第2章「迷宮の主、覚醒」 第9話「餌と誘導」
石板の前に立ち、改めて全体を見渡す。
――このダンジョンは、九十九階層。
そして、今いる場所が最下層。
だが。
「……百階、あるはずなんだよな」
設計としては、もう一つ下がある。
だが、どこにも見当たらない。
さっき、隅々まで探した。
広い大広間。
コントロールルーム。
そして、上へと続く階段。
それだけだ。
「……隠し、か?」
あり得る。
だが、今は分からない。
「……あとで探すか」
ひとまず保留にする。
今、やるべきことは――
運営だ。
俺は石板に手を置いた。
視界が開ける。
各階層の様子が、流れ込んでくる。
「……いるな」
一階。
三人組と、四人組。
二階、四人。
三階も四人。
そして――
「……七階にもいるのか」
四人パーティ。
ずいぶん、飛んでいる。
普通は順番に降りていくはずだが――
近道でもあるのか、それとも実力か。
「……なるほどな」
その時、ふと理解する。
なぜ、奥へ進むほど強くなるのか。
なぜ、最初は弱い魔物しかいないのか。
「……餌、か」
思わず口に出る。
弱い敵。
簡単に勝てる戦闘。
成功体験。
油断。
期待。
――もっと奥へ。
自然と、そう思わせる。
「……うまくできてるな」
感心すらする。
気づけば、自分もその構造の中にいる。
いや。
これからは――作る側だ。
視線をエナジーメーターへ向ける。
ほとんど、空。
「……少なすぎるな」
竜を倒した分が加算されているはずだが、それでも余裕はない。
無駄遣いはできない。
「……なら」
狙いを定める。
七階。
あのパーティ。
少し強そうだが、まだ余裕がある。
ちょうどいい。
「……ここだな」
空間を指定する。
通路の先。
自然に見える位置。
そして――
「宝箱」
イメージする。
宝石。
光。
報酬。
それが、そこに“現れる”。
「……よし」
設置完了。
エナジーは、ほぼ空になる。
だが――
効果は、すぐに出た。
七階のパーティが、宝箱に気づく。
「おい、あれ見ろ!」
「マジかよ、宝箱じゃねぇか!」
「しかも宝石付き!?当たりだろこれ!」
声が、聞こえる。
「……音も拾えるのか」
石板の一部を軽く操作する。
視点。
音量。
距離。
調整できる。
「……便利すぎるな」
パーティは、迷うことなく近づく。
警戒はしているが――
開ける。
中身を確認する。
そして。
「うおおおおお!!」
「当たりだ!すげぇ!」
「今日はツイてるな!」
歓声。
笑顔。
完全に、成功体験。
「……食いついたな」
思わず小さく笑う。
そして、彼らは立ち止まる。
「……どうする?一回戻るか?」
「いや……もう少し行けるだろ」
「だよな、他にもあるかもしれねぇし」
迷い。
選択。
「……戻れ」
思わず呟く。
いや、念じる。
ここで帰れば、安全だ。
だが――
「……あー、でも全部見てからでもいいか」
「せっかくだしな」
「他にも絶対あるって!」
決まった。
進む。
「……だよな」
苦笑する。
分かっていた。
そうなることくらい。
餌を与えれば、もっと欲しくなる。
それが、人間だ。
そして――
それを利用するのが、ダンジョンだ。
「……でも」
エナジーメーターを見る。
ほぼ、ゼロ。
「……もう、何もできないな」
肩をすくめる。
今は、見ているしかない。
「……残念だが、無理だよ」
独り言が、静かに部屋に響いた。
だが、目は石板から離さない。
観察する。
学ぶ。
どう動くのか。
どう誘導されるのか。
それが――
これからの武器になる。




