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奈落に落とされたが、そこは俺の領域だった  作者: 忍絵 奉公


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第10話「補給と変化」


 石板の前で、しばらく動かなかった。

 丸一日。

 体感で、それくらいは経った気がする。

 だが――

「……増えねぇな」

 エナジーメーターは、ほとんど動いていなかった。

 ほんのわずかに、増えている気はする。

 だが、誤差みたいなものだ。

「……これじゃ運営どころじゃないな」

 呟いた瞬間。

 ぐう、と腹が鳴る。

「……腹、減ったな」

 現実的な問題が、突きつけられる。

 食料。

 さっきまでは、カニがいた。

 竜もいた。

 だが――

「……あれ、どうなった?」

 ふと思い、立ち上がる。

 あの広間へ向かう。

 竜の死体。

 あれなら、しばらくは困らないと思っていたが――

 足を止める。

「……は?」

 何もない。

 広間には、ただの空間が広がっているだけ。

 さっきまであったはずの、巨大な竜の死体が――

「……消えた?」

 思わず呟く。

 カニの時と同じだ。

 残らない。

 何もかも。

「……まずいな」

 空腹が、現実味を帯びる。

「ダンジョン運営とか言ってる場合じゃねぇぞ……餓死するな、これ」

 軽く笑うが、笑えない。

 このままじゃ、本当に危ない。

 俺は急いでコントロールルームへ戻った。

 そして――

「……なんだ、これ」

 目を見開く。

 人が、増えている。

 一階、三十五人。

 二階、二十人。

 三階、十二人。

 四階、八人。

 五階、四人。

 六階、四人。

「……一気に来たな」

 昨日とは、比べ物にならない。

 明らかに異常な増加。

「……あの宝箱か」

 すぐに察する。

 七階のパーティ。

 あいつらが、持ち帰った。

 そして――

 話した。

「当たりがあった」ってな。

「……なるほどな」

 ニヤリと笑う。

 これが“噂”の力か。

 餌を一つ撒けば、勝手に人が集まる。

「……いいじゃねぇか」

 視線をエナジーメーターへ向ける。

 昨日より、確実に増えている。

 微々たるものだが――

 ゼロじゃない。

「……来てるな」

 運営として、成立し始めている。

 その時だった。

 ガチャン。

 背後から音。

「……?」

 振り返る。

 そこに――

 ドアがあった。

「……は?」

 昨日は、なかった。

 間違いない。

 壁だった場所に、扉がある。

「……なんだよ、これ」

 警戒しながら近づく。

 手をかける。

 開ける。

 軋む音とともに、扉が開いた。

 中は――

 階段。

 下へ続いている。

「……まだ下があるのか?」

 思わず呟く。

 だが、考えても仕方ない。

 降りる。

 一段ずつ。

 慎重に。

 そして――

「……は?」

 そこは、まったく別の空間だった。

 部屋。

 ベッド。

 キッチン。

 生活空間。

「……なんだ、ここ」

 意味が分からない。

 だが――

 助かる。

 そう直感した。

 奥に、大きな箱があった。

 取っ手付き。

 開ける。

 ひんやりとした空気が、流れ出す。

「……冷えてる?」

 中を見る。

 肉。

 野菜。

 少量だが、確かにある。

 そして、見慣れない瓶や粉。

「……調味料か?」

 分からないが、使えそうだ。

「……助かった」

 本音が漏れる。

 迷う理由はない。

 俺は肉と野菜を取り出し、キッチンへ向かった。

 火をつける。

 なぜか、やり方は分かる。

 焼く。

 炒める。

 音が弾ける。

 匂いが立つ。

「……いいな、これ」

 出来上がったものを、そのまま口に運ぶ。

 熱い。

 だが――

「……うまい」

 思わず笑う。

 カニとも、竜とも違う。

 普通の味。

 だが、それがいい。

 安心する。

 腹を満たす。

 それだけで、こんなにも違う。

「……はぁ」

 満足して、息を吐く。

 そのまま、ベッドへ。

「……少し、休むか」

 横になる。

 柔らかい。

 意識が、すぐに沈む。

 ――そして。

 目が覚めた。

「……」

 天井を見上げる。

 どれくらい寝た?

 分からない。

 時間の感覚が、ない。

「……まぁいいか」

 体は軽い。

 問題ない。

 起き上がる。

 そして――

 コントロールルームへ戻る。

 今度は。

 何が変わっているのか。

 それを、確かめるために。


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