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白夜に愛をうたう星  作者: おジョー
16/63

once upon a time 8



「と、いうわけで、この子がユーリ。女神様の使徒がいうには、僕を幸せにしてくれる女の子だよ、テオ」


ふっかふかのソファで右側に座るレオナードに、ニッコニコと紹介された。


「………兄上…」


レオナードの対面に座りテオと呼ばれた若く麗しい王は眉間に人差し指をあてて、ため息を隠そうともしない。

隣に座らされている悠理はといえば、どんな感情でいればいいのかわからず(似てないけどキレイな顔だなぁ王様も…)などと現実逃避に走るしかなかった。


「魔力があって、というかセンスはとてもいいと思うんだけど、属性はわからないので調べてあげてくれないかな?」


この謁見が公式ではないとはいえ、少々くだけすぎているような気もするが、二人は兄弟なのだしこんなものなのだろうか。


「待ってください兄上、全く理解が追いつかない」


部屋中に流れる戸惑いや疑惑の空気なんて何処吹く風で話を続けるレオナードに国王からストップがかかる。


「僕も最初はなんだそれと思ってたんだけどね、仕方ないよね、言われた通りにその場所へ足を向けたら狙ったようなタイミングでこんな可愛い女の子が降ってきたんだもん、信じるしかないじゃない?しかもその時ユーリは気を失っていたんだ、あのまま放っておいたら確実に獣か魔物の餌だったよ?」


女神に転移させるよ!と言われていて、目覚めた初日にレオナードから同じ説明を受けた悠理ですらやっぱり意味がわからないな…と思う。


「彼女が降ってきた?時の状況はわかりました、しかし、兄上の手元に置いておく必要はないでしょう…」


「テオ、右も左も分からない状態の未成年を放りだせって言うの?」


レオナードはわざわざ良心を刺激する言葉を選んでいるようだが、国王の言うことは最もである。

しかも悠理はこの世界では成人している年齢だし、多少の嘘をついてでも言いくるめにかかっているのがみてとれる。


「そういうわけではありません、しかし、この者の素性が明らかでない、本当に人間かどうかもわからないのですよ?」


未成年かどうかは疑問に思わないんだな…、わかっていてもなんだか悔しい気持ちになる。


「ユーリが魔物かもって?それはないよ」


キッパリと否定するレオナード。

確かに、女神にはこの世界で魔女として生きると言われたが、魔物になるとは言われなかった。

違いはよくわからないが、魔法使い=魔女であるなら、魔物でないのは明らかだ。

だがそれは悠理しか知らないことで、ここまでハッキリ否定する根拠はないはずだ。


「ユーリが目覚めた日に確認しないと思ってる?やだなぁ、伊達でも公爵位だよ?」


そんな覚えはないのだが、なにかされたのだろうか。


「ユーリ、うちで入ったお風呂覚えてる?」


とてもいい香りだったのを思い出し、コクリと頷く。


「黙っていてごめんね、あれに、魔除けのハーブが沢山入ってたんだ、あれに魔物が浸かると、皮膚がただれたり、弱いものだとそのまま消滅したりする」


なんということでしょう。

きっちりしっかり疑われていた。


「ごめんね、一応これでも国の重鎮と言われてるから、流石に手放しで迎え入れるわけにはいかなかったんだ」


「あっ、いえ、いえ。それはもう、そうだと思います、むしろ話していただいてありがとうございます」


手を振って気にしていないと伝える。


「…魔物でないことはわかりました、しかし、腹になにか抱えていないとは言えないでしょう」


「……テオ」


ヒヤリとするような声に驚いて隣を見ると、相変わらずキレイな笑顔がそこにはあった。

が、悠理には見せたことのないものだ。


「テオが心配してるのは僕の身?それとも、きみの?腹になにか抱えてるのは、ユーリのこと?それとも、僕のことを言いたいのかな?」


ガーネットの瞳に仄暗い光が灯ったように見えた。


「なっ…、私は、ただ兄上のことを心配して…!」


「うんうん、そうだよね、ありがとう、でもひどいな、僕の人を見る目を疑うのかい?」


悠理を紹介した時と同じく、いやそれ以上にニッコニコとしているし、口調だっていつもと変わらないのに、そこに普段の穏やかさは全く感じられない。


(……ぅっわ、レオナード様えげつな…こわ…)


「例えユーリが魔物や魔女だとしても、僕が王位を欲しいと思っていたとしても、彼女の手は借りないでやり遂げるよ、それくらい、賢いお前にはわかるだろう?」


やり遂げる。

それはつまり、現国王陛下よりも、レオナードの力が上だということだ。

それこそ、腹に一物ある人間が聞いたら国が揺らぐような言葉を、笑顔で口にするレオナード。


(……それは…、出しゃばったらうるさいでしょうね、色んな方が…)


鋭利な刃物のような笑顔と言葉を同時に向けられている国王に若干同情したところで、悠理ははた、と気づく。


ー例えユーリが魔物や魔女だとしても…


この状況に口を挟むのは大層勇気がいるが、知らずにいる方が自分にとってよくないだろうと思い直し、悠理はおずおずと口を開いた。


「あの…、お取り込み中すみません…魔女は、魔法使いとは違うんですか?」


「そうだね、簡単に言えば、魔法使いはその身に余る魔法を使うことはできない。魔女っていうのは、それ以上の力を、代償を払って手に入れた者のことだ」


怖くない笑顔を向けられて説明を受ける。


代償。

だから女神は、悠理に魔女として生きる、と言ったのだ。

それはもちろん、植え付けられた呪いのことだろう。


「過ぎたる力は、人の心と身体を蝕み、やがて大きな争いや災いを呼び込むことが多いんだ、だから、魔女には国から監視がつく、やたらとその力を行使できないようにね」


魔物と違って、命を狙われるわけではないらしい。

殺しはしないのかと問いかければ、


「裁判はある。しかしその力を欲した理由や、支払った代償によっては情状酌量の余地が認められ、監視はつくがそれまでと変わらない生活を営む者も中にはいる」


厄介なことに変わりはないがな、と答えを返してきたのは国王だ。


「そうなんですね、お答えいただきありがとうございます」


祝福や呪いについては黙っておくことに決めた。


「…で、テオはユーリをどうするんだい?」


向き直ったレオナードはまたあの笑顔だ。

イケメンの冷たい笑顔は怖いとか、本を読んでいた時は「そんなまさか」と思っていたが、本当らしい、自分に向けられたらと想像するだけで胃痛がしそうだ。


「………どうするもこうするも、俺に決定権はないのでしょう、兄上に任せますよ…、ただし、なにかあれば、国が動くことをくれぐれも忘れないでくださいね?」


長く重い溜息をつきながら両手の指でこめかみをグリグリする弟。


「ふふ、ありがとうテオ、それと、言葉遣いが崩れているよ」


満足気な笑顔で些細な指摘をする兄。


「だれのせいだと…いえ、なんでもありません…、魔力測定は今日このまま行っていくように予定してかまいませんね?」


「僕のせいだね、ふふ、本当にありがとう、感謝するよ。そうだね、ユーリが疲れていなければ、このままお願いしたいな」


兄弟っていいなぁ、と眺めていたら完全にいつもの穏やかさを宿した瞳のレオナードに聞かれたので否やはないと答えておいた。

先程までの不穏な空気で気疲れしたのは内緒だ。






「ユーリ、力を抜いて、そう、いい子だ、相変わらず上手だね」


(レオナード様、言い方、ねぇ、言い方!!!!!)


レオナードは悠理を後ろから抱きしめるように立ち、耳元で勘違いしかねない言葉を囁いている。

この距離や言葉を誰も気にしていないところを見ると、自分の心が穢れているだけなのかとも思うが、近いものは近いし気になるものは気になる。



王の私的な談話室を出た二人は護衛に付き添われて王宮の別棟へと来ていた。


石造りの堅牢そうな建物にはドアが一つあるだけで、巨大な石窯のようだ。

中に入るとどうやらそこは魔法の研究施設らしく、どちらかと言えば不健康そうに見える人達が机に張り付いていたり紙の束を抱えて走り回ったりしている。

床に落ちたものを踏まないように彼らの間を突っ切って奥の扉をくぐると、だだっ広い空間、黒いローブをまとった性別不詳の三人、そしてその中央に水晶のような何かが置かれていた。

どうやらそれが魔力の測定器らしく、手をかざし魔力を流すよう促されたので説明の通りにやってみようとしたところ、何故かレオナードもすぐ後ろについてきて、こうなっている。


「ユーリ、昨日みたいに手のひらに集中して?」


手の甲をするりと撫でられ焦る。


(緊張も集中できないのも主にっていうか100パーセントあなたのせいですけどね!?!?)


ぐっと目を閉じ、レオナードの気配を感じないよう、手のひらだけに意識を向ける。

以前中庭で教えてもらった時のことを思い出し、水晶に魔力を流すようイメージ。


「これは…!!」


ざわめきが起こる。

聞こえた声からして、ローブの三人はどうやら男性のようだ。


「ん、もういいよ、お疲れ様、ユーリ」


かざしていた手を握られ頭を撫でられる。


なにかよくないものが映ったのだろうか?不安に思って振り向くと、やはり顔が近い。そして顔がいい。


「ユーリはやっぱりすごいね、全部の属性が使えるみたいだよ、攻撃も回復も、どちらもね」


もしこれが祝福の影響だとしたら、やはり過多なのでは…。と、先程とは違う不安を抱いたが、そうなってしまったものはもう仕方がないと割り切ることにした。




王都からの帰り道、馬車の中でレオナードは悠理のこれからについて話してくれた。


「魔法の家庭教師が少なくとも二人は必要かな…、それから、淑女として困らないだけのマナーや、ダンスも教えていきたいんだけど、いいかな?」


本当に悠理を縁戚として迎え入れるつもりらしい。


「はい、レオナード様にとってご迷惑でなければ、是非」


悠理としても、既にレオナードへの警戒心などなくなっていたし、女神の使徒の言葉が本当ならば、レオナードのそばで彼を幸せにしたいと思い始めていたので、提案には二つ返事で頷いた。


「よかった、改めて、これから末永くよろしくね、ユーリ」


「はい、よろしくお願いいたします、レオナード様」


まるで新婚のような言葉を交わしながら、領へ戻る二人なのだった。

もうお前ら結婚しろよ…(メインストーリー始まらずに終わる)

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