてちょっとからかいたくなり、後ろから抱きしめるように立ったり、滑らかで細い手を撫でたりもした。
赤く染まる耳や首筋が見えて、その場で唇を寄せて味わってしまいたくなった。
なんて可愛いんだろう。
一度意識してしまえば、妹として見るなんてこと出来るはずもない。
帰りの馬車でこれからユーリが淑女として生きていけるよう、家庭教師の話をした。
ユーリはきっと妹として生きるためにそう言われたと思っていたけど、僕はいずれフォルティナ公爵夫人として迎え入れるつもりだ。
今はまだ気づかなくていい。
ユーリが逃げられないようになる頃には、きっと僕のことも好きになってくれてるだろう。
反応を見る限り脈アリっぽいし。
使える武器はなんだって使うさ、地位も、頭脳も、この見た目も、ね。
そんな僕の狡さを責めるように、戦争が、そしてユーリの徴兵が決まった。
苦い顔でそれを告げるテオに若干の殺意が沸いたけど、臣下としては国王がユーリの力を求めるのは当然と言えるし、それ以上駄々を捏ねたりはしなかった。
初めて会った時から賢い子だとは思っていたけど、ユーリは本当に聡明だった。
自分の活かされ方を知っている。
そんな彼女を素晴らしいと思う、けれど、もっと感情を見せて欲しいとも思う。
きっとユーリがかなわないと知りつつも行きたくないと縋ってきたら、すぐさま僕はこの想いを告げてプロポーズしただろう。
帰ってきたら結婚式を挙げようと囁いて彼女の肩を抱き、背中を擦り、薬指に口付けて、ユーリの返事によってはそのまま全てを奪っていたと思う。
そんなことには、ならなかったわけだけど。
ユーリ自身の意思で出征を決めた以上、 残される僕に出来るのは全力でサポートすることだけだ。
王都へ向かう道中、帰ってくるまではフォルティナを名乗るよう伝えた。
ユーリはどうしても年齢より幼く見えるし、鍛え上げているわけでも、魔法に傾倒して身だしなみを疎かにしているわけでもない。
黙って立っていればその辺の貴族令嬢とかわりなく見えるので、失礼なことを言われたり無礼を働かれることのないよう、先手をうつ必要があった。
それだけじゃ、ないけどね。
むしろ、小娘と侮ってくれているうちはいい。
ユーリは多少なりとも嫌な思いをするかもしれないが、そんなのは実力を見せてしまえば一掃できる。
問題はその後だ。
兵団に所属する奴らは、強さと魅力がイコールで繋がっている者も多い。
そんな中にとんでもなく可愛くてすごく強いユーリを一人で放り込むなんて、蜂蜜の巣箱を森に置いておくのと同じじゃないか。
ユーリには片方の理由だけ説明した。
帰ってきたらどっちみちフォルティナ姓になるんだし、嘘をつかせるわけでもない、これくらいの虫除けはさせてもらわないとね。
ついでに、「君らが興味や恋情を抱いたとして、敵になるのは僕だからね」っていうのを知らしめるため、ユーリの挨拶に付き合った。
僕ってもっと人に対してあっさりしてると思ってたけど、全然そんなことなかったな。
出立の日が近づくにつれ、ユーリはどんどん忙しくなった。
聞けば、後衛支援の隊以外も面倒を見ているらしい。
それどころか、今回の戦いにおいて参謀のような役も与えられているらしく、少しでも長く傍にいるために着いてきた僕は暇を持て余し、潰しようのない時間は会えないことへの苛立ちをいっそう募らせた。
「テオ?最近ユーリと全然ゆっくり過ごせないんだけど、このままじゃお前、国内にも怖い敵つくるよ?」
「兄上…勘弁してくださいよ…、いや、すみません、原因の一端は私にもありますごめんなさい、その笑顔ホントにやめて」
王都を発つ前日は必ずユーリを早く帰すことを約束させた。
そうして迎えた出発前夜。
僕用のアルコールとユーリの飲み物を運ばせて部屋を訪ねた。
少し驚いた顔をしたものの、躊躇なく中へ通してくれる。
きっと僕だけに許しているであろうその無防備さが愛おしくてたまらない。
やっとユーリとゆっくり話せることも嬉しくてつい隣に腰掛けてしまったけど、これはこれで、僕の理性が試されるな…。
座った瞬間にユーリが硬直したのには当然気づいた。
「緊張してる?」
何にとは限定せずに聞けば、ユーリはお前のせいだとでも言いたげに一瞬僕を睨む。
そんな顔も可愛くて仕方ない、どんな表情も見逃さないよう一生腕の中から離さずいたいのに、明日からは会えもしないなんて。
ユーリは未だ僕の言動が無自覚だと思っているので、僕のせいで緊張しているなんてことは言わない。
代わりに、他の誰にも言えないだろう不安を吐き出してくれた。
それが嬉しくて、何枚ものオブラートに包んでプロポーズした。
気づいて欲しい、まだ知られてはならない、僕の想い。
このままここにいたら、ごまかせなくなりそうで、僕は席を立って、息を飲んだ。
無意識だったんだろう、服の裾を掴んでいたユーリが慌てて手を離して見送ろうと立ち上がる。
あぁ、もうダメかもしれない。
僕はついに堪えきれず、ユーリを抱きしめた。
細くて柔らかい、それに甘くていい匂いがする。
ユーリの戸惑った声で我に返った。
なんと言えば、気づかずに、気にしてくれる?
僕に執着してくれれば、生きて帰ってくれる理由が増えるだろう。
けれど今全てを告げる訳にはいかない、返事を急がせるのも心を置いていかせるのも本意じゃない。
子供をあやすように頭を撫でれば、拗ねたように唇を尖らせる。
少し屈めば、その唇に触れられる。
劣情にも近い衝動が沸き上がる。
これくらいなら、許して貰えないだろうかと、額に口付けた。
祈りと願いを込めて、ということにしておこう。
大丈夫だとは思っていたけど、嫌がられていないか確認すれば、ユーリは顔を真っ赤にして固まっている。
それがまた愛おしくて、僕は我慢できずに就寝の挨拶として、もう一度ユーリの愛らしい額にキスをした。
自室に戻り、幸福と自己嫌悪に苛まれた。
「なにをしているんだ、僕は…」
ベッドに身を投げ、片手で顔を覆う。
ユーリは眠れるだろうか。
明日からも元気に笑っていられるだろうか。
何一つ失うことなく、僕の元へ帰ってきてくれるだろうか。
彼女が戻るまでに、求婚の準備をしよう。
承諾してくれたなら、誰かに邪魔される前にすぐ式を挙げよう。
ユーリの黒髪は、ウェディングドレスにさぞ映えることだろう。
そうして神の御前で、今度はちゃんと唇にキスをしよう。
「ユーリ…、僕の大事な人…、愛してるよ…だからどうか…、無事に帰ってきてくれ…」
その美しい手を無数の血に染めてでも。
そうして僕は、眠れない夜を過ごした。
こんな感情を君に抱いたのはね、ユーリ。
きっと、初めて出会ったその時。
僕はまるで運命のように、きみに惹かれていたんだよ…。
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