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奈落に落とされたが、そこは俺の領域だった  作者: 忍絵 奉公


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85/86

第85話「さよならの刀」


 アクアは地面に穴を掘る。

 静かに。

 黙々と。

 その横には。

 折れた刀。

 十五年間。

 ずっと一緒だった。

 アクアが刀を見つめる。

「世話になったな」

 土の中へ置く。

 手を合わせる。

 合掌。

「ありがとう」

 少し沈黙。

「さよなら」

 土をかける。

 静かだった。

 ユウも隣で手を合わせる。

 ミーちゃんまで。

 前足を揃えて座っていた。

「にゃ」

 アクアが少し笑う。

「お前も挨拶してんのか」

 その後。

 ユウとミーちゃんは馬車へ戻った。

 ふかふかのベッド。

 ユウがミーちゃんを抱える。

「寝よっか」

「にゃー」

 すぐ眠った。

 だが。

 アクアだけは眠らない。

 ファイヤーベアの毛皮。

 岩へ広げる。

 木の棒。

 バシッ!!

 叩く。

 バシッ!!

 また叩く。

 延々。

 夜が明けても。

 まだ続けていた。

 早朝。

 ユウが目を覚ます。

 バシッ!!

 バシッ!!

 まだ聞こえる。

「えぇ……」

 馬車から顔を出す。

 アクア。

 返り血まみれ。

 目の下クマ。

 無心で皮を叩いていた。

「もういいでしょ……」

 ユウが苦笑する。

 アクアが振り返る。

 その顔を見て。

 ユウが固まる。

 まだ泣いていた。

「うぅぅぅぅ……」

 ポロポロ。

 涙。

 ユウが慌てて近づく。

「そんなに!?」

 アクアが鼻をすする。

「俺が油断した……」

 ユウ。

 もう笑うしかない。

 だが。

 そのまま優しく抱きしめる。

「よしよし」

 頭を撫でる。

「よしよしアクア」

 アクア。

 少しずつ落ち着く。

 ユウは思う。

 かわいい。

 頼れる。

 でも時々すごく変。

 そして。

 愛おしい。

 たまらなく。

 アクアがようやく泣き止む。

「……ふぅ」

 切り替えが早い。

 突然立ち上がる。

「朝飯食うぞ!」

 ユウ。

「元気になった」

 アクアが馬車から肉を出す。

 ファイヤーベア肉。

 分厚い。

 網へ置く。

 ジュゥゥゥ……

 脂。

 香り。

 塩をパラパラ。

 シンプル。

 だが旨そう。

 焼けた。

 切る。

 食う。

「……お」

 アクアが少し驚く。

「意外と旨い」

 ユウも食べる。

「ほんとだ!」

 臭み。

 少しある。

 だが。

 それが癖になる。

 珍味。

 濃厚。

 野性味。

 噛むほど旨い。

 ミーちゃんにも小さく切ってやる。

 パクッ。

 もぐもぐ。

 そして。

「ニャー!」

 アクアが笑う。

「気に入ったか」

 ミーちゃん。

 アクアの膝へ乗る。

 当然のように座る。

 アクアが撫でる。

 少し考える。

「……一緒に行くか?」

 ミーちゃん。

「ニャー」

 返事したような。

 してないような。

 ユウが笑う。

「もう仲間だね」

 アクアも苦笑。

「まぁいいか」

 こうして。

 黒猫ミーちゃんは。

 旅の仲間になった。

 朝日。

 豪華な馬車。

 ユニコーン。

 そして。

 新しい旅。

 アクアは地図を開く。

「行くぞ」

 ユウが元気よく手を上げる。

「おー!」

 ミーちゃん。

「にゃー!」

 馬車が走り出す。

 北へ。

 まだ見ぬダンジョンを目指して。



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