once upon a time 3
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マリーが開けたドアから入ってきたのは、化粧を施して黙っていれば女性と見紛いそうな、中性的な美しさを備えた青年だった。
あまり日に焼けていない白い肌、
宝石のガーネットをはめ込んだような切れ長の瞳、
癖の無さそうな黒髪は天使の輪が見えるくらいツヤツヤしている。
男性にしては少し細身な気がするが、悠理はこちらの世界でまだ彼以外の男性を見ていないのでわからない。
「こんばんわ、初めまして、…出直した方がいいかな?」
初めて見た隙のないイケメンに目を奪われていると、再び穏やかな声がかかる。
「あっ、いえっ、いえ、私こそ、すみません、こんな姿で…あの、もしよろしければ、お話をさせていただきたいのですが」
「もちろんだよ、そちらへいっても?」
ほぼ寝起きでベッドサイドにイケメンがくるなどと。
しかしこの寝間着で全身を晒す勇気もない。
三日間寝ていてシャキッと立ち上がり歩ける自信もない。
「…キテイタダイテ、ダイジョウブ、デス」
青年はマリーが急いで用意した椅子に腰掛け、
「改めて、初めまして。僕がこの屋敷の当主である、レオナードだよ」
家名を省いて簡単すぎる自己紹介をした。
「…悠理です、行き倒れていたところを助けていただいたようで、ありがとうございます、本当に」
経緯も理由もわからないが、意識の途切れたタイミングを考えるとこの青年は命の恩人と言っても過言ではないだろう、悠理は座ったまま深々と頭を下げる。
「あはは、いやぁ、ビックリしたよ、三日前の朝、女神の使徒を名乗るすごくキレイな女性から突然、“領地内の湖で救う女が貴殿を幸せにするだろう”とか言われてね」
一応送り先への根回しをしてくれていたようだ、目の前のイケメンを幸せにする力が悠理にあるかどうかは別として。
しかし流石女神、使徒さえも美しいのかと関係ないところで感心した。
実は使徒ではなく女神自身なのだが、それを悠理が知ることはない。
「最初は放っておこうかと思ってたんだけど、この時期は獣も魔物も出るからさ、もし本当にそんなところに女性がいたらまず間違いなく狙われるだろうし、跡形もないならまだしも、頭とか手足の末端とか、わかりやすいとこ食べ残されちゃうと困っちゃうよね、領民も怖がっちゃうし」
眉尻を下げて苦笑するレオナードは愛らしさも加わって大変に美しいが、手放しに喜べない言葉が並んだ。
獣はわかる、熊の被害は日本でも毎年聞くし昔は人喰いと言われる熊もいたそうだし、豊かな自然があるなら狼だっていてもおかしくない。
魔物。
魔法のある世界ならば、魔物がいてもおかしくはないだろうが、そんな身近にいるものなのか。
(人間とわかるとこ食べ残すとか言ったな…グルメなのかな…?)
どうでもいいところが気になるのは置いといて、話の通りならばレオナードは悠理にとってまさしく命の恩人ではないか。
「……ほんとうに、ほんとうに、ありがとうございます」
「うん、何事もなくてよかったよ。ところで、ユーリ嬢は見つけた時、見たことない服を着ていたんだけど、きみは一体どこから?」
(そうなりますよね!!)
根回しの詰めが甘いことを恨みながら、悠理はどう切り抜けるか思案する。
「どこから……」
「なんなら、きみは意識を失っていたけど、空から降ってきたんだよ」
金曜の夜にテレビで見たことあるやつだ。
親方ー!っていう、あの、名作。
それも女神にとっての最近のお気に入りなのだろうか。
(キャラクターの関係性が物語の通りならこの人は信じてもいいんだけどなぁ)
目玉焼きを乗せたパンとか教えてくれたら手放しで信じてしまいそうだ。
「だから僕らは、きみが聖女なのかな?って勝手に思ってるんだけど」
どうかな?と首を傾げると、頭の下の方でひとつに結ばれ肩にかかっていた髪の房がするりと動いた。
レオナードは一見冷たい印象を与える自分の美貌を知っているのか、声や仕草がどことなく可愛らしく、その冷たさを和らげている。
正直に言って、悠理の好みド真ん中だ。
「………自分がそんな大層なものだとは思えませんが、お察しの通り、こことは別の世界に生きていたと、思います」
事故により死にかけたところを偶然女神に拾われたこと、
女神との会話から自分の中にも多少の魔力はあるだろうがこの世界についてなにも知らないことを、
祝福や呪いについては伏せて話した。
「私に特別な力があるかどうかは、こちらの人々の普通を知らないのでわかりません。それから、レオナード…様…、に、幸せをもたらすかどうかも、正直言ってわかりません」
「なるほどね…、ユーリ嬢…んー、ユーリと呼んでも?」
首肯する。
「ユーリは、これからどうしたい?」
身の振り方という事だろうか、それを決めるには情報がなさすぎる。
悠理がひとまずの答えを考える間、レオナードは表情を変えることなく待っていてくれた。
「…叶うのであれば、まずはこの世界について、魔法について、勉強をしたいです、目覚めてすぐ言語によるコミュニケーションがとれていますし、本も読めると思います、図書館的なものがあればそこへ行きたいです」
祝福によって、悠理はそれだけで大量の知識を得られるはずだ。
「ふむ。ねぇユーリ、ベッドの寝心地はどうだい?」
想像していなかった質問だ。
言うことを聞かなければベッドから固い床で寝ることになるとかだろうか。
悠理の警戒心が少し強くなる。
「……とても、気持ちいいです、三日間一度も目覚めないくらいには」
「ふふっ、よかった、それじゃ、マリーはどう?食事の味は?着ている服は?」
矢継ぎ早に聞かれて、警戒より戸惑いが勝ってきた。
「えぇと…、マリーさ…マリーは、懐かしい人に少し似ていて、優しくしてくれました。いただいたスープはとても美味しかったです、まだ食べてる途中ですけど…。服は…えー…と…自分では…着ないタイプですけど、肌触りはとてもいい…です…」
頭の上にいくつかはてなを浮かべながら素直に答える。
「そうかそうか」
うんうんと満足気に頷くレオナード。
「ユーリがよければ、しばらくここにいるといい。きみの知りたいことはこの屋敷の書斎である程度まかなえるだろうし、他に学びたいことがあるなら家庭教師もつけてあげる。部屋もこのまま使ってくれてかまわない、使いにくければ別のとこでもいいしね、掃除させるよ。」
「それは…ご迷惑では」
そんな借り、返せる自信が無い。
「部屋は余ってるから問題ないよ。僕としても、不思議な女の子に興味があるし、妹ができたみたいで嬉しいんだ、髪の色も同じだし。」
そう言いながらレオナードは自分の黒髪を弄ぶ。
実に様になる。
「それに、行くあてもないだろう?」
それは間違いなくそうだ。
女神の使いは他の誰かの所には行っていないだろう。
今の悠理は、獣にも、魔物にも、人間にも、勝てないことは容易に想像がつく。
それでも答えを返せずにいると、レオナードはベッドに両肘をついて体重をかけ、悠理の顔を下から覗き込んだ。
「だめかなぁ?僕みたいな兄は、嫌?」
これがあざと可愛いというものだろう、さっきまで考えていた難しいことは一瞬で消え、心の中で白旗が上がったのがわかった。
「ぐっ…よろしくお願いします」
身を起こし、嬉しそうに笑ったレオナードに右手を差し出される。
「うん、よかった、これからよろしくね!改めて、僕はレオナード・アルテイア・フォルティナ。フォルティナ領を治める公爵だよ」
「………こうしゃく」
それは臣民に与えられるものか、それとも。
「そう、現国王陛下の兄だからね、公爵位」
後者だった。
早くゆーりさん溺愛させたい。
先は長そう。




