once upon a time 9
王城へ出向いてから暫くして、悠理には新しく四人の家庭教師がついた。
ダンスの教師、
マナーの教師、
水、風魔法の教師、
闇魔法の教師が、日替わりだ。
火と光の魔法は、レオナードがみてくれるらしい。
曰く、「本当は風の魔法も僕がみてあげたいんだけどね、それだと他の属性と同じ速度で習得しようと思ったらとんでもなくスパルタになっちゃうから」とのことだった。
なんでもないことのように言われたが、王族でも得意属性を三つ以上持つ者は滅多にいない。
加えてレオナードは攻撃も回復も使えるという。
(顔がいい、血筋がいい、性格がいい、魔法スキル高い…チートじゃん…ほんとにこの人が王位簒奪を目論んでなくてよかったな…!?)
改めてレオナードのもつスペックの高さに目をむいていると、悠理の考えていることがわかるのか、
「僕は魔法はかなり使えるけど、剣術はイマイチだからね、本気で兄弟喧嘩したらテオの方が強いんじゃないかなぁ?どっちかと言うと戦略込みで勝ちに行くタイプなんだ」
と少年のように笑った。
余計怖くなった。
測定後詳しく聞いたところによると、悠理は全属性に適応しているものの、突出して得意なものはない。
よく言えばオールラウンダー、雑に言えば器用貧乏といったところだ。
それぞれの教師も個性豊かで学ぶ時間も楽しく、また一人の時間にはピアノを弾いたり属性魔法以外のトレーニングをしたりと、毎日が充実していた。
最近では歌うことで対象に効果を付与できることにも気づいた。
魔力を込めれば、いつまでも明るい空の先に星を見つけることもできるようになった。
天気だけは未だに試したことがないので未知数だが、使い方の理屈は理解出来ているように思う。
この世界にもだいぶ慣れたが、唯一、レオナードの距離の近さと飲酒時のしどけなさだけはこの先もスルーできる気がしない。
レオナードからしてみれば悠理は本当に妹のように見えていて、だからこそあの距離の近さなのだろうとわかってはいても、どうしたってドキドキしてしまう。
特に酒が入ると、レオナードは少し甘えてくるようになった。
その度に悠理は舞い上がり、部屋で一人で落ち込む。
実はレオナードも距離の近さは充分に自覚していて、自分から兄だと思えと言った手前、急に攻め込むわけにもいかず、如何に悠理に男性として意識させるかを考えて動いているが、そんなこと恋愛初心者の悠理にわかるはずもない。
そんな風にして概ね穏やかに数ヶ月を過ごしていたが、最近レオナードの帰りが遅いことが増えた。
王都へもよく出向いていて、何日か屋敷を空けることさえある。
雨の晩だった。
久しぶりに早く帰ったレオナードと一緒に食事をとれるというのに、流れる空気が重い気がする。
「前からどうにもきな臭いとは思っていたんだけどね。我が国は喧嘩を売られたようだよ」
感情の薄い声が、静かな食堂にやけに大きく響いた。
喧嘩を売られたというのはつまり、宣戦布告を受けたと。
戦争が、始まる。
「全く、あれだけ肥沃な大地に恵まれてて、こんな自然の厳しい国に何を求めるっていうんだろうねぇ」
レオナードは明るく話しているが、いつもと違う笑顔を貼り付けている。
悠理と目を合わせることも避けているように見える。
些細な違和感に気づいてしまえるほど、悠理は彼のことを想っているし、見ている。
もしかして、と思う。
「私、は…」
静かに置いたつもりのカトラリーが、カチャンと音を立てた。
「……本当に、ユーリは賢い子だね、こんな時まで聡くなくていいのに」
レオナードの眉間に皺がよる。
その渋面は以前国王が見せたものとよく似ていた。
「兄弟喧嘩一歩手前まで粘ったんだけどね、ユーリのその力は、ここを使い所にしないわけにはいかないみたいだ…」
自嘲の笑みを浮かべるレオナードに、なんと返すのが正解なのかわからない。
「そう、ですよね」
返事というより独り言のように呟くことしかできなかった。
戦争なんて、歴史の教科書や、漫画や映画、ゲームの世界でしか知らない。
沢山の命を乗せたやりとり。
(私が死ぬことはないんだけどね…)
「…いつ、どこへ向かえば」
「………」
まさか、宣戦布告を受けて昨日の今日というわけでもないだろう。
「レオナード様?」
「……三週間後…、王都の南門から出立する予定になっているはずだ」
三週間。
する事は山のようにある。
相手の国の情報を叩き込むのはもちろん、味方となる人達との交流も必要だろう。
使える魔法もできる限り増やしておきたい。
もしかしたら、祝福の力も必要になるかもしれない。
「…出来るだけ早く王都に向かいたいのですが、可能ですか?」
「ユーリ」
嘆いている時間はない。
ゲームですら事前の準備が大事だったのだから、現実ならもっと大事なハズだ。
「レオナード様、私は大丈夫です。出来るだけ早く、この力を持て余せるようにしますよ」
不安もある、恐怖もある。
けれどこの世界でこの力を与えられて、活かせる場所にいるのなら、怯えて甘えて隠れる自分なんて許せない。
そこへ向かうのは、諦めたからじゃない。
「…どうやら甘えてるのは、僕だけみたいだね、今夜のうちにでも王城へ連絡するから、いつでも行けるようにしておいて」
「はい、ありがとうございます。……あの、一応伺いますけど、最前線てことは、ないですよね?」
ありえないとは思うが、念の為確認をしてみる。
「もちろんだよ!!!ユーリを前線に送るなんて言われたら、それこそ僕がその場で王になりかねない」
「ふふ、よかったです、レオナード様が公爵様のまま帰ってきて」
軽口を叩きあって、漸く少し空気が柔らかくなった。
(時間はないけど、もう少し、もう少しだけ、この幸せに浸ってたいな…)
レオナードも同じことを考えていて、その夜はいつも以上にゆっくりと食事を味わい、会話を楽しんだ。
それから二日経って、悠理は王都にいる。
レオナードの屋敷を使わせてもらうつもりだったが、なんと王城で過ごすことになっていて驚いた。
しかし考えてみれば、同じ隊に配された魔法使い達とも前線を任された兵達とも顔を合わせるには一番労力がかからない上に、他の国を調べるのに城内の図書室は最適な場所だと気づいたので、恐らくレオナードの好意であるし、甘えることにした。
(それより驚くこともあったしね!!!)
王都での破格ともいえる待遇より悠理を驚かせたこと、それは、
「初めましての人も多いかな?僕はレオナード・アルティア・フォルティナ公爵、こちらがユーリ・フォルティナ。幼く見えるかもしれないけど、れっきとした成人女性だから、みんな、よろしくね」
「……はっ!!!」
レオナードが王都まで一緒に来て、さらに悠理を兵達に紹介することだった。
(レオナード様、笑顔の圧が強い)
養子縁組をしたわけでもない悠理がフォルティナ姓を名乗ることは予め聞いていたが、公爵直々に挨拶に出向くのは想定していなかった。
「フォルティナ姓を名乗れば、僕の家族だとわかるからね、悠理の可愛らしい見た目だけで判断して失礼なこと言われたりされたりする心配もぐっと減るから」
もちろんレオナードの目論見はそれだけではない。
今の悠理なら、最初こそ侮られても実力を少し見せてやるだけで誰も何も言わなくなるのはわかっている。
それでもフォルティナと名乗らせるのは、暗に「手を出すなよ」と、戦地で生活と苦楽を共にするであろう男達へ牽制するためだ。
悠理が本来の目的に気付かないことは残念だったが、同時に安堵している自分に気づいてつい笑ってしまった。
レオナードは、自分がこんなにも狡くて臆病だと、初めて知ったのだった。
「…ご紹介に預かりました、ユーリ・フォルティナと申します、よろしくお願いします」
貴族だとかそうでないとかは、軍の中では関係ない、悠理は紛うことなき新兵なので失礼のないよう、レオナードのかけた圧が少しでも和らぐよう、丁寧に挨拶をした。
FPSもTPSも戦略系シミュレーションも苦手なんですけど頑張って書いていこうなって気持ち。
二話くらいで終わりたいと思ってる。




