once upon a time 6
「おはよう、ユーリ」
「おはようございます、レオナード様」
食堂へ行くと既に朝食を終えてコーヒーを飲んでいるレオナードがいた。
昨日の無防備な姿が嘘のように、今朝の彼は隙のないイケメンである。
「今日は何をする予定だい?」
席に着くとすぐに温かい皿が運ばれてくる、実においしそうだ。
「昼食までは書斎で本を読もうかと思っています、昨日読み切れなかった、魔法の基礎知識が書かれているものを読み切ってしまいたくて」
ふわふわとろとろのオムレツをこぼさないよう口に運ぶ。美味しいくて口元が緩んでしまう。
「それで、読み終わったら魔法を試してみたいんですが、敷地内にどこかそういった場所はありますか?」
「ないこともないけど、一人で行うのは感心しないなぁ…あぁ、では、僕が早く帰ってきて付き合うよ、幸い今は夜でも明るいし、僕も剣より魔法の方が得意だし、基礎くらいなら僕でもみてあげられるよ」
自分のために迷惑をかけるわけには、と悠理が口を開こうとしたが、
「早く帰れる口実ができたよ、ありがとう、ユーリ」
パチリとウィンクをされてしまった。
こうかはばつぐんだ。
完敗である。
「ぐっ…ぅ…よろしくお願いします…」
「うん、出来るだけ早く帰るから、いい子で待っていてね」
さて、悠理が読んだ「魔法の基礎知識と初級魔法」という本によれば、
この世界の魔法属性は「火、水、風、光、闇」であることがわかった。
治癒だとか回復系魔法に独立した属性はなく、五つの属性それぞれに、攻撃と回復それぞれの魔法があるようだ。
火の属性持ちなら攻撃も回復も使いこなせるかというと全員がそういうわけでもなく、一般的には得意とされる属性は五属性のうちの攻撃か回復、となることも多い。
魔法の才に優れた者は多属性を得意とするが、それでも上位魔法まで使いこなせるのは三属性もあれば国でも重宝され、一生食べるのに困らないらしい。
また、王族には二属性持ちも多く、光と水、若しくは風を得意属性とする者がよく生まれるようだ。
魔力量も人それぞれであり、魔法として現象を起こせないほど少ない者もいるが、殆どの人間の体内には魔力自体は流れており、それを利用して生活を豊かにする道具も日々開発されている。
昨日のレオナードの言葉を思い出した。
彼は悠理のピアスにあたたかい魔力を感じたと言ったが、魔法についてもっと自分の知識が増えれば、それもわかるようになるのだろうか。
読み終えた本を棚に戻したところで、マリーから昼食の準備が出来たと声がかかった。
(…美味しいからつい食べちゃうけど、私ここに来てからまともに動いてないな…これは…太る…)
以前は自転車で通学していたし、体育の授業もあった、カラオケだってそれなりに体力を使った。
目が覚めてからはまだ二日だが、前の世界にいた時より一食の量も多い。
花も恥じらう乙女にとっては由々しき事態だ。
(しかしこのご飯を残すわけにはいかない…!!!)
美味しいのはもちろん、作った人に申し訳ない。
無理して詰め込んでいるわけではないし、どうにかして消費カロリーを増やそうと決意する。
実は呪いの影響でそう簡単に太ったり痩せたりしないのだが、悠理がそれを知るのはもっと先のことだ。
昼食はもちろん完食した。
「ユーリ様、この後はどうされますか?また書斎へ?」
「そうだなぁー、もし誰か手が空いてれば、屋敷を案内してもらいたいんだけど、みんな忙しいかな?」
悪あがきとわかっているが少しでも運動になることをしたい。
「まぁまぁそんなこと!このマリーがご案内させていただきますわ!」
「ありがとうマリー、よろしくね」
気休めですらなかった。
公爵邸自体は書斎一つとってもわかるように大変広いのだが、三階には上がってすらいない。
主人とその家族のプライベートエリアなので当たり前なのだが、せめて階段の昇り降りはしておきたかった。
二階は現在悠理が部屋を借りている階で、ズラリと並んだ扉も全て客間らしいので廊下の端から説明を受けて終わった。
残るは一階だが、玄関を入って右手の階段奥に書斎、左手側に食堂。
手前の方には応接間等があるとのことだ。
(色々知れるけど歩いてはない…)
悪あがきにすらならないと肩を落とす悠理だが、マリーの開けた扉の先にあるものを見てテンションが一気にあがった。
「…ピアノ…!」
応接間のように客が過ごす部屋だろうか、中央奥にグランドピアノが置かれ、他に暖炉やソファセットがある。
「ユーリ様、ピアノが弾けるのですか?」
「ちょっとだけ…、あの、触っても?」
「もちろんでございます」
音が大きすぎないよう屋根は開かず、椅子に座り高さを合わせる。
鍵盤にそっと指を乗せると、優しい音が響く。
よく手入れされていることがわかった。
(楽譜とか…もしかして書斎にあるかな…)
ピアノに触るのは久しぶりだ、指も動かないだろうし、今日はリハビリ程度に、楽譜がなくても弾けるものをいくつかリハビリ程度に楽しむことにする。
「マリー、案内ありがとう、今日行けなかったところはまた明日にでも教えてくれる?」
他に案内される場所があるかはわからないが。
「もちろんでございます、旦那様がお帰りになったらお声をかけに参ります、それでは」
マリーの退室を確認して、再びピアノに向き合った。
(あぁ、楽しい)
思っていた通り指は全然動かないが、自分の感じるように音を響かせるのは気持ちがいい。
つい歌いだしてしまう。
「…♪」
何曲か弾いて歌ったところで突然近くで拍手が聞こえ、椅子から腰が浮くほど驚いた。
「ユーリは歌もピアノも上手なんだね」
いつからいたのだろう、レオナードがソファに座っている。
「レオナード様…!」
「一応マリーがノックはしたんだよ?」
全く気が付いていなかった。
「おかえりなさいませ…すみません、お待たせしましたよね」
「うん、ただいま。帰ったのは本当についさっきだし、気にしないで。それよりも楽しそうなユーリが見れて満足だよ。朝食から夕食までの時間は、ここも好きに使っていいよ、それ以降は僕の予定に合わせてかな」
だからまた素敵な歌声と一緒に弾いて聞かせてねと微笑まれ、悠理は顔を赤くしながら小さく頷く。
微笑みが爆弾なのだ、ありがとうござい、ます!って感じだ。
三日で飽きも慣れもする気が全くしない。
「さて、それじゃぁ約束してた通り、魔法を教えてあげる、中庭へ行こう」
悠理さんが聖魔女になるきっかけさえも遠い…( ´° ³°`)
気長にお付き合いください。




