once upon a time 5
「僕は子供の頃、身体が弱くてね」
夕食を終えて、談話室なる場所でソファに腰掛け、グラスを傾けながら突然レオナードがそう口にした。
悠理は食堂で2杯ワインを飲み、今は温かい紅茶を出してもらっている。
「成人するまで生きられないのではないかと言われていたんだ」
抱いていた疑問がひとつ解ける。
だから王位を弟が継いだのだろう。
「あ、だからって、今は元気だから王になりたい、みたいなことはこれっぽっちも思ってないからね?」
王都では今も病弱だと思われているだろうしね、と笑うが、領地をもつ公爵がそれでよいのだろうか。
「僕が余り出しゃばると、かえってよくないんだよね、要らない事を言う人達が騒いじゃって」
だから社交のハイシーズンであるはずのこの季節でも領地を離れることは少ないらしい。
といってもフォルティナ領は王都のすぐ近くにあるので、どうしても外せない夜会だけは出るのだと、「ホントは行きたくないけど」と苦く笑いながら続けた。
「…どうして私にそんな話を?」
知りたいとは思っていたが、こちらから聞くべきだとは思っておらず、話題にしなかった。
「ユーリの事を知りたいからかな」
「わたしのこと」
魔力や転移についてだろうか。
しかし勘違いをさせる物言いである。
「そう、例えば、好きなことや、好きな物とか…あ、誕生日はいつ?」
何を聞かれるのかと身構えたら、小学生のプロフィール交換かよと思うもので少し肩の力が抜ける。
ちなみに、内容はまるで小さな子供のやりとりだが、前のソファに座るレオナードはアルコールによって白い肌を薄桃色に、特に目尻と頬は朱をさしたように濃く染め、切れ長の瞳は普段の冷たくも見える強い光を覆い隠すように潤み、その滴り落ちそうな色気に、悠理はだいぶ前から直視できないでいる。
(なんだこの…これは…!!試されている…!?)
誰に何を試されるというのか。
初めて彼女と2人きりになった高校生男子のような自問自答を心の中で繰り返している。
「…誕生日は…11月7日です」
答えておいてなんだが、暦の概念は同じなのだろうか。
しかし今はそんなことどうでもいい、聞かれたことに答えた自分を褒めたい。
「僕のすぐあとだ、それじゃぁ、今年はここで一緒にお祝いしようね、僕は祝ってもらう歳でもないけど」
一年の概念はほぼ同じと考えてよさそうだが、そうだとすれば今が白夜の季節、二人の誕生日はまだ半年ほど先の話だ。
それまでここにいることが決まっているような口調に、少しだけ戸惑う。
悠理の心を知ってか知らずか、質問は続く。
「それじゃ、好きなものは?宝物はある?」
ローテーブルにグラスを置いた手をつい目で追ってしまい瞠目した。
普通に座っているのが気怠いのか、だらしなくソファの肘置きに体重を預け、整えられた爪のついた長い指先が細いリボンを解いてシャツの襟元を緩める瞬間が、バッチリ脳内に焼き付けられる。
(刺激が強すぎるんだが!?………えっ、素数?素数を数えればいい???)
思考回路はショート寸前だが、ここは素直な気持ちを口に出した方がごめんなさいだろう。
「……えーと…宝物ですか…宝物………天体望遠鏡ですかね…」
素数を数えることで落ち着くと言っていた神父に感謝した。
「てんたいぼうえんきょう?」
「あの、星が、好きなんです、それで、星をね、よく見るための道具が、あったんですけど」
さっきよりはマシなだけで、落ち着いてはいないのだが。
「へぇ、そんな道具があるのかぁ、でもこの国では冬しか使えなさそうだね」
「そうかも、しれませんね。あとは…」
耳に触れる。
「ピアス、ですかね…おばあちゃんのくれた…」
両親から愛情を注がれた記憶は殆どなく、関係は希薄だったが、祖母は違った。
本当に父と親子か?と疑いたくなるほど感情表現が豊かでおおらかな人で、そして悠理に優しかった。
高校の入学式の前日に思い立って開けたピアスも怒ることなく「いいじゃない!」と笑ってくれて、ホールが落ち着く頃に瑪瑙のピアスを贈ってくれた。
大切な形見だ。
「あぁ、その耳飾りか。ユーリが寝ている時に少し見せてもらったけど、あたたかい魔力を感じたよ」
なんだって???????
そんなわけはない。
祖母にはというか、悠理のいた世界に魔力なんてなかった。
(って言うか待って?寝てる時に見たってなに??どういうこと??)
どんな顔をしたらいいか、わからない。
とりあえず、へらっ、と笑っておいた。
「ユーリは、家族を置いてきてしまったんだよね、さみしくはない?」
視覚も聴覚もオーバーヒートするとかえって冷静になるらしい。
すんなりとレオナードの次の質問に答えられた。
「祖母は亡くなっていますし、両親は、そもそも私がいなくなったことに気付くかもわかりません、兄弟もいませんでしたし」
きっと自分がいなくなったことに最初に気づくのは鈴木さんだろう。
そして次におかしいと思ってくれるのは、ただ一人の親友。
血の繋がりなんてものは、薄っぺらいものなんだなぁと改めて思う。
「そうなんだね、じゃあやっぱり、僕がきみの兄になろうかな」
寂しいなどと言っても思ってもいないので、「じゃあ」も「やっぱり」も今までの会話の何処に繋がっているのかさっぱりわからないし、言われるままにレオナードのことを信用して身を預けてよいのだろうかという考えも消えたわけではないが、それならそれでいいか。と思い始めていた悠理に、ダメ押しの一言が足された。
「僕は外ではお酒を飲むなと言われてて、かと言って使用人を付き合わせるわけにもいかないから、だからこうやって、たまに付き合ってくれると嬉しいなぁと思うんだけど、こんな風に甘えられたらユーリは嫌かな?」
(外で飲酒禁止を言いつけた人、GJ)
禁止理由はどう見てもこのダダ漏れの色気だろうが、悠理はなんだか自分が特別扱いされたように感じて、最悪レオナードが極悪人でもまぁいいか、それが女神の采配だしな。と、気楽に考えることにするのだった。
次回魔法についてのお話です⸜( ´ ꒳ ` )⸝♡︎




